当社グループは国際的な事業展開を行っており、海運業を含む物流事業の経営には、さまざまなリスクが存在しています。リスクマネジメント強化のため、より体系立ててリスクを管理すべく、事業継続に及ぼす影響の大きいリスクとして主要リスクを定義し、内容を再編する形で従来の8項目から7項目に整理をしました。見直し後の主要リスクは、従来通り、「船舶運航に伴うリスク」、「災害リスク」、「コンプライアンスに関わるリスク」、「その他の経営に関わるリスク」の4つのリスクに分類し、それぞれ対応する委員会を設けています。
また、この4委員会を束ね、リスクマネジメント全般を統括する組織として、危機管理委員会を設置しています。
代表執行役社長がこれらすべての委員会の委員長を務め、平時においても四半期ごとに委員会を開催し、リスクマネジメントの強化を図っています。
4つの主要なリスク委員会では、リスクマネジメントのための研修を定期的・継続的に実施しています。一例として大規模事故演習の実施や他社とのリスクマネジメント勉強会への参加等を通じ強化を図っています。また、毎年11月を「コンプライアンス月間」と定め、コンプライアンスの重要性を周知徹底しています。


当社グループにおけるリスクマネジメントを徹底すべく、グループ全体に関わるリスクを特定し、情報管理・モニタリングを行いながら、リスクマネジメントに取り組んでいます。各リスクの管理は、期末にリスクの再評価や網羅的なリスクの洗い出し・特定を行い、管理体制の有効性や主要リスクから重要課題を定めた上で、各委員会において定期的にレビューを行い、再評価、対策の実施を行うPDCA体制としています。このPDCAでは、各委員会がボトムアップでリスクの再評価や洗い出し・特定を行う手法と、まだ顕在化していないものの重要性が高まっているエマージングリスクのようなメガトレンドの変化をトップダウンで評価する手法を併用し、重層的に対応しています。メガトレンドの変化は、リスクのみならず機会となるため、次年度の事業戦略立案時に行うPEST分析(※)を軸として、メガトレンド認識を的確に事業戦略に生かす側面と、最新のリスクトレンドの変化を評価し対応する側面とで、リスクと機会の双方を網羅するよう取り組んでいます。
具体的には、PESTの要素を当社各事業のバリューチェーンに掛け合わせることでリスクシナリオを想定し、経営陣により発生可能性/影響度/備えの程度を整理の上、ヒートマップを作成します。さらに専門家による分析や調査レポート等の外部知見も得ながら、注視すべき課題を特定し、ボトムアップ式のリスク特定と合わせて重要課題を選定します。
また、PDCAサイクルの過程でリスクマネジメントに対する情宣を行っています。リスク対策や期初に特定した重要課題への取り組み状況を、取締役会や執行役員会を通じて社内に周知しています。
(※)外部環境を政治・経済・社会・技術の4つに分類し脅威を洗い出し、自社にもたらす影響を分析するフレームワーク

当社グループでは、自然災害や新型インフルエンザを含めた感染症による機能不全を想定したBCP(Business Continuity Plan)を 策定の上、BCM(Business Continuity Management)を行っています。人命の尊重を第一とし、その上でライフラインを支える社会インフラの一翼を担うものとして、内外地店所への業務移管や遠隔地でのバックアップ データの蓄積、在宅勤務などによる重要業務の継続を図っています。特に、首都圏直下型地 震に関しては、事前にその規模や被害をシミュレーションした上で、定期的な避難訓練やBCMの強化を行い、災害レジリエンス向上に向けて全社的に取り組んでいます。
また、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、事業運営においては、在宅勤務体制の拡充 やオフィスでの感染予防策の徹底を行い、船内・乗組員に対しては、乗船前の体調管理・社命による乗船前隔離・PCR検査等の実施や感染対策物資の供給といった対策を講じました。2025年度も引き続き、変異株の発生、新種のウイルスの発現など予期せぬ事態により、当社の事業運営に影響を及ぼす可能性がありますが、過去5年間の一連の対応を振り返り、新型コロナウイルスを含む将来のウイルスによるパンデミックに備えた行動手引書等に基づき、緊急時においても事業継続できる状態を構築した上で、各事業に適した対応を行っていきます。
