開会挨拶

開会挨拶(代表執行役社長 五十嵐 武宣)

 

本日のポイント(P.2)

  • 本年度は足元で米国通商政策の影響など、注視すべき状況が続いているが、成長を牽引する役割の自営3事業の中長期での将来需給は引き続き堅調と見ている。
  • 当社の今までの事業成長でキーとなってきた強みである3機能(安全・船舶品質管理、環境・技術の高度化、DX)を強化の上、各事業と掛け合わせて持続的成長を実現させていく計画である。
  • 当社の強みが活きる領域で、投資規律を緩めることなく、顧客・パートナーとの連携強化や提携・M&Aなどの取り組みで更に成長を加速させる方針である。

 

機能戦略の強化(P.3)

  • より尖らせて行く3機能は、「安全・船舶品質管理」、「環境・技術の高度化」、「DX」であり、当社の各事業と掛け合わせ、その強みが活きる領域を拡大していく方針である。
  • 「安全・船舶品質管理」では、当社は高いレベルの海務・海技力を持っていると考えており、船員の確保育成と増強を通じて更に強化していく。これら海務・海技力の磨き上げにより、液化ガスや還元鉄の輸送、High & Heavy貨物など難易度高いハンドリングの領域を拡大させていく。
  • 「環境・技術の高度化」では、足元でLNG焚き船の投入を進めており、これに続いた次世代ゼロエミッション船の投入検討も進めている。社会と顧客の脱炭素化に向けた需要は継続的に高まっていくと考え、新たな燃料のサプライチェーン構築にも貢献しながら、顧客が求める付加価値提供を実現していく。
  • 「DX」については、運航・積付など海運業特有のデータ活用や、CO₂削減管理を高度化することで、付加価値の創出を目指している。加えて、デジタル化の徹底と、AIなどの活用による効率化・合理化を推進することで、事業付加価値の実現、競争力の向上、データドリブンな経営の高度化を目指していく。

 

事業成長の方向性(P.4)

  • 事業成長に向けて、ここまで説明した当社の強みとなる3機能に磨きをかけ、それを活用できる領域での拡大を通じ、資本コストを意識した持続的事業成長を目指す方針である。
  • 当社の事業成長の方向性は、「当社の強みとなる機能の強化」、「当社の強みを活かした事業領域の拡大」、「当社の強みを活かした提携・M&Aによる成長加速」の3つに大別される。
  • 「当社の強みとなる機能の強化」は、先にも述べた通り、「安全・船舶品質管理」、「環境・技術の高度化」、「DX」の機能を強化することであり、これらにより競争優位性を強化し、既存ビジネス拡大・新規ビジネス獲得を実現し、収益強化に繋げる。
  • 「当社の強みを活かした事業領域の拡大」による成長は大きく3つの領域での拡大を想定する。

   ▸第一に、液化ガス輸送、還元鉄といった特殊貨物輸送など、当社の技術力を活かせる輸送領域

   ▸第二に、舶用の新燃料バンカリングなど、強みを活かした低脱炭素化の新たなサプライチェーン構築への貢献

   ▸最後に、低炭素・ゼロエミ船投入による、輸送面での新たな価値の提供

  • 加えて、当社の強みを活かせる領域では、投資規律を緩めること無く、成長の加速に向け、船舶・船隊の競争力向上、輸送能力・機能強化を念頭に提携・M&Aも検討していく。

 

収支目標(P.5)

  • 中長期的な収支目標として、30年度までに自営事業経常利益1,100億円+αの実現を目指す。
  • 先に述べた通り、「安全・船舶品質管理を活かした特殊貨物輸送能力の拡充」や「低炭素船、ゼロエミ船投入による新たな製品サービス投入」、「データ活用による効率化・CO₂削減高度化、デジタル化徹底による自社業務競争力の向上」など、当社の強みとなる3機能を各事業と掛け合わせることで1,100億円達成を目指す。
  • 加えて、自営事業における取り組みの深度化と、成長の加速を可能にする提携・M&A施策を組み合わせることで、+αの実現を目指す。

