考え方

基本的な考え方

海運業を営む上で、安全運航の確立・維持は不変の使命です。“K” LINEグループでは、企業理念・ビジョンにおいて「安全で最適なサービスの提供」を謳い、安全運航による社会への貢献を果たします。これは同時に海洋・大気への環境影響低減への貢献でもあり、海洋を中心とした生物多様性保全への取り組みも当社の事業活動にとって重要なテーマとなります。これからも油濁事故ゼロに向けた取り組みやバラスト水管理、SOx、NOx排出削減対策、船舶運航の海洋哺乳類への影響低減等の取り組みを推進し、船舶運航における海洋・大気への環境影響の低減に努めます。

TNFDフレームワークに基づく情報開示(LEAPアプローチの実施)

当社は2023年10月に自然関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Nature-related Financal Disclosures:TNFD)フォーラム(註)に参画しました。

当社グループの事業は、海洋を主とした自然資本に依存する事業であり、気候変動問題のみならず、海洋を中心とした生物多様性保全への取り組みは、当社の事業活動において重要なテーマの一つと捉えています。

今般、当社はTNFDフォーラムへの参画と合わせ、TNFDフレームワークに基づく情報開示の一環として、当社事業における環境リスクや自然関連の影響を評価、適切な対応の検討を目的にTNFDが提唱するLEAPアプローチを導入しました。

β版(バージョン4)のフレームワークを参考に、ソコテック・サーティフィケーション・ジャパン株式会社による検証のもと、評価・分析を実施しました。

気候変動と自然資本の包括的な理解のもと、リスク・機会管理の強化を目指し、持続可能な未来の構築に向けて、今後も継続的な評価・分析及び情報開示を実施していきます。

 

(註)TNFDは、自然資本及び生物多様性にかかるリスクや機会の適切な評価及び開示の枠組を構築する国際イニシアティブです。TNFDフォーラムは、TNFDにおける議論をサポートし枠組構築の支援を行うことを目的として組織された、企業、金融期間、研究機関からなるステークホルダーの集まりです。

主な目標

油濁事故ゼロのための取り組み推進

  • 安全運航対策強化(最適運航支援システムの活用、自動運航船〔操船支援、機関プラント運転支援〕の開発など) 
  • 船体強靭化(堪航性・操船性などの強化) 
  • 人材育成を含むあらゆる安全対策の強化

船舶運航における環境影響低減

  • バラスト水管理やSOx、NOx排出削減対策、規制に対応した機器導入の着実な進展 
  • 船舶運航の海洋哺乳類への影響低減
  • 社員の環境意識向上

取り組み

統合船舶運航・性能管理システム
『K-IMS』による安全運航の推進

2016年3月から本格運用している「K-IMS」について、取り組み中の機関プラント運転支援ならびに故障予知診断機能の開発に引き続き注力し、これまで以上に安全運航を推進することで環境保全に取り組んでいきます。

「“K” LINE Group 環境アワード」
の実施

当社グループで働く役職員を対象に、環境保全および生物多様性への取り組みなど持続可能な事業活動への貢献度の高い活動を表彰する「“K” LINE Group 環境アワード」を実施しています。

環境eラーニングによる
意識向上

当社グループで働く役職員の環境配慮に対する意識を維持・向上させるため、環境マネジメントシステム(EMS)の教育訓練プログラムを実践しています。

環境教育・啓発

環境関連知識の習得と意識向上のために

当社ポータルサイトには、川崎汽船グループ環境憲章、環境マネジメントマニュアル、環境担当者リストに加え、環境活動報告や環境セミナー資料など、さまざまな情報を掲載しています。当社従業員の一人ひとりが、環境マネジメントシステムや環境問題に関する知識の習得と意識向上のために活用できるよう、使いやすさと分かりやすさの充実を図っています。また、毎年、当社の環境推進グループ主導の下、当社と一部グループ会社の従業員を対象に「環境セミナー」や「環境eラーニング」などを実施しています。

環境研修
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環境研修

“K” LINE Group 環境アワード

当社は、2050年に向けた環境保全に関わる長期指針「“K” LINE 環境ビジョン2050」で定めた方向性の下、川崎汽船グループで働く役職員が、環境保全および生物多様性に取り組み、持続可能な事業活動に資するため、貢献度の高い活動を表彰する「“K” LINE Group 環境アワード」を実施しています。国内外グループ会社との連携をより一層強化しながら全社的な環境保全活動に取り組んでいます。