当社グループは、安全運航の徹底を最優先課題の一つとして、安全運航水準と危機管理体制の維持強化を図っています。不測の事故、とりわけ油濁その他環境汚染につながる重大事故などが発生し、環境汚染を引き起こした場合、当社グループの財政状態や経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、海賊被害、政情不安・武力紛争地域での運航、船舶へのテロ行為リスクの増大は、当社グループの船舶に重大な損害を与え、また船員の生命を危険にさらすなど、当社グループ船舶の安全運航、航海計画管理、海上輸送事業全般に悪影響を与える可能性があります。その対策として、社長を委員長とする安全運航推進委員会を定期的に開催し、安全運航に関わるすべての案件について、あらゆる視点に基づいた検討と取り組みを行っています。さらに緊急時の事故対応をまとめた「事故対応マニュアル」を策定し、定期的な大規模事故対応演習により継続的改善を図っています。
組織全体で効果的なリスクマネジメントの文化を促進・強化するために、階層ごとに定められた行動規範にはリスクマネジメントの項目があり、その基準が反映されるように人事評価制度がつくられています。この人事評価は給与や昇進にも影響します。シニア・エグゼクティブは、リスクマネジメントに関する全社的な取り組みの実施に責任を負います。
さらに、その他リスクマネジメントに関する規程やBCM情報等を社内ポータルサイトのトップページに掲載することでリスクマネジメントに対する啓発を行っており、社外取締役を含む取締役に対しては、外部講師によるリスクマネジメントに特化したセミナーを毎年行っていく体制を構築しています。
当社グループは、人々の生活や経済を支えるライフライン・インフラとしてサステナビリティの重要性を強く認識しており、環境保全・気候変動に関連したリスクや機会に対応すべく、「“K” LINE 環境ビジョン2050」を策定しています。
2015年3月に策定した「“K” LINE 環境ビジョン2050」の中で、創立100周年(2019年)に向かって定めたマイルストーンの多くを達成しましたが、激変する世界を見渡し2050年のゴールの一部を見直すとともに、2030年に向けた新たなマイルストーンを設定しました。さらに、世界的に2050年GHG排出ゼロの動きが加速していく中で、2021年11月には同ビジョンの2050年目標を改定し、「2050年GHG排出ネットゼロ」というより高い目標に引き上げて挑戦しています。
気候変動に関するシナリオ分析については、以下をご覧ください。
上記の事業計画・戦略策定、施策検討を踏まえ、自然エネルギーを利用する自動カイトシステム「Seawing(風力推進)」の導入など、さまざまな環境保全への取り組みを行っています。
当社グループにて認識しているリスク項目の内容、対応策、組織への影響の可能性、潜在的なビジネスインパクトの大きさ、さらに、それらを基にした各項目のリスク重要度を、下表に纏めています。

リスク名 |
①人材・人権リスク |
影響度 |
非常に大きい |
リスク内容 |
|
当社グループは、グローバルに事業を展開する企業グループとして、事業活動が地域社会・国際社会に与える影響を自覚し、かつ、それを踏まえて事業活動を進めていくことが社会的責任の重要な側面の一つと考えています。 また、企業に対して、自社の事業活動に関わる全てのステークホルダーの人権尊重を求める国際社会からの要求が年々高まっています。この様な状況下で、当社グループ及びサプライチェーン上に存在する人権問題への対応が不適切であることにより事業活動に影響を及ぼす可能性があります。 また、当社に必要な人材が不足することにより、業界内での競争力の低下や事業継続に深刻な影響を及ぼす可能性があります。 |
|
事業へのインパクト |
|
人権問題が発生した場合、当社グループの社会的信用やブランドイメージが低下し、当社グループの営業活動、財政状態・経営成績に悪影響を与える可能性があります。 また、必要人材の不足は事業活動の制約となるため、当社グループの経営成績に重大な影響を与える可能性があります。 |
|
対策 |
|
