川崎汽船は、海運業を主軸とする物流企業として、人々の豊かな暮らしに貢献することを企業理念に掲げ、事業活動を行っています。その理念達成の前提は「安全で最適なサービスの提供」であり、それを成し遂げるためには事業に関わる個人が常に心身の健康を維持し、持てる能力を最大限に発揮していくことが求められます。健康こそが個々人の幸福の源であるとともに、当社グループの理念実現に不可欠であると考えます。当社は、グループ社員の一人ひとりの健康がすべての出発点であるととらえ、健康保険組合、労働組合、診療所(産業医)とともに協力しながら、社員の健康維持・増進に全力で取り組んでいきます。
常務執行役員
CHRO 玉置 伸哉
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重点項目 |
目標 |
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定期健康診断受診率 |
100% |
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ストレスチェック受検率 |
90%超 |
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月間法定時間外労働 |
30時間未満 |
人事グループが主体となり、2025年度末までに上記項目に取り組んでいきます。
労働災害事故の撲滅は、安全、経済運航の根幹を成すものであり、各人の安全意識を向上するために、安全体感研修や危険予知訓練を通じて船上での安全確保に努めています。また、ニアミスレポートなどで、事故に至らなかったものの潜在的な危険性のあった事象を拾い上げ、これをフィードバックすることで、今後の安全運航に役立てる取り組みを行っています。
また、2006年海上労働条約(MLC2006)は、国際労働機関(ILO)により2006年2月に採択された海上で働く船員に対する包括的な国際労働条約であり、この条約には船員の基本的権利4項目が明記されています。
- 結社の自由及び団体交渉権の実効的な承認
- あらゆる形態の強制労働の撤廃
- 児童労働の実効的な廃止
- 雇用及び職業についての差別の撤廃
当社フリート船では、この条約を遵守することで、船員の基本的権利を侵すことのないよう努めています。
職場の安全衛生と従業員の心身の健康保持増進を図るとともに、労働安全衛生法に基づく衛生委員会の機能を果たすために、CHRO(Chief Human Resources Officer、最高人事責任者)を議長とする健康管理委員会を設置しています。同委員会で審議、報告された事項は、定期的に取締役会および執行役員会へ報告し、情報の共有を図っています。
海上においては、法令に基づいて、安全衛生に関する支援体制を整備しています。
陸上に船員安全衛生委員会、船上に船内安全衛生委員会を設置、関係部署および管理会社と連携を取りながら安全衛生関連業務を推進しています。
船員安全衛生委員会では、船内における作業環境および住居環境、危険または健康障害を防止するための対策、船員災害の原因および再発防止対策、安全衛生に関する教育などについて、調査審議しています。
当社は船員労働災害防止優良事業者(一般型1級)認定を、2008年に外航船社として初めて国土交通省より取得し、現在まで継続して認定を受けています。
当社は、経済産業省と日本健康会議が共同で実施する、優良な健康経営を実施している企業を顕彰する制度である健康経営優良法人認定制度において、6年連続7回目となる「健康経営優良法人2025」の大規模法人部門にて認定を受けました。
健康診断については、年1回の受診を従業員に義務付けるとともに、2回目の受診を希望する従業員に対しても費用の補助を行い、従業員の健康管理を積極的に支援しています。また本社オフィスでは診療所を設置しており、社内での健康診断を実施しているほか、体調が優れない場合は、社内で医師の診療を受けることが可能です。さらに、疲労回復のためヘルスキーパー(マッサージ)を利用することもできます。
年に1回、社内会議室を利用して、歯科健診を実施しています。
メンタルヘルスケアの一環として、従業員自身で心の健康状態を管理できるインターネットによるストレスチェックプログラムを取り入れ、ストレス耐力の向上に役立ててもらっています。また、毎年川崎汽船本社において、役職員向けメンタルヘルスセミナーを開催しております。さらに、当社では、本社診療所での専門医によるメンタルヘルス相談に加えて、社外相談窓口としてEAP制度(Employee Assistance Program)も導入し、従業員の心身のケアにおいて、多方面からのサポート体制を取っています。
厚生労働省が民間企業と連携して推奨する「がん対策推進企業アクション」の推進パートナーに加入し、全従業員を対象に「がん予防と両立支援について」のe-Learningを実施しました。受講者のアンケートからは、がんについて知らなかったことが学べた、検診に行こうと思ったなど、意識の高まりが見られました。