            

本日の進め方(P.6)

  • 本日はこの後、『成長を牽引する役割を担う事業』に関して、各統括役員からご説明させていただく。
  • 自動車船事業を常務の杉本より、鉄鋼原料事業を専務の田口より、LNG輸送船事業を専務の岩下より説明する。

 

自動車船事業

自動車船事業(常務執行役員 杉本 治彦)

 

1. 市場動向

需給バランスの見通し(P.9)

  • 図は、2024年から35年までの自動車船市場全体の需給見通しを示す。24年の需要を100として、薄い灰色が需要、濃い灰色が供給、赤線は各年の退役船規模を示す。
  • 需要は、自動車販売台数の堅調な成長に伴い、2030年にかけて毎年1%ペースの微増を見込む。
  • 一方供給は、25年26年と新造船の竣工が進むため、26年頃から需給はバランスする見通し。
  • 他方、30年以降は、2010年前後に竣工した船隊の大規模な退役による代替需要が存在。また、その頃にはゼロエミッション船を中心とした次世代の環境対応船への移行時期と想定。
  • 退役した船隊のキャパシティをこれらの環境対応船がカバーできるのか、需要と供給のバランス推移を注視。
  • なお、前提として、スエズ運河は26年度から通航可能前提とし、他方、米国関税政策やUSTRに関しては、本ページの需給見通しには考慮・反映していない。

 

2. 事業戦略

中長期成長に向けた戦略の全体像(P.10)

  • 中長期成長を実現すべく、当社の強みである機能を活かして取り組む方針。
  • 「環境対応による新たな輸送価値の創出」

   ▸自動車船事業を取り巻く市場は、環境対応への需要の高まりによって大きく変化し、新たな輸送ニーズが発生。

   ▸その中で、当社の業界トップ水準の環境対応船隊と輸送ノウハウを活かし、顧客密着を通じた提案・協働により契約を獲得し収益を拡大。

  • 「需要変化に応じた航路網の再編」

   ▸電気自動車の普及によって生産地や需要地が変化し、新たな輸送需要も発生。

   ▸強みの機能である組織営業力を生かし、顧客と密に連携しながらこの新しい需要を捕捉。

   ▸そして、顧客のニーズに合わせた航路網を再設計・アップグレードする方針。

  • 「貨物ポートフォリオの最適化」

   ▸建設機械や農業機械、ブレイクバルクなどの収益性の高いHigh & Heavy貨物輸送のニーズが拡大。

   ▸当社の強みである、安定した輸送能力と高い海技力を活かして、これらの貨物輸送拡大を推進。

 

環境対応需要の見通しと当社の取り組み(P.11)

  • 図は、24年から35年までの自動車船市場全体における燃料別の船隊構成の変化を示す。
  • 20年代中盤からは、環境規制の進展、及び顧客側の脱炭素ニーズの高まりに伴い、LNG燃料船は増加傾向。
  • また、28年1月よりIMO単純課金適用が開始される見込みであり、これにより将来的には環境対応船のコスト競争力が重油焚き船を上回る見通し。
  • 30年以降は、環境規制は更に厳格化し、一方で2010年前後に大量竣工した重油焚き船の退役が進むことで環境対応船の導入が一層加速化すると予想される。
  • 当社は環境対応船をいち早く導入し、顧客ニーズに合わせたサービスを既に提供している。
  • 今後環境対応船による完成車輸送を、将来に向け顧客と共創していく方針。

 

環境対応による新たな輸送価値の創出(P.12)