当社グループはグループ全体で遵守される行動規範である「グループ企業行動憲章」において、当社グループの事業活動に関わる全てのステークホルダーの人権を尊重することを掲げています。また、同憲章のより具体的な指針として掲げられた「川崎汽船グループ人権基本方針」では、人権尊重に関連した国際規範や法令を尊重・遵守するとともに、当社グループの事業活動との関わりにおいて生じる人権への顕在的又は潜在的な負の影響を把握して、これを未然に防止又は軽減していく、という一連のプロセスである「人権デューディリジェンス」を実施することを定めています。本方針のもと、当社グループの事業活動において優先的に取り組むべき人権課題を特定するため、国内外のグループ会社からヒアリングを実施し各社個別に取組みを強化すべき課題を抽出、その結果を受けて改善に向けたアクションプランを実行しています。また、サプライチェーンも含めた当社グループの事業活動に関わる全てのステークホルダーの人権尊重に向けた取組みを推進すべく、PDCAサイクルの確立を目指しています。 また、当社の業界内での競争力強化や安定的な事業継続を図るべく、「事業の持続的成長・変革をリードしていく人材」、「事業環境変化に柔軟に対応できる人材」という視点から人材の育成に取り組んでいます。 |
リスク名 |
②法務・コンプライアンスリスク影響 |
影響度 |
非常に大きい |
リスク内容 |
|
当社グループは、グローバルに事業を展開する企業グループとして、事業活動が地域社会・国際社会に与える影響を自覚し、かつ、一層高いコンプライアンス意識をもって事業活動を進めていくことが社会的責任の重要な側面の一つと考えています。当社グループの役職員が法令違反行為や企業倫理違反行為等を発生させることにより事業活動に甚大な悪影響を及ぼす可能性があります。また、社会的な機運の高まりにより、自社のみならず持続可能な社会づくりに向けてサプライチェーン全体での協力が不可欠になっています。 |
|
事業へのインパクト |
|
コンプライアンス上のリスクは、社会情勢、国民意識によっても変化するものであり、コンプライアンス上の問題が生じた場合、当社グループの社会的信用やブランドイメージの低下、またそれに伴う対応のため、当社グループの営業活動、財政状態・経営成績に悪影響を与える可能性があります。 |
|
対策 |
|
当社では、「グループ企業行動憲章」を制定し、法令及び企業倫理の遵守(コンプライアンス)を当社グループ企業の行動原則の一つとして掲げています。また、より具体的な指針として「川崎汽船グループ グローバルコンプライアンスポリシー(以下、「グローバルポリシー」という。)」を制定し、当社及びグループ会社役職員に遵守を義務付けています。当社及び当社グループ会社のコンプライアンスを担保するための方針及びコンプライアンス違反に対する対応措置を審議するための場として、年4回コンプライアンス委員会を開催し、毎年11月をコンプライアンス月間と位置付け、コンプライアンスの重要性を再認識させるため、社長メッセージを配信するとともに、必修のコンプライアンスeラーニング研修、外部講師を招いてのコンプライアンスセミナー、階層別人事研修の中でのコンプライアンス研修等、組織的にコンプライアンス文化を醸成する様々なプログラムを実施しています。 また、当社及び当社グループでは、お客さまから信頼されるサービスの提供に欠かせないパートナーとしてのお取引先さまとの、相互の信頼関係の確立と共生を図っています。これに加えて当社グループでは、サプライチェーン全体における企業としての社会的責任(CSR)の推進にお取引先さまとともに取り組むべく、「サプライチェーンにおけるCSRガイドライン」を策定しています。 |
リスク名 |
③船舶運航リスク |
影響度 |
非常に大きい |
リスク内容 |
|
当社グループは、安全運航の徹底、環境保全を最優先課題として、安全運航水準と危機管理体制の維持強化を図っています。不測の事故による船体・積み荷・船員及び荷役関係者への損害や損傷、とりわけ油濁その他環境汚染につながる重大事故等が発生し、環境汚染を引き起こした場合、事業活動に甚大な悪影響を及ぼす可能性があります。また、海賊被害、政情不安・武力紛争地域での運航、船舶へのテロ行為リスクの増大、サイバーリスクは、当社グループの船舶に重大な損害を与え、また船員の生命を危険にさらすなど、当社グループ船舶の安全運航、海上輸送事業全般に悪影響を与える可能性があります。 |
|
事業へのインパクト |
|
不測の事故、とりわけ油濁その他環境汚染につながる重大事故等が起これば、当社グループの財政状態・経営成績に重大な影響を与え、当社グループの社会的信用やブランドイメージの低下により広範な営業活動に重大な影響を与える可能性があります。 |
|
対策 |
|