従業員の健康管理促進と健康意識の向上を目的として、定期的に健康測定イベントを開催しています。推定野菜摂取量や血管年齢の測定をはじめ、栄養士との相談コーナーも設けられており、参加者は健康に配慮したメニューのアドバイスや、栄養観点からの健康相談を受けることができます。
川崎汽船健康保険組合被保険者である従業員とその家族を対象として毎年開催しています。会社の友人や同じ部署の同僚と励ましあい、また家族揃って平均歩数目標に達成に向けてチャレンジするなど、日々楽しみながら運動習慣を付けられる取り組みです。
長時間労働を改善するために、管理職向けに過重労働と健康との関係についての研修を実施し、過重労働の防止強化を進めています。労働時間の管理については、時間外労働がある一定時間数を超過すると自動的に所属上長宛にメールが届き、部下の長時間労働がタイムリーに把握され、業務負荷の軽減などの迅速な対応が行える仕組みとなっています。また、従業員ごとの時間外労働実績を日々管理し、全社における時間外労働時間の上位者に対しては、必要に応じて所属上長や本人にヒアリングを行うなど、長時間労働の抑制に努めています。さらに部門ごとの平均時間を執行役員会へ毎月報告することで、経営層と一体となったより効果的な改善策へつなげる一助としています。
海外赴任前には、従業員や帯同する家族の健康診断や予防接種の受診サポートに加え、緊急医療支援サービス会社と提携し、赴任後も海外で勤務する従業員とその家族に対する医療支援を行っています。
当社では、新型インフルエンザ等が発生したときにも事業を継続できるように、「新型インフルエンザ等対策業務計画」を策定しています。
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川崎汽船株式会社「新型インフルエンザ等対策業務計画」
(115KB)
船内では、毎朝作業前のミーティングを行い、労働災害防止に努めています。また、船内作業管理委員会を毎月開催し、船内での作業に関して危険のないよう準備をしっかりと行うことを徹底しています。「安全監督だより」を定期的に全船に配信し、労働災害や安全、衛生面の注意喚起を行っています。
また、海事技術者に対しては、安全衛生関連研修の受講を定めています。
海上での過重労働防止についても、労務計画立案システムを導入し、過重労働とならないように仕事量と人員の適正な負荷分担を考慮するとともに、運航スケジュールを考慮し、必要に応じて増員するなど、無理のない運用に努めています。また、規定の労働時間を超え疲労の蓄積がある船員には、産業医によるオンライン面談を行える体制を構築しています。
航海中は陸上医療施設で受診できないため、海事技術者が心身ともに健康であることは非常に重要です。乗船前には必ず健康診断を受診させるとともに、法定項目以外の項目も年に1度、受診することを義務付けています。
受診データは会社で確実に記録し、各海事技術者の健康状態の把握に努めています。海事技術者のメンタルヘルスについては、年1回のストレスチェックの実施、社外有資格者による研修受講体制のほか、安全監督からの定期的な情報発信および当社産業医と連携する体制を取っています。
海事技術者全体の安全衛生向上のため、海事戦略グループに安全監督を配置しています。安全監督は寄港地で訪船し、安全管理や健康管理について、指導を行っています。さらに訪船時には、安全指導のほか、個人面談によるメンタルヘルスケアも実施しています。
海事技術者が海上勤務する際、通常の職場とは異なり、船上での生活は閉鎖的となります。また乗船すれば通常6ヶ月の船上勤務となるため、特に下船後は、船上での生活、人間関係その他本人たちが感じたあらゆることについて、担当者による電話インタビューを必ず実施しています。また必要があれば、対面でのインタビューを実施しています。このような取り組みにより、海事技術者の不安を和らげることはもちろん、会社も現場の状況把握に努めています。
乗船中の海事技術者は最重要任務となる安全運航の維持に加え、本船の入出港に伴う諸手続きなど、多くの事務作業も担っています。その業務負荷を軽減するため、当社では本船のIT化、デジタル化に取り組んでおり、すでにITの高度化に対応した高スペックのパソコンの本船への搭載や、大容量のデータ通信が可能な通信インフラの導入が進んでいます。
安全で健康的に働ける快適な職場環境を実現するため、労働安全衛生マネジメントシステムの国際規格である「ISO45001」の認証を取得している当社グループ企業は以下の通りです。
関係会社278社中、1.1%にあたる3社が取得しています。(2024年12月末現在)
・K Line Container Service (Thailand) Ltd.
・Bangkok Cold Storage Service Ltd.