  • 当社の強みは、安定したサービスを基盤に、環境対応船による取組を一緒に進めていただける顧客層を有していること、緊密に連携することで、協業や提案をスムーズに進めることができる関係があること。
  • また、環境対応船について、当社は既に船隊の1割を超える9隻を運航しており、これは顧客の環境対応ニーズの顕在化以前からの先行投資によるものである。
  • 一方で、顧客ニーズの観点からは、脱炭素化の推進に伴い、環境対応への需要が高まっている。
  • 完成車メーカーの環境対応船での輸送はまだ限定的であり、環境対応船も希少であることから、相対協議の機会が増加している。
  • これにより、環境対応船が提供する価値に見合う中長期契約が可能となっている。
  • 環境対応船への先行投資という当社の提案が評価され、重油焚き船の条件よりも高い評価を得て、長期の契約を獲得する実績も積みあがっており、今後も積極的に推進していく。 

 

事業KPIの進捗と見通し(P.13)

  • 左の棒グラフは、24年度から30年度までの当社全輸送量の内訳予測を示す。
  • 右側の①から③の3つのグラフは、24年度の輸送量を100とした場合の、23年度から24年度への成長率と、26年度および30年度における目標値をそれぞれ示す。
  • ①の環境対応船は、

   ▸24年度において、船隊拡大に伴い輸送量が前年比で大幅に増加。

   ▸今後、26年度には200%、30年度には500%の成長を目指す。

  • ②の航路網の再編は、

   ▸輸送需要の変化と拡大に伴う契約獲得により、23年度から24年度にかけて大幅に成長。

   ▸一例として、インドからの輸出が成長する見通し。一時的な需要の変動ではなく、長期的視点に基づく輸送需要の拡大を見据え、今後も取り組みを推進。

  • ③のHigh & Heavyは、

   ▸市場全体の輸送需要が軟化したことから、23年度から24年度にかけて輸送量が微減したが、スペースがタイトに推移したことから収益性は維持。

   ▸今後、26年度に向けては10%、30年度に向けては40%の成長を目指す。

 

3. 収支見通し/投資計画

今後の収支見通し(P.14)

  • 図は、24年度の実績値を100とした場合の為替影響および一過性損益を除いた正味経常利益の推移を示す。
  • なお、米国関税政策については、25年度のみ考慮。USTRによる米国入港時の手数料については、不透明性が高いため、その影響は考慮していない。
  • 30年度には、環境対応船投入による収益成長を中心に、航路網の再編およびHigh & Heavy貨物の拡大にも並行して取り組み、24年度比で15%の成長を目指す。

 

今後の投資見通し(P.15)

  • 26年度までの中計期間における、2,000億円の投資計画は順調に進捗しており、現時点で約8割から9割は発注済。
  • 内訳としては、主に環境対応船の整備、船隊の大型化、そしてHigh & Heavy積載能力、機器の強化。
  • 中でも、環境対応船については、今後、当社船隊における割合を増やす計画。
  • LNG燃料船は既に9隻保有しているが、29年度以降は所謂ゼロエミッション船の投入を目指す。
  • 現中計期間以降も、顧客に選ばれる競争力のある船隊整備を推進する。

 

FY25減益要因(P.16)

  • 24年度実績と比較した25年度の業績予想は、米国関税の影響を織り込んだ上で減益となる見込み。
  • 図は、24年度の実績値を100とした場合の経常利益の増減要因と規模を示す。なお、為替影響は除く。
  • 隻数の増加による輸送台数の増加と、環境対応船の投入効果が収支を改善させている一方で、先行して環境対応船を順次投入することによる船舶コストや、輸送台数増加に伴う運航コストが増加。
  • 結果的に、為替と関税の影響を除くと、25年度の予想は約5%強の減益にとどまり、大幅な減少は見込まない。
  • 関税影響を加味しても、約25%の減益にとどまる見通し。

 

地政学的状況変化(P.17)