当社グループは安全運航の徹底を最優先課題として安全運航水準と危機管理体制の維持強化を図っています。安全運航については、代表執行役社長を委員長とする安全運航推進委員会を定期的に開催し、事故防止や海賊やテロへの対応などを含む安全運航に関わる全ての案件について、ソフト面・ハード面においてあらゆる視点に基づいて検討し、教育・指導を含めた様々な対策を行っています。さらに、緊急時の事故対応をまとめた「事故対応マニュアル」を策定し、定期的な事故対応演習により継続的改善を図っています。なお、最善を尽くした上でも回避しきれなかった場合においても十分な対応を行うため適切に保険を付保し備えとしています。また当社グループの事業活動が地球環境に負荷を与えることを自覚し、それを最小限にすべく、環境憲章を掲げ、環境への取組みを確実に推進するために、代表執行役社長を委員長とするサステナビリティ経営推進委員会を設置して、推進体制の審議・策定をしています。 |
リスク名 |
④経済活動変動リスク |
影響度 |
大きい |
リスク内容 |
|
当社グループの事業は、世界経済の動向と密接に結びついており、様々な経済的要因の変化による影響を受けます。特に、事業売上において米ドル建て収入の比率が大きく、円高が進むと円建ての収益が減少するリスクがあります。加えて、船舶投資や運転資金調達には借入金を活用しており、金利上昇も利益が減少する要因となります。 また、燃料費は運航コストの大きな部分を占めるため、原油価格の変動は利益に影響します。これらの市場リスクは、世界的な経済動向や地政学的なリスクなど、様々な要因によって変動するため、当社グループにとって大きなリスク要因です。 将来の事業拡大に向けた船舶投資計画は、海運市況の悪化や想定外の公的規制導入などにより、計画通りに進まない可能性があります。計画の遅延や中止、あるいは新造船が完成した後に想定していた需要が得られない場合など、収益に悪影響が出る可能性があります。既存の船舶についても、市況の悪化や技術革新による陳腐化によって、売却や傭船契約の途中解約を迫られる可能性があり、損失につながるリスクがあります。また、保有する船舶等の資産は、市況の悪化や収益性の低下に伴い、減損損失が発生する可能性もあります。 海運事業は、国際条約や各国・地域の規制や通商政策の影響を受けやすい事業構造となっています。新たな規制の導入や既存規制の変更は、事業コストの増加や事業活動の制限につながる可能性があります。不確実性の増大により予見可能性が低下するリスクがあります。国際的な海運市場では競争も激化しており、モノの流れが変わったり、輸送価格が下落したり、市場シェアが減少したりすることで、収益に影響が出るリスクがあります。また、取引先の業績悪化などにより、契約が履行されない場合、損失が発生するリスクもあります。 |
|
事業へのインパクト |
|
これらの経済活動の変動は、当社グループの財務状態と経営成績に大きな影響を与える可能性があります。急激な円高は米ドル建て事業売上の円貨換算後の価値を目減りさせ、利益を大きく減少させる可能性があります。金利上昇は資金調達コストを増加させ、投資計画の実行を困難にするだけでなく、既存事業の収益性も悪化させる可能性があります。また、燃料油価格の変動は、運航コストを直接的に増加させ、利益率を低下させる主要因となります。さらに、原油価格の急騰による燃料油価格の高騰で、短期的な収益悪化だけでなく、中長期的な事業計画の見直しが必要となる可能性もあります。 投資計画の遅延や中止は、大きな機会損失となるだけでなく、既に投資した資金を回収できなくなるリスクもあります。市況悪化による船舶の売却や傭船契約の途中解約は、損失につながるだけでなく、将来の輸送能力を低下させ、事業機会の喪失を招く可能性があります。また、保有資産の減損は財政状態や経営成績に影響を与える可能性があります。 規制変更への対応には、設備投資や運用変更など多額のコストが必要となる場合があり、収益を圧迫する可能性があります。また、予見可能性の低下により、規制変更への対応や事業計画への反映等が遅れると、事業活動の制限や罰金など、深刻な事態に陥る可能性もあります。国際的な海運市場では、競争の激化は輸送価格の下落を招き、収益性を低下させるだけでなく、モノの流れが変わること等による市場シェアの減少を通じて当社グループの業界での地位や経営成績に一定の影響を及ぼす可能性があります。さらに、取引先が契約不履行となった場合、損失の発生だけでなく、取引関係の喪失による将来的な事業機会の喪失にもつながる可能性もあります。 |