・ "K" Line Logistics (Australia) Pty Limited
従業員のワーク・ライフ・バランスの向上と生産性向上を目指したさまざまな取り組みを行っています。
当社では、対面コミュニケーションの重要性に加えてワーク・ライフ・バランスや仕事と家庭の両立支援の観点から在宅勤務の有効性を認識しています。コミュニケーションツール導入、エンドポイントセキュリティ強化、ネットワーク回線増強などを通して、安全かつ円滑な在宅勤務を実現するためのITインフラ・セキュリティ基盤を整備しています。
また、オンライン会議やハイブリッド会議の効率化を図るため、会議室へのオンライン会議用設備の増強、執務エリアのディスプレイ増強やオンライン会議ブースの設置など対面とオンラインのシームレスな連携を可能にする環境を整備しました。さらに、デジタルホワイトボード、インタラクティブプロジェクタ、タッチパネル式PCなどの導入により、アナログの自由な発想とデジタルの効率的なデータ保存・検索性を融合させた、新しいワークスタイルの模索にも取り組んでいます。
船上勤務においても働き方改革を推進し、情報・業務プロセスおよび船舶のデジタライゼーションを一層強化することで、陸上-船上間のタイムリーな情報連携を実現するとともに、船員が安全で働きやすい環境を整えることで、より品質の高い海上輸送の提供につなげていきます。
会議室やコラボレーションスぺース等への最新デジタル機器の導入を進める一方で、それに留まることなく、デジタルを活用した業務プロセス見直しのPDCAサイクルを現場起点で常に回し続けています。多くの部門でRPA*1化やMicrosoft Power Platformを活用した市民開発*2が広がり始め、定型業務の自動化を着実に実現しています。また社内でセキュアに利用できるChatGPTの活用、生成AIを用いた社内データの活用により、情報収集・分析、報告書作成などの業務効率化を進めています。
*1 Robotic Process Automationの略で、作成したシナリオに基づいて動作するロボットによる業務の自動化
*2 プログラミングのスキルを持たない社員がシステム開発を行うこと
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項目 |
単位 |
2022年度 |
2023年度 |
2024年度 |
|
|
ストレスチェック |
ストレスチェック受検率 |
% |
88.0 |
92.1 |
97.0 |
|
ワークエンゲージメントと高ストレス者率 |
総合健康リスク ※1 |
‐ |
84 |
82 |
87 |
|
高ストレス者の割合 ※2 |
% |
9.4 |
8.8 |
8.5 |
|
|
ワークエンゲージメント ※3 |
点 |
2.6 |
2.6 |
2.7 |
|
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プレゼンティズム ※4 |
点 |
4.1 |
4.0 |
4.0 |
|
|
年次有給休暇の取得 |
年次有給休暇平均取得日数 |
日 |
9.9 |
10.1 |
10.1 |
|
7デイズ・バケーション平均取得日数 ※5 |
日 |
4.8 |
4.9 |
5.3 |
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時間外労働の抑制 |
法定時間外労働時間(月平均) ※6 |
時間 |
6.8 |
7.4 |
7.5 |
|
健康診断 |
受診率 |
% |
99.7 |
99.8 |
99.8 |
※1「仕事の負担(量)」「仕事のコントロール度」「上司のサポート」「同僚のサポート」の4因子の得点から導かれ、職場環境に起因して発生する健康リスクの度合いを数値化したもの。全国平均は100であり、数値が低いほどリスクが低下
※2「心身のストレス反応」「仕事のストレス要因」「周囲のサポート」について5段階評価に換算し、その平均点に基づき判定(全国平均は10%)
※3 仕事から活力を得て、仕事に誇りを感じ、従業員がいきいきと仕事をしている状態の指標「私は仕事を通して個人としての達成感を得ている」「私は当社を素晴らしい職場として知人にすすめると思う」という項目の回答を、そうだ=4点、まあそうだ=3点、ややちがう=2点、ちがう=1点として平均点を算出(全国平均は2.5点)
※4 何らかの心身の健康問題を抱えながら就業しており、生産性が低い状態。(5点満点で全国平均3.9点、数値が低いほど生産性が低い)
(※1~※4)新職業性簡易ストレス調査票より算出
※5 年度内に7日間を限度として取得できる法定外休暇
※6 正社員のみ、出向者および時短勤務者は除く
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項目 |
単位 |
2021年度 |
2022年度 |
2023年度 |
2024年度 |
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労働災害発生件数 (※1) |
件 |
0 |
1 |
1 |
1 |
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労災死亡事故発生件数 |
件 |
0 |
0 |
0 |
0 |
|
休業傷病発生件数 (※2) |
件 |
0 |
0 |
0 |
1 |
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休業災害度数率(LTIFR)(※3) |
- |
0.00 |
0.60 |
0.57 |
0.55 |
※1 通勤災害を除く
※2 業務上の負傷や業務に起因し、1日以上の休業を余儀なくされた負傷、疾病の件数
※3 (休業を伴う労災件数)/(延べ労働時間数)×1,000,000
対象:川崎汽船株式会社の陸上・海上従業員