  • 現在、米国関税政策やUSTRの規制、スエズ運河通航の再開など、地政学的な状況が変化しており、減益リスクが存在。
  • 米国関税政策の影響で、顧客であるOEMの生産調整や、販売価格上昇による販売不振が想定される。
  • 25年度収益は、貨物量減少と運賃下落により約130億円の減益リスクがあり、これは本決算時点の見立てと変わりない。
  • USTRによる規制は2025年10月開始予定で、大きな影響が見込まれる。しかし不確実性が高いため、現時点では25年度収益への影響は加味していない。
  • スエズ運河の通航再開については、乗組員と貨物の安全を最優先し、25年度は通年で喜望峰迂回を継続する計画。

 

減益リスクに対する収益安定化の取り組み(P.18)

  • 左のグラフは、契約の中長期化を通じ、持続的な運賃水準を確定していることを示す。
  • また、右のグラフでは、輸送需要減に備えて、常時10%程度の下方柔軟性を維持していることを示す。
  • このように、影響を最小限に抑えるための対策を引き続き講じていく。

 

本日の説明の要点(P.19)

  • 2026年頃から需給はバランスする見通し。一方、2030年以降は退役と新造のバランスを要注視。
  • 「環境対応による新たな輸送価値の創出」を通じた成長を目指し、「需要変化に応じた航路網の再編」や、「貨物ポートフォリオの最適化」にも並行して取り組む。
  • 競争力のある環境対応船隊を構築しており、顧客密着を通じて顧客から高い評価を獲得していく。
  • 強みを更に磨き上げるためのM&Aも視野に。
  • 従前からの収益安定化に向けた取り組みを継続し、短期的リスクを最小化。

 

鉄鋼原料事業

鉄鋼原料事業(専務執行役員 田口 雅俊)

 

1. 市場動向

需給バランスの見通し(P.22)

  • 当社は、鉄鋼原料における海上輸送(主に大型船)の需給バランスは、今後引き締まっていくと予想。
  • 左のグラフは、原料別の大型船海上輸送量を示し、右のグラフは大型船の隻数、及び新造船と解撤船の隻数を示す。
  • 輸送需要については、主原料の輸送量そのものはやや減ると見込まれるものの、 25年末以降の輸送距離が長くなるギニア鉱石の輸送開始やボーキサイトの海上輸送需要増加等により、トンマイルベースでは緩やかな増加が見込まれる。
  • 船腹供給については、この先数年の限定的な発注残と、建造能力がかつてより減ってきたことで、新造船供給が限られること、また、2010年前後の大量竣工期建造船が退役時期を迎えることから、全体として需要とバランス方向に向かっていくと予想。

 

主要顧客の需要の見通し(P.23)

  • 当社の主要顧客の需要は、日韓ミル・資源メジャーは概ね横ばい、印・中東顧客は拡大を予想。
  • 左と中央のグラフは日・韓、及びインド・中東の粗鋼生産量の推移を示し、右のグラフは資源メジャーの大型船輸送需要を示す。
  • 日韓ミルの粗鋼生産量は、国内生産は24年と較べると当面やや減少が見込まれるも、全体としては横ばいで推移し、輸送需要も同様に推移すると予想。
  • インド・中東顧客は、経済成長に伴い粗鋼生産量が年率5~6%増加し、原料輸送需要も2030年にかけて増加見込み。
  • 輸出側となる資源メジャーは、横ばいで推移する予想。

 

2. 事業戦略

中長期成長に向けた戦略の全体像(P.24)

  • 中長期成長に向けては、当社の強みである機能を活かし、高い安全運航品質と環境技術、顧客への丁寧な対応で主要顧客のシェア維持・向上を目指す戦略は、中計当初から一貫して継続。
  • ページの左側は、鉄鋼原料における機能戦略のポイントを示す。
  • 鉄鋼原料においては、ピラミッドの右下、高い安全・船舶管理品質と、中央の顧客の環境対応に対処し得る高い環境・技術、上段の顧客ニーズへのきめ細やかな対応を可能にする組織営業力が特に重要な要素
  • 当社は既に業界でもトップ水準の安全性を誇るが、環境対応船での十分な安全運航品質提供に向け、船員の確保・育成に努めている。
  • また、24年5月の当社初のLNG DF(二元燃料)ケープバルカーの運航を開始後、経験を通して、環境対応船の運航・船舶管理ノウハウを蓄積させている。
  • これらの強みを更に活かすことで、引き続き、日韓ミルのシェア維持・向上、増加する印・中東顧客の需要取りこみ、資源メジャーのシェア向上、貨物ポートフォリオの拡大によるアップサイドの実現を目指す。

