気候変動の影響は顕在化し、災害の激甚化など社会が大きな物理的リスクにさらされることが懸念されています。
川崎汽船グループは、2020年6月にこれまでの「“K” LINE環境ビジョン2050」を振り返り、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が提言するシナリオ分析の結果を踏まえ、取り組むべき課題および目標の一部を改訂しました。さらに2021年11月には地球規模での気候変動対策を国際社会全体で強化すべき課題として捉え、より高い目標である「2050年GHG排出ネットゼロへの挑戦」を宣言しました。また、2022年5月公表の中期経営計画における長期ビジョンとして、持続的成長と企業価値向上に向けて、自社・社会のスムーズなエネルギー転換にコミットし、低炭素・脱炭素社会の実現に向けた活動を推進しています。
- TCFDフレームワークに基づく情報開示 (525KB)
当社はサステナビリティに重点を置いた経営を強化するため、2021年4月に従来の組織を発展的に改組し、サステナビリティ推進体制を刷新しました。「サステナビリティ経営推進委員会」は、社長執行役員を委員長とし、当社グループのサステナビリティ経営の推進体制の審議・策定を通じて、企業価値向上を図っています。また、2021年10月には、従来LNG燃料船・LNG燃料供給事業への取り組み加速と次世代燃料や新技術の検討を行っていた「代替燃料プロジェクト委員会」と、環境規制への技術面も含めた対応方針の施策を担っていた「環境・技術委員会」を発展的に統合し、新たに「GHG削減戦略委員会」を発足させました。これら二つの委員会のそれぞれが、戦略的議論の場として機能しています。「サステナビリティ経営推進委員会」の下部組織である「環境専門委員会」は「川崎汽船グループ環境憲章」および国際標準化機構(ISO)の規格に則って構築された「環境マネジメントシステム(EMS)」を機能的に運用するとともに、その他の環境に関わる活動を推進しています。
パリ協定では世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して、2℃より十分低く抑え、1.5℃に抑える努力を追求する長期目標が掲げられています。
パリ協定の精神に則り、国際海運においても、海事分野に関する国連の専門機関「国際海事機関(IMO)」により目標や対策が定められており、当社もIMOの方針に沿った形で事業活動に伴うGHG排出削減に取り組んでいますが、GHG排出削減対策の効果が十分に出ず、物理的リスクが激増する世界を迎える可能性もあります(4℃上昇シナリオ)。当社グループはこうした状況にも適応できるレジリエンスを発揮し、事業運営を続けなければなりません。そこで、「2℃未満シナリオ」と「4℃上昇シナリオ」の二つのシナリオについて、事業への影響をマイナス面(課題)とプラス面(機会)の両面から整理し、行うべきことを導き出しました。
2030年に向けては、これまで「“K” LINE 環境ビジョン2050」で掲げてきた中期マイルストーンの目標達成に向けて、アクションプランを着実に推進していきます。
2050年の目標としては、新たにGHG排出ネットゼロを目指し挑戦していきます。社会の脱炭素化の支援も推進し、「人々の豊かな暮らしに貢献する」ことを目指していきます。
「2050年目標」
自社の脱炭素化:GHG排出量ネットゼロに挑戦
社会の脱炭素化支援:社会の脱炭素化を支える新エネルギー輸送・供給の担い手に
「2030年中期マイルストーン」
自社の低炭素化:CO2排出効率 2008年比50%改善
社会の低炭素化支援:社会の低炭素化に向けた新しいエネルギー輸送・供給の推進
「2023年度 環境目標」
自社の脱炭素化:
【運航効率(燃費)改善策の強化】
・減速運航によるCO2排出削減
・AI技術活用の性能解析による運航管理の高度化
【低炭素・脱炭素燃料の導入検討】
・LNG、アンモニア等燃料船の導入検討
・バイオ燃料等のカーボンニュートラル燃料の使用
【自動カイトシステムSeawingの実証と普及への貢献】