|
対策 |
|
当社グループでは、これらの経済活動の変動リスクに対し、様々な対策を講じています。為替変動の影響を和らげるため、為替予約や一部費用のドル化で影響の最小限化に努めています。金利変動リスクに対しては、固定金利での借入や金利固定化スワップを実施し、資金調達コストの安定化に取り組んでいます。燃料費の変動を抑えるため、燃料油の先物取引による価格ヘッジを行っています。 投資計画は、市場調査と需要予測に基づいて慎重に策定し、想定最大損失額を連結自己資本の範囲内に収めることで、「安定性」と「成長性」の両立に努めています。市況の悪化に備え、船舶の売却や傭船契約の解約についても、市況動向を常に注視し、適切なタイミングで判断できる体制を整えています。また、保有資産の価値を定期的に評価し、減損リスクの早期発見に努めています。 国際条約や各国・地域の規制変更、通商政策には、最新の情報収集と迅速な対応を可能にする体制を整えています。取引先の契約不履行リスクを軽減するため、取引先の信用状況を常時監視し与信管理を徹底しています。 |
リスク名 |
⑤情報システム・情報セキュリティリスク |
影響度 |
大きい |
リスク内容 |
|
当社グループは、世界の経済活動を支える物流インフラとして、安全・安心な海上輸送及び物流サービスを提供するため、情報セキュリティの確保と向上へ対策を講じています。昨今のサイバー攻撃は、多種多様化を極め、不正アクセスによる情報の漏洩、ウイルス感染によるシステム停止等が発生することにより事業活動に甚大な悪影響を及ぼす可能性があります。 |
|
事業へのインパクト |
|
不正アクセスによる情報の漏洩、ウイルス感染によるシステム停止等が発生した場合には、当社グループの営業活動、財政状態・経営成績に重大な影響を与える可能性があります。 |
|
対策 |
|
当社グループでは、継続的にサイバーセキュリティの強化を進めています。これまでにPC、サーバーなどのエンドポイントや通信ネットワークのセキュリティ強化、最新技術を用いた監視体制を導入しました。さらに、グローバルでの認証基盤構成を見直し、多要素認証やアカウント管理認証レベルの高度化、迅速な脆弱性への対応を進めることで、グループ全体のITガバナンスの強化、認証レベルの向上、マルウェア・情報漏洩への対策強化を実現し、サイバーインシデントに迅速かつ的確に対応できる体制を築いています。近年、インターネット回線による船舶運航データの船陸共有化と安全品質の向上へのデータ活用が進んでおり、衛星通信容量の拡大に伴い、船内ICT機器及び船内ネットワークの整備が必須となっています。今後、船陸間でインターネット環境への接続が一層増えることによるサイバーリスクを見据え、当社グループの船舶管理会社では一般財団法人日本海事協会からサイバーセキュリティマネジメントシステム(CSMS)の認証を取得し、船上のサイバーリスクへの対応力強化に努めています。「安全」は海上輸送を主軸とする当社グループの事業の根幹を成すものであり、サイバーリスクへの対応を強化することで、より安全で最適な輸送サービスを提供してまいります。また、技術的対策に加え、当社グループ全般におけるセキュリティ教育・啓発活動を通じ、セキュリティファーストの文化を醸成して、安全・安心・安定、強靭なIT基盤を構築していきます。 |
リスク名 |
⑥災害リスク |
影響度 |
大きい |
リスク内容 |
|
自然災害やパンデミック発生時の事業継続は、社会の機能の一端を担い社会に責任を負う当社グループの責務であるとともに、当社グループの存在意義に関わる重大な事項です。首都圏直下型大地震が発生した場合には、多くの建物、交通、ライフラインに甚大な影響が及ぶことが想定され、また新型インフルエンザ等対策特別措置法に準ずる感染症が発生し、パンデミックとなった場合には、多くの人々の健康に重大な影響が及ぶことが懸念されます。また、これらの自然災害又はその二次災害に伴う風評被害が広がることが懸念されます。 |
|
事業へのインパクト |
|
自然災害発生時、また新型インフルエンザ等対策特別措置法に準ずる感染症が発生し、パンデミックとなった場合には、当社グループの営業活動、財政状態・経営成績に影響を与える可能性があります。 |
|
対策 |
|