 

環境対応需要の見通しと対応(P. 25)

  • 業界全体で脱炭素に向けた流れは変わらぬ中で、足元、輸送分野における環境対応については、当初の想定よりやや遅れが見られている。
  • 左側に、大型船における環境対応船需要の推移をイメージ図で示しているが、船価、納期の伸延、新燃料の供給や環境規制の見通しづらさなどが影響している。
  • かかる状況下で当社は、伸びた移行期ニーズの捕捉と適切な船腹調達に努めている。
  • 具体的には、環境対応船投入までの顧客の移行期を重油焚き船で繋ぐニーズを捕捉し、それらの案件を逃さず獲得すること、また、船隊と貨物のバランスを重視し、投機的な先行発注はさけつつも、先の需要増加を見据えて、適切な範囲で戦略的な船腹調達を実施している。

 

主要顧客に対する取り組み・成果(P. 26)

  • 環境対応の動きはややスローダウンした中でも、高い安全運航品質と環境技術、丁寧な顧客対応を続けることで、主要顧客との取り組みは進捗。
  • 日韓ミルについては、LNG DF(二元燃料)大型船の運航を開始し、実績と知見が積み上がる中、更なる環境対応船に関する商談が徐々に増加している。加えて、安全運航やきめ細やかなサービス品質を通じた安定操業への貢献が評価され、顧客から表彰を頂くなどし、引き続き、顧客からの信頼を向上させている。
  • 印・中東顧客については、現地スタッフ含め人員を拡充し、営業活動を活性化させたことで、潜在ニーズの発掘が進み、多くの商談に結び付いている。加えて、環境対応船の投入や船舶大型化等、脱炭素化に向けた協議を加速させている。
  • 資源メジャーについては、高度な環境技術力を活かし、脱炭素化に向けた共同研究を推進している。加えて、研究のみならず、具体的な成果として、オペレーション面での協働も開始しており、関係性は以前より強固になっている。
  • 今後も、顧客の挑戦のパートナーとして選ばれ続け、主力キャリアとして共に成長することを目指し、各種取り組みを進めていく。

 

貨物ポートフォリオ拡大によるアップサイドの実現(P.27)

  • また、当社の強みを活かせる、還元鉄、ボーキサイトなどの貨物でのポートフォリオ拡大を通じ、アップサイドの実現も狙う。
  • まず、還元鉄については、製鉄プロセスの脱炭素化が進むにつれ、より安全管理と輸送技術が必要となる還元鉄の輸送需要が具体性を増しており、今後年率8%程度の成長が見込まれる。
  • 当社は先駆けて還元鉄輸送に取り組んでいるが、トラブルなく輸送実績を順調に積み上げており、今後も難易度の高い還元鉄の輸送ノウハウで業界を先行していく。
  • 24年度も着実に実績を積み上げており、印・中東で人員を増強したことで新規案件のアプローチも増加している。
  • ボーキサイトも、中国を中心に自動車、航空機産業の需要に支えられ年率4%の成長が予想されている。
  • 当社は、既存顧客については増加需要の取り込みに取り組みつつ、新規顧客の獲得も目指す。
  • また、現状は短中期契約が中心だが、安全運航などを通じ、顧客からの信頼獲得に努め、契約の中長期化も目指す。
  • 24年度も短中期から順調に契約を積みあげており、今後も更なる拡大を目指す。

 

事業KPIの進捗と見通し(P.28)