・風力推進補助システム「Seawing」のトライアル及び導入拡大
【その他新技術の検討と導入】
・新造船建造計画にて省エネ機器・付加物(水エマボイラー・インバータ等)の採用を検討する
・AI解析技術を用いた省エネ装置導入の取り組み効果を検証
・メタンスリップ、N2Oの排出を抑制する仕様を検討する。
・船上CO2回収技術の検討
【陸上の取り組み】
・陸上事業所での電力総使用量及び使用電力に伴うGHG排出量を前年実績値以下にする。
・再生エネルギー由来電力の導入促進
・自社ターミナルにおける荷役機器のハイブリット化によるCO2削減
社会の脱炭素化支援:
【社会の低炭素化に貢献する新ビジネスの展開・拡大】
・水素・アンモニアの利活用に関する、国内外の団体への加盟を通じて、輸送事業者としてサプライチェーン構築に貢献する。
・大型液化水素運搬船を使用した商用化実証事業に参画し、商用レベルでの社会の水素利活用に向けて活動
・洋上風力発電等の再生エネルギー関連やCCUS(液化CO2輸送)関連事業拡大
・CNP(Carbon Neutral Port)実現に向けた取組みを促進、各港CNP検討会への参加および事業検討する。
・船舶向けLNG燃料供給事業の継続及びアンモニア燃料供給船の検討
2050年GHG排出ネットゼロに挑戦する過程において、まずは「“K” LINE 環境ビジョン2050」で掲げた2030年中期マイルストーン達成に向けた取り組みとして、自社の脱炭素化・低炭素化という観点から、LNG燃料船、LPG燃料船、アンモニア/水素燃料等ゼロエミッションの新燃料船への転換を進めていきます。また自動カイトシステム「Seawing(風力推進)」や統合船舶運航・性能管理システム「K-IMS」などの活用によるCO2排出削減の取り組みも推進していきます。
2020年代はLNG燃料船の導入を拡大し、2030年までに約40隻投入
- 2021年3月、当社初のLNG燃料焚き自動車運搬船「CENTURY HIGHWAY GREEN」竣工
- 2024年には当社初のLNG燃料焚き大型ばら積運搬船が竣工予定
- 2025年までに8隻のLNG燃料焚き自動車運搬船の追加投入決定
従来の重油焚きに比べて、約25~30%のCO2排出削減効果あり
- LPGを主燃料とし、将来のアンモニア輸送を念頭に置いたLPG/アンモニア兼用の大型LPG運搬船を投入(2023年竣工予定)
重油焚きに比べて、約20%のCO2排出削減効果あり
- アンモニア/水素燃料といったゼロエミッション燃料、およびバイオLNG、合成燃料などのカーボンニュートラル燃料の導入を検討中
- 船舶バイオ燃料の試験航海を実施
- アンモニアの舶用燃料利用を目指し、海運/商社/荷主/メーカー等業界の枠を超えて共同で課題を検討する舶用燃料利用研究協議会に参画
- 2020年代後半のゼロエミッション船の実用化/導入を目指して検討中
- JWS STEEL社と脱炭素化に向けた共同研究を開始
- Emirates Global Aluminium社と脱炭素化に向けた共同研究を開始
- 大容量リチウムイオン電池と発電機を搭載したハイブリッド曳船の建造を決定
CO2排出ゼロ
- フランスのAIRBUS社から分社したAIRSEAS社との共同開発
- 船種を問わず、既存船も含め搭載可能な新技術であり、各船種への搭載拡大を検討
・2022年度中に大型ばら積船にて、実装開始予定
20%以上のCO2排出削減効果を見込む
LNG燃料船などへの設置による相乗効果により、CO2排出45~50%削減を追求
- 燃料消費量、機関出力、速力などの本船運航データをリアルタイムに把握。また安全かつ最小燃費の推奨航路を算出する最適運航支援システムも活用し、本船運航管理の高度化を追求
- 最近ではAIによるデータ解析技術により、各船の性能劣化や外乱影響を可視化し、さらなる運航効率の維持・改善を実現
K-IMS搭載により、約3~5%のCO2排出削減効果あり
- 軸発電機、バイナリー発電*、リチウムイオン畜電池を組み合わせたハイブリッド推進機関の検討