受賞者の皆さん
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受賞者の皆さん

海洋汚染防止への取り組み -油や廃棄物による汚染を防ぐために-

燃料タンクにオーバーフロー管を設置

燃料補給の際に燃料タンクにタンク容量以上の燃料油が送り込まれた場合、燃料油がAir-Vent(タンクの空気抜き)から船外に流出する恐れがあります。これを防止するため、燃料タンクにはオーバーフロー管を設置して、燃料タンクから溢れた燃料油がオーバーフロータンクに流れ込む仕様とし、さらにオーバーフローをいちはやく検知するために、配管に流れ検知センサー又はタンク内に高位警報センサーも設置しています。

燃料タンクのオーバーフロー管と
オーバーフロータンク
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燃料タンクのオーバーフロー管と
オーバーフロータンク

船尾管エアーシールの採用

プロペラ軸が、船内から船外へ貫通する部分において、船内側からの潤滑油の流出と、船外側からの海水の流入を防ぐための装置で、圧縮空気を常時供給することで密閉部分を作り出し、潤滑油と海水を隔てています。

船尾管エアーシール
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船尾管エアーシール

甲板機器の電動化

従来は油圧駆動だったムアリングウインチ※1やランプウェイ※2などの甲板機器を電動モーター式にしたことで、油圧駆動に使用する作動油の漏洩リスクが排除されました。

※1 ムアリングウインチ:船舶を係留するためのロープやワイヤーを巻き取る装置。

※2 ランプウェイ:自動車船で自動車を船に積み込んだり、陸に揚げたりするときに岸壁に渡す通路。航海中は格納する。

電動ムアリングウインチと係留索(船首)
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電動ムアリングウインチと係留索(船首)

間接冷却システム(セントラルクーリングシステム)

エンジンの冷却水や潤滑油を、冷却用の清水を介して間接的に海水と熱交換させて冷却する装置です。潤滑油と海水が直接熱交換されないため、冷却システムの不具合などによる潤滑油の漏洩、船外流出を防止することができます。

間接冷却システム
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間接冷却システム

生物多様性への取り組み -生態系に配慮するために-

環境配慮型塗料の使用を進めています

海洋生物が船体に付着すると、船体の抵抗が増して、燃料消費すなわちCO₂排出の増加を招くだけでなく、付着した生物が他の海域へ持ち込まれることにより、生態系に影響を与えることが考えられます。当社では燃費節減と海洋生物の付着を防ぐために特に新造船において、低摩擦塗料の積極的採用を進めCO₂排出量削減と生物多様性の保全に努めています。また就航船でも従来型塗料に加え、低摩擦塗料の使用を進め環境に配慮しています。

ドックでシリコン塗料(赤色)

による塗装工事を実施

バラスト水の適正処理

船舶は航行時の船体安定を保つために海水(バラスト水)を貯留します。
船舶からのバラスト水排出により、海水の水生生物が海域の生態系に影響を及ぼすことがあるため、国際海事機関(IMO)は2017年に「バラスト水管理条約」を発効しました。
具体的には、バラスト水を殺菌するための処理システム(BWMS:Ballast Water Management System)の搭載を義務づけています。 当社は生物や生態系がありのままの姿を保つよう、規則を満たした本船の運航を継続し、生物多様性の保護に努めてまいります。
 

バラスト水
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バラスト水
※上記はバラスト水処理装置の一例
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※上記はバラスト水処理装置の一例

大気汚染防止への取り組み -大気環境を守るために-

米国ロサンゼルス港およびロングビーチ港の減速航行プログラムで受賞

米国ロングビーチ港およびロサンゼルス港では、沿岸の大気汚染を防止するために指定海域内で自主的な減速航行を求めるプログラムを設けています。当社は従来からこのプログラムに積極的に参画しており、2021年通年においても自動車船およびドライバルク船による減速航行について高い達成率が認められ、両港湾局からそれぞれ表彰を受けました。このプログラムに参画する船舶は、各港沿岸から40マイル(約74キロメートル)以内の海域において12ノット以下に減速することで排気ガス量を削減し、大気汚染の原因となる窒素酸化物(NO_{X})、硫黄酸化物(SO_{X})や粒子状物質(PM)、温暖化の原因となる二酸化炭素(CO_{2})の排出を抑制しています。当社はプログラムが開始された年から毎年受賞しており、ロングビーチ港では2005年から17年連続、ロサンゼルス港においては2008年から14年連続の受賞となります。

受賞名

ロングビーチ港「2021 GREEN FLAG VESSEL SPEED REDUCTION PROGRAM」

ロサンゼルス港「2021 VESSEL SPEED REDUCTION PROGRAM」

伊勢・三河湾では独自の減速航行に取り組んでいます

当社独自の取り組みとして、両湾内を航行する自動車船の速力を12ノット以下にする活動を行っており、周辺の海域や地域の大気環境への影響を低減させています。また、停泊時のPM(煤など)排出抑制のため、入湾前にボイラーの煤を除去したり、停泊中の発電機の負荷を適正にし、燃焼状態を良好に保つなどの取り組みを行っています。