  • 中計の事業戦略の進捗を示すKPIは順調に進捗している。
  • 安定収益の維持・拡大は船隊規模の拡大とバラスト航海比率で管理しており、船隊規模は、昨年度より2ポイント拡大、バラスト航海比率は、22年度比1.2ポイント改善している。昨年より若干後退したのは、スエズ運河通峡を避けた影響を受けたため。
  • 組織営業力の強化については、23年度の印・シンガポールで増員に続き、昨年更に、印・中東、シンガポールで増員。
  • エクスポージャー・船隊ポートフォリオコントロールも、昨年度比4ポイント改善し、14ポイントを記録。26年度目標に向けて、更なる改善を進める。

 

3. 収支見通し/投資計画

今後の収支見通し(P.29)

  • 30年度に向けては、収益性の向上・安定化に取り組みつつ新規需要開拓等により、収益拡大を目指す。
  • このグラフは、2024年度を100とした指数で、為替影響などの要因を除いた、正味経常利益と隻数の推移を表す。グレーの棒グラフは隻数を表しており、赤い棒グラフは正味経常利益を示す。
  • 収益安定化のため、貨物契約と船隊構成のバランス適正化を進めつつ、環境対応を軸にした主要顧客のシェア維持・向上により、30年度までに正味経常利益+25%を目指す。

 

今後の投資見通し(P.30)

  • 左のグラフは、燃料・傭船形態別の最新の船隊計画を示す。
  • 業界全体で、船価、納期の伸延、新燃料供給や環境規制の見通しづらさなどにより環境対応船移行の動きがやや遅くなっていることから、環境対応船の拡大時期もこれまでの想定より遅れ、26年度までの中計期間での投資予定額は200億円の後ろ倒しが見込まれている。
  • 一方、25年4月にIMOが国際海運の新たなGHG排出削減対策承認に至るなど、環境対応の必要性は以前より強まっており、需要自体は引き続き、底堅く存在している。
  • 需要時期と確度の変化を見据えて柔軟に船腹を調達していく方針。

 

地政学的状況変化(P.31)

  • 現在、当社事業へ影響を与えうる地政学的状況変化として、米国関税政策、USTRによる規制、スエズ運河通峡の再開の3つがあげられる。
  • 米国関税政策については、今後どのように進展するか不透明だが、現時点では当事業への影響は限定的と見込んでおり、今後、世界各国の経済にどの程度の影響を及ぼすかを注視している。25年度収益に関しては、貨物量・市況ともに、影響は限定的と見ているが、荷況や市況を通じての一定の影響は織り込み、計画へ反映している。
  • USTRの規制については、大型船は対象貨物が限定的であること、当社船隊の内、中国建造船は少量であることから、影響は限定的と見込む。
  • スエズ運河については、当社は未だ十分な安全性が確認できていないと見ており、25年度は引き続き迂回が継続すると予想している。仮に、再開したとしても、市場の船腹供給量への影響は1~2%程度とみており、影響は軽微にとどまる見込み。

 

本日の説明の要点(P.32)

  • 当社の強みである機能を活かし、環境対応を軸に顧客密着で主要顧客のシェア維持・向上を目指す戦略は今後も継続し、中長期的な成長を目指す。
  • その中で、足元の環境対応の動きは想定より後ろ倒しとなっているが、顧客への丁寧な対応を続け、移行期を繋ぐニーズを含め、需要を見据えた船腹調達を着実に実施していく。
  • 加えて、強みの活かせる貨物へのポートフォリオ拡大や、成長の加速に向けて提携・M&A等も視野にアップサイドを目指す。
  • なお、前提となる需給の見立ては昨年から大きく変わりなく、中長期的に需給は引き締まる予想で、米国関税政策やUSTRの規制、スエズ運河通峡再開などの短期的影響も限定的と見込む。

 

LNG輸送船事業

LNG輸送船事業(専務執行役員 岩下 方誠)