* 温水、低圧蒸気、エアなどの低位熱源により沸点の低い作動媒体を加熱、蒸発させてその蒸気でタービンを回し発電する方式
- 三菱造船株式会社/一般財団法人日本海事協会と共同で実施した洋上用CO2回収装置実証実験「CC-OCEAN」プロジェクトにて、世界初の船上CO2回収試験装置を石炭運搬船「CORONA UTILITY」に搭載
- 「CC-OCEAN」プロジェクトがマリンエンジニアリング・オブ・ザ・イヤー(土光記念賞)2021を受賞
エンジンで燃焼し船を推進するエネルギーとなった燃料は、排ガスとして大気中に排出されますが、この高温の排ガスが持つ熱エネルギーを回収する排ガスエコノマイザーで高温高圧の蒸気を作っています。その蒸気を蒸気タービン駆動のターボ発電機に導き船内で使用する電力に変換すれば、発電に要する燃料を削減することができます。捨てられるはずの排ガスのエネルギーを電力に変換するこのシステムにより、船としてのエネルギー効率、すなわち、輸送時のエネルギー効率が向上し、CO2排出量を低減することができます。
船の方向を維持したり変えたりする舵は、プロペラの後ろ側に位置しており、プロペラで作られる水流を常に受けています。ここで、舵に球状の膨らみと水平フィンを取り付けると、水流エネルギーを推進力に変えることができます。推進エネルギーが増すため、エンジンの燃料消費量を少なくしても同じ速力を得ることができ、CO2排出量も低減できます。
船が航行するときには、目的港までの航海計画に決められた針路を保って進んでいきます。しかし、船は風や波、潮流などの外乱の影響を受けるため、舵をこまめに切って針路を維持します。この舵取りを自動的に行うのがオートパイロット(自動操舵装置)で、大洋上などの船舶の輻輳していない海域で使用しますが、最新型のオートパイロットでは、この外乱の大きさや継続時間などを学習して次の操舵に生かし、無駄な操舵を最小限に抑える仕組みが備わっています。従来型に比べて約1%の燃料消費削減となるこの最新型操舵装置を順次搭載し、CO2排出量の低減を図っています。
船員が生活する居住区域や航海当直を行う船橋は冷暖房を行っていますが、船の材料は鉄で熱を伝えやすく、太陽熱や外気の温度の影響を受け、冷暖房効果が低下します。そこで、熱を遮断する遮熱塗料を居住区や船橋の外板に使用して、冷暖房効果を高め、冷房に要する電力消費量や暖房に要する蒸気消費量を削減し、CO2排出量の低減を図っています。
自動車船では、居住区と船橋上
部面積が広く遮熱塗料は効果的
国内の自営コンテナターミナルでは、省エネタイプのハイブリッド型トランスファークレーンsup{※}を導入しています。ターミナル内でコンテナを仕向地ごとに整理するこのクレーンは、吊り上げたコンテナを所定の位置に降ろす際に発生するエネルギーを電力に変えて動力として再利用することによって、従来型に比べ燃料消費量を約40〜50%削減できることに加え、騒音も大幅に低減されています。
※トランスファークレーン:コンテナターミナル内でコンテナを移動する際に使用する自走式クレーン。
バンコクにて営業を行っている冷凍・冷蔵倉庫のBANGKOK COLD STORAGE SERVICE,LTD.では2014年の第二倉庫建設にあたり倉庫屋根上に太陽光パネルを設置しました。この太陽光システムの出力は最大で112.5キロワットであり、2016年通年の実績では165メガワットアワーの発電を行いました。これは当該倉庫における年間消費電力量の13.9%に相当し、省エネルギーに大きく貢献しています。また同社においては2009年にISO 14001の認証を取得し、現在に至るまで環境に配慮した営業活動を行っています。
- 2021年3月、国内初のクライメート・トランジションローンによりLNG燃料焚き自動車運搬船「CENTURY HIGHWAY GREEN」の資金調達実施(資金使途特定型)
- 2021年9月、国内初のトランジション・リンク・ローンにより約1,100億円を調達。脱炭素化に向けた各種環境対策への資金などに充当予定(資金使途不特定型)