NOxの3次規制クリアに向けた次世代技術開発への取り組み

船舶から排出されるNO_{X}(窒素酸化物)による大気汚染を抑制する動きが国際的に活発になってきており、IMO(国際海事機関)は2016年以降に新たに就航する船舶に対して大幅な規制強化を行います。(NO_{X}の3次規制)

当社は、ジャパンマリンユナイテッド株式会社、ダイハツディーゼル株式会社と共同で2013年3月に就航した大型新造コンテナ船の発電機用ディーゼル機関にNO_{X}の3次規制に対応する選択触媒還元装置(SCR装置※1)を搭載し、約1年半にわたる運用上の性能評価を行い、実船で問題なく運用可能であることを確認しました。SCR装置とは、還元剤として使用する尿素水を排気ガスに噴霧することによって、排気ガスの熱で加水分解したアンモニア(NH_{3})とNO_{X}を結び付け、窒素ガス(N_{2})と水(H_{2}O)に変換させる技術です。

また、ジャパンマリンユナイテッド株式会社、川崎重工株式会社と共同でNO_{X}の3次規制に対応する排ガス再循環装置(EGR装置※2)の運用試験を実施します。EGR装置とは、排ガスの一部を洗浄後、再度燃焼室内に送り込むことで燃焼時の酸素濃度を減らし、燃焼温度を下げることによりNO_{X}を低減する技術です。2016年2月竣工のDRIVE GREEN HIGHWAYにEGR装置を搭載し、今後、約2年間にわたり実船試験を実施する予定です。

当社は、単に規制をクリアするばかりではなく、大気汚染のないやさしい船体整備を目指し、舶用エンジンメーカーや造船所と一体となった新技術の開発と実用化を図っています。

※1 SCR装置:Selective Catalytic Reduction装置
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※1 SCR装置:Selective Catalytic Reduction装置
※2 EGR装置:Exhaust Gas Recirculation装置
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※2 EGR装置:Exhaust Gas Recirculation装置

【NOxの3次規制クリアに向けた次世代技術開発への取り組み】

水エマルジョン燃料とその性質

水と油を撹拌し、燃料油の中に水の粒を分散させた状態にしたものを水エマルジョン燃料と呼んでいます。この水エマルジョン燃料を 使用することで、ディーゼルエンジンの排ガス中の窒素酸化物(NO_{X})が約20%削減されることが分かり、当社グループ運航船にこ の機器を搭載し実証試験を行っています。

 

水エマルジョン燃料の燃焼反応

水エマルジョン燃料が燃焼するときには下の図のように反応します。

 

・水の粒の周りを燃料の粒子が取り囲んでいます。

・エンジンに噴射された水エマルジョン燃料は、燃料の粒が着火する前にまず水が蒸発します。

・水の蒸発により、燃料の粒が細かく拡散します。

・非常に細かくなった燃料の粒子は、燃焼しやすいため完全燃焼が得られやすくなります。

・このため、燃焼効率が改善され、排ガスがきれいになります。

 

関連データ

船からのCO2、SOx、NOx排出量

2016年

2017年

2018年

2019年

2020年

2021年

CO₂排出量(トン)

12,079,216

12,796,649

11,932,022

9,799,932

8,761,756

6,174,863

SOx排出量(トン)

183,292

195,166

188,102

129,786

35,983

30,166

NOx排出量(トン)

274,430

284,326

262,226

202,678

181,429

117,864

※2021年より集計対象範囲を変更。当社非運航船を集計対象外とした。

輸送トンマイル*当たりのSOx 、NOx排出量

(単位:g-SOx、NOx/トンマイル)

2016年

2017年

2018年

2019年

2020年

2021年

SOx排出量

0.082

0.081

0.08

0.067

0.022

0.020

NOx排出量

0.118

0.115

0.112

0.097

0.089

0.078

*1トンの貨物を1マイル(1,852m)輸送すること。船舶のDWT(載貨重量トン数)ベース
  2021年より集計対処範囲を変更。当社非運航船を集計対象外とした。
 

当社運航船によるその他の環境負荷データ

原材料使用量(全船種)

単位:m³/船・月)

2016年

2017年

2018年

2019年

2020年

2021年

ビルジ

4.98

4.14

5.54

4.15

4.02

4.04

スラッジ※

4.2

3.6

4.1

3.9

4.0

2.0

生活系ゴミ

3.7

4.0

4.0

3.5

3.5

5.4

※ 燃料や潤滑油を清浄処理した際の残りかす

当社所有船からの生活水排水量

(単位:MT)

2016年

2017年

2018年

2019年

2020年

2021年

全船種(社船)

82,887.8

78,768.8

90,841.8

82,485.0

64,421.6

74,929.9