 

1. 市場動向

世界のLNG需給の見通し(P.35)

  • 左のグラフは、世界のLNG取引量の推移を示しており、薄い灰色が昨年時点の見通し、濃い灰色が最新見通しを示している。
  • 昨年の見通しと比較して、取引量増加のタイミングがやや後ろ倒しになっている。
  • これは、米国の政治的な動きや建設関連コストの上昇などによって、一部のプロジェクトの立ち上がりが遅延している事が主な要因。
  • 一方で、LNGはカーボンニュートラル社会実現に向けた現実解であることを背景に、中長期的には変わらぬ需要を見込んでおり、LNG輸送船の需要も2040年に向けて堅調に成長する予測。
     

地域別LNG需給の見通し(P.36)

  • 左のグラフは地域別のLNG供給量の見通しを示している。
  • 北米の複数の新規プロジェクトの立ち上がりや、カタールの大型プロジェクトの進展が市場の成長に大きく寄与すると見られている。
  • また、右のグラフは地域別のLNG需要の見通しを示している。
  • 2040年にかけて、経済発展に伴うエネルギー需要の増加、環境規制への対応などにより、特に南アジア・東南アジア・中国において需要の拡大が見込まれており、市場の成長を大きく牽引する見立て。

 

2. 事業戦略

中長期成長に向けた戦略の全体像(P.37)

  • 冒頭に五十嵐より機能戦略の説明をした通り、LNG輸送船事業においても当社の強みである機能を磨き上げることで、顧客・パートナーに選ばれ、中長期的な成長を実現していく。
  • 左側にLNG輸送船事業における機能戦略のポイントを示している。
  • ここでは3つの機能「DX」「環境・技術の高度化」「安全・船舶品質管理」を並べているが、中でも、「安全・船舶品質管理」については業界トップ水準の維持・向上に努めており、黎明期から変わらず当社LNG輸送事業の強固な事業基盤を構成している。
  • 加えて、これまで培ってきた液化ガス輸送の知見を活かし、「環境・技術の高度化」や「DX」、それらを支える「人材・組織」を合わせた機能戦略を軸として、当社が展開する事業戦略について右側に示している。
  • 詳しくは後段で説明するが、当社の強みである機能を活かし、この成長市場において、既存顧客向け案件の積み上げ、及び、新規ビジネスの獲得と契約終了後のLNG輸送船の有効活用や液化ガス輸送でのアップサイドの実現を目指す。

 

事業戦略の進捗と見通し(P.38)

  • 左のグラフは、当社LNG輸送船の関与隻数と市場規模の推移を示している。
  • 当社は、足元46隻から2026年度には65隻へ、2030年度には75隻以上とし、中長期的には100隻体制を目指す。
  • 右上に掲載しているLNG船社ランキングの通り、関与隻数ベースでは現在4番手であり、業界内での存在感をより一層高めていくために、「既存顧客のシェア維持・向上」と「新規顧客のシェア獲得」に注力していく。
  • 具体的には、カタール・ペトロナス・エクイノール・国内需要家などの既存顧客が計画する既存船隊の最新鋭船への入れ替えと拡張需要、また、需要の拡大が見込まれる南アジア・東南アジア・中国等の新興地域向け、および、世界最大の輸出国となる北米出し貨物を中心に、ターゲット案件の獲得に向けて取り組んでいく。
     

案件獲得の実績(P.39)

  • ここでは、注力地域の1つであるインドにおける案件獲得実績について紹介する。
  • 当社はこれまで、コンソーシアムメンバーの一員としてインドLNG市場に参入し、その後、組織・体制強化を行うなどの取り組みを進めてきたが、このような準備が実を結び、昨年12月にインドの大手エネルギー会社GAIL社との契約を獲得。
  • 主な獲得要因は、高いレベルの船舶品質管理とインド拠点との共同営業活動、顧客ニーズに沿った提案内容が評価されたものと分析している。
  • 液化ガス輸送案件の獲得に向けて着実に前進している状況。
  • また、ここでは昨年度の案件獲得事例としてインドでの取り組みを紹介させていただいたが、その他広域アジアでも同様の取り組みを展開しており、関与隻数の増加による安定収益の積み上げを目指していく。