当社グループではこれらの災害等を想定した事業継続マネジメント(BCM)を策定し、自然災害の発生時には、この計画を適用又は応用することで可能な限りの事業継続ができるよう備えています。新型コロナウイルス感染症(COVID19)に関する一連の対応を振り返り、パンデミックに備えた行動手引書を作成しました。なお、災害等を想定した本社・社外での訓練等を定期的に実施し、そこで明確になった課題に対処することで、継続的に見直しを行い且つ実効性を高めていきます。 |
リスク名 |
⑦気候変動リスク |
影響度 |
大きい |
リスク内容 |
|
地球温暖化をはじめとする気候変動は、気象・海象の変化をより激しくし、安全運航の妨げにつながる危険性があります。また、気候変動対策としての脱炭素化の流れは、大量の燃料油を必要とし、主要貨物として様々な化石エネルギー資源を輸送する当社グループにとって、公的規制等によるコスト増大や輸送需要の構造的変化などの形で事業環境を大きく変える可能性があるだけでなく、気候変動対策が十分でなかった場合、当社グループの競争力の低下につながる懸念もあります。 |
|
事業へのインパクト |
|
今後、気候変動の影響が顕在化し、輸送ルートの変更を余儀なくされることにより運航コストの増加につながることや、積載貨物や船舶の損傷や訴訟リスクが増加する可能性があります。また、気候変動対策としての脱炭素化の流れに対応できなかった場合、当社グループの営業活動、財政状態や経営成績に深刻な影響を及ぼす可能性があります。 |
|
対策 |
|
当社グループは安全運航の徹底を最優先課題として安全運航水準と危機管理体制の維持強化に努めています。自社システムによる気象・海象予測を踏まえた最適航路選定により、高波高域への入域や船体動揺・貨物損傷リスクの低減に努めています。また、事業へ及ぼす影響に対する対策として、荷崩れを引き起こす一因となる特定の横揺れの発生を予測するアプリ導入などにも取り組んでいます。 また「“K” LINE環境ビジョン2050」では、2050年GHG排出ネットゼロへの挑戦を宣言しており、長期ビジョンとして、経済的成長と企業価値向上に向けて、自社・社会のスムーズなエネルギー転換にコミットし、低炭素・脱炭素社会の実現に向けた活動を推進することを掲げています。中期経営計画では、低炭素・脱炭素化を機会とした成長戦略に基づき、環境への投資により成長を実現していく計画です。さらに、TCFDが提言するシナリオ分析を見直すとともに、そこで特定された「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4項目における気候変動リスクと機会に関する財務インパクトの試算を実施し、開示内容も拡充しています。 |
毎月行われる予算編成とモニタリングの機会を利用して、年2回の感度分析とストレステストを実施しています。
主要な変数は、為替レート、金利、燃料油価格のほか、ドライ・バルカーのBDI(バルチック・ドライ・インデックス)、石油タンカーのWS(ワールド・スケール)などの市場指数であり、これらの変数は、営業損益や経常損益の主な変動要因となります。
また、VesselsValue.comや海運ブローカーなどの専門的な情報源を利用して、事業の中核資産である保有船舶の市場評価テストを行っています。
当社グループでは、事業戦略の実行を妨げる可能性があり、まだ顕在化していないものの従来に増して重要性が高まっているリスクをエマージングリスクと定義しており、当社グループで認識しているエマージングリスクを下表に纏めています。
エマージングリスク名 |
①地政学情勢の変化による荷動きや船舶建造、保守に与える影響 |
リスク内容 |
|
地政学的な要因、特に米中関係の不透明性が高まることで、当社グループの経営成績に影響を与えるリスクがあります。世界的なサプライチェーンの変容や地産地消の動きは、顧客の事業モデル見直しを促進し、長期的には輸送需要と供給能力のバランスを崩し、マーケットコンディションやプライシングに影響を与える可能性があり、当社グループの事業に大きな影響を与える懸念があります。さらに、中国での船舶建造量や当社の保守、入渠に係る中国への依存度の高さを鑑みると、米中関係の悪化は船舶の建造・保守に支障をきたし、継続的な船舶運航を阻害する可能性があります。現在も中国での新造船発注残があり、当該リスクを注視していく必要があります。 |
|
事業へのインパクト |
|