- 2021年4月から社内にて本格運用開始。2022年度からはCO2排出量1トン当たり7,000円の将来収益貢献を考慮した経済性指標を参考として算定
- 投資案件に関する評価方法の指標の一つとして活用し、低炭素化・脱炭素化事業を推進
2050年GHG排出ネットゼロに向けた「“K” LINE 環境ビジョン2050」で掲げる社会の低炭素化・脱炭素化支援への目標として、洋上風力発電事業支援、水素/アンモニア輸送事業への参画・燃料供給ネットワーク構築、CO2輸送事業への参画などの取り組みを進めていきます。
- 川崎近海汽船株式会社と株式会社ケイライン・ウインド・サービス株式会社(KWS)を設立し、洋上風力発電向け作業船/輸送船事業に参画
- 日本政府が目標とする「2040年までに30~45ギガワットの洋上風力導入」を作業面/輸送面から支援
- 五洋建設株式会社と洋上風力の建設・保守分野における船舶管理等に関する協業を開始
- 豪州の褐炭から製造されるCO2フリー水素を日本へ輸送する国際的なサプライチェーン構築に向けて取り組む「技術研究組合CO2フリー水素サプライチェーン推進機構 HySTRA」へ参画。2022年2月、世界初の長距離海上輸送実証試験を実施
- アンモニア輸送事業への再参入を検討中
- 各拠点における水素/アンモニア供給ネットワーク構築事業への参画を検討中
- 一般財団法人エンジニアリング協会、日本ガスライン株式会社、国立大学法人お茶の水女子大学とともに、CO2船舶輸送に関する研究開発および実証実験に参画中。実証試験船が2023年12月に竣工予定
- Northern Lights社向け液化CO2船2隻の長期契約を締結。2024年より世界初の本格的な二酸化炭素回収貯留(CCS)バリューチェーンプロジェクトに従事する予定
- カナダにおける中部電力株式会社との潮流発電事業(2023年操業開始を目指す)
- カーボンクレジットやカーボンオフセットなどの検討
- 国際シンクタンクGlobal CCS Instituteに加盟
- マレーシアにおけるCCS共同スタディへ参加
(注)排出量とのオフセットについては、将来国際的に認められる方法で行う可能性があります
(単位:トン)
カテゴリ |
2015年 |
2016年 |
2017年 |
2018年 |
2019年 |
2020年 |
2021年 |
|
スコープ1 |
13,267,268 |
12,971,192 |
13,417,625 |
12,536,134 |
10,325,224 |
9,202,613 |
6,583,464 |
|
スコープ2 |
ロケーションベース |
30,561 |
31,025 |
30,505 |
27,306 |
26,397 |
25,191 |
13,769 |
マーケットベース |
- |
27,669 |
25,019 |
23,135 |
26,220 |
21,780 |
13,515 |
|
スコープ3 |
1,564,870 |
1,551,014 |
1,516,445 |
1,424,198 |
1,304,803 |
1,219,525 |
4,566,051 |
※2021年より集計対象範囲を変更。当社非運航船についてはスコープ1の集計対象外とし、コンテナ船についてはスコープ3にて計上。
(単位:トン)
2016年 |
2017年 |
2018年 |
2019年 |
2020年 |
2021年 |
|
燃料油 |
3,872,209 |
4,101,514 |
3,823,776 |
3,140,039 |
2,809,074 |
1,980,630 |
*2021年より集計対象範囲を変更。当社非運航船を集計対象外とした。
(単位:g-CO2/トンマイル)
2016年 |
2017年 |
2018年 |
2019年 |
2020年 |
2021年 |
|
全船種 |
5.31 |
5.36 |
5.32 |
4.82 |
4.49 |
4.10 |
*1トンの貨物を1マイル(1,852m)輸送すること。船舶のDWT(載貨重量トン数)ベース
2021年より集計対象範囲を変更。当社非運航船を集計対象外とした。