当社グループの事業は海上輸送に大きく依存しており、荷動きの動向は経営成績に大きく影響を及ぼします。また、保有船舶は5年ごとの入渠が必要であり、各国の船舶の多くが利用している中国ドックへの入渠が阻害された場合、船舶運航ひいては当社グループの営業活動と経営成績に大きな影響を与えます。さらに、世界の半数近くを占める中国での船舶竣工量は近年増加傾向にある一方、中国での船舶建造が阻害された場合、世界的な船舶供給ひいては当社グループの営業活動や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。 |
|
対策 |
|
主要顧客とのパートナーシップ深化を中核としながら、多様な顧客との関係強化を通じて成長機会を創出するなど、事業特性に応じた役割を明確化し、ポートフォリオの適切なマネジメントを実施しています。また、営業・運航要員の増員、環境営業の強化など、営業体制の進化・発展を通じて顧客の事業戦略の変化を機敏に捉え、サプライチェーンや事業モデルの見直しに柔軟に対応しています。新造船の発注においては、グループ全体での管理、リスクの定量化、分散発注の検討など、専門家との協議に基づいたリスク最小化策を講じています。船舶修繕についても、グループ全体での管理・分散化を図り、ベストプラクティス策定に向けた協議を進めています。 |
エマージングリスク名 |
②海運業を脅かすエマージングな技術革新 |
リスク内容 |
|
3DプリンタやAR/VR技術、自動化などの技術革新は、今後海運業の参入障壁を引き下げる技術となる可能性があると考えられます。3Dプリンタで扱うことのできる素材の広がりや造形方式の進化などを背景に、最終製品量産のための活用も広がる可能性が高まっています。またデジタル化や産業メタバースの活用による港湾作業や船舶運航の自動化・自律化の複合的な活用は、人手不足への対応や業務効率化に寄与します。これらの技術革新は、海運業の省コスト化につながる一方で、他業種からの参入障壁が低下する可能性にもつながり得ます。 また、消費財や完成品の輸送においては、技術革新による製造体制の変化により地産地消が進む可能性があり、特にコンテナ輸送需要や完成車輸送において、事業環境に構造的変化を与える可能性もあり、今後より一層幅広い分野の技術動向に注視していく必要があります。 |
|
事業へのインパクト |
|
3DプリンタやAR/VR技術、自動化などの技術革新は、参入障壁の低下により、新たな競合他社が市場に参入しやすくなり、価格競争が激化する可能性があります。これは、新しい競合他社の出現につながり、既存企業の市場シェアを奪う可能性があります。また、技術革新はサプライチェーンの効率化やコスト削減につながる可能性や、新技術の普及により、既存の設備やノウハウが陳腐化し、新たな投資が必要となる可能性もあります。事業環境の構造的変化により、当社グループの営業活動や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。 |
|
対策 |
|
新技術に対応できる人材の育成や最新技術を持つ企業との戦略的な提携を検討し、海運ビジネスに捕らわれることなく、最新技術トレンドを常に把握し、自社事業への影響を評価する体制を構築する必要があります。そのために事業部門別に、課題の整理・洗い出しと優先課題の抽出など体系的に整理し、外部専門知見のサポートを得て継続的にリスク状況をモニターできる「リスクインテリジェンスサイクル」を構築し、モニタリングできる体制作りに取り組んでいます。 |
当社は、安定収益型事業の維持・拡大と市況影響型事業における競争力の強化、戦略的成長分野の投資拡充といった事業ポートフォリオ転換の実現と、それらを通じた企業価値向上を目指し、2017年10月に以下2点を軸とした経営管理の高度化を公表しました。
想定最大損失額を連結自己資本の範囲内にコントロールし、適正な投資規模による「安定性」と「成長性」を両立させます。事業リスク量(=想定最大損失額)は、事業特性を踏まえながら、統計学的手法を用いて計測します。
事業におけるリスクは多種多様です。事業リスクリターン管理は、自己資本毀損に至る「損失発生リスク」を対象にしています。事業リスクリターン管理対象外の事業におけるリスクは、各事業ユニットがコントロールの上、全社管理は危機管理委員会およびその下部組織でマネジメントする社内体制を取っています。

事業リスクに見合うリターン確保を重視した投資・事業評価指標("K" VaCS/"K" RIC)を導入し、それらを用いて最適な事業ポートフォリオへ転換します。