 

アップサイドの実現(P.40)

  • 従来から説明の通り、当社のLNG輸送船事業は「長期安定型」を志向し、長期契約を積み上げる事で当社事業ポートフォリオとしての長期安定収益基盤を拡大していく役割を担っている。
  • このベースの役割に加えて、更なる収益拡大に向け2つの施策を計画している。
  • 1つは長期契約が満了した既存のLNG輸送船の有効活用であり、もう1つは当社の強みである機能を活かせる液化ガス輸送の更なる強化。

 

契約満了後の船舶の活用(P.41)

  • ここでは、1つ目の「長期契約が満了した既存のLNG輸送船の有効活用」について説明する。
  • 当社のLNG船隊は、ほぼ全ての船が長期契約に投入されているが、いずれは契約の満了を迎え、当社を含む船舶保有者は、契約満了後のLNG輸送船の処遇を判断する必要がある。
  • 斯様な状況下、当社は活用の選択肢・柔軟性を拡大する事で期間収益の最大化を図る。
  • 具体的には、売船・スクラップに加えて、既存契約の延長や短中期契約も視野にLNG輸送船として継続使用する他、改造工事を経てFSU・FSRUに転用する方法があり、これらの中から最適な活用方法を判断していく。

 

液化CO₂輸送の強化(P.42)

  • ここからは、当社の強みである機能を活かせる液化ガス輸送の取り組みについて説明する。
  • まずは、ネットゼロ現実解の一つとして特に重要な液化CO₂輸送について紹介する。
  • 左のグラフはCCSによる想定年間貯留量予測を示している。
  • 2050年にかけて堅調な成長を見込んでおり、液化CO₂輸送船の需要も堅調に増加する見込み。
  • 右側に、昨年の説明会でも紹介した、当社が獲得したNorthern Lightsプロジェクトを含む液化CO₂輸送の状況と今後の展望を示している。
  • Northern Lightsプロジェクトは順調に進捗しており、獲得した3隻のうち、2隻は既に竣工が完了し、残り1隻も年内に竣工予定。
  • 本船竣工にあたり、液化CO₂輸送船の運航マニュアルを作成し、船陸整合の確認を行うなど、万全の準備で臨んでいる。
  • Northern Lightsプロジェクトを通じてノウハウや実績を積み上げていき、欧州、アジア太平洋での後続案件の獲得を目指していく。
     

その他液化ガス輸送の強化(P.43)

  • 液化CO₂のほかに、市場拡大が見込まれる、かつ、社会の脱炭素化支援に資するLPG、エタン、アンモニア等の輸送にも更に注力していく。
  • 左のグラフはLPG、エタン、アンモニアの海上輸送量の見通しを示している。
  • LPG・エタンは天然ガスの生産工程における副産物であり、アンモニアは天然ガスを原料に生成され、最近では水素キャリアとしても注目されており、これらは天然ガスの需要増加に伴って中長期的な市場の成長が見込まれる。
  • これらの貨物は取り扱いの難しい危険物であるが、当社が磨いてきた船舶品質管理を活かし、LPGのように早期から成長してきた市場でのシェア維持・向上を進めるとともに、エタンやクリーンアンモニアのように今後の大幅な成長が見込まれる市場での事業拡大を企図していく。
     

LNG輸送船事業におけるKPIの進捗(P.44)

  • 昨年の説明会にて、事業計画の達成に向け、「案件獲得」、「建造」、及び、「オペレーション」の各フェーズで5つのKPIを設定し、事業の進捗を管理する取り組みについて説明した。
  • 「関与隻数」については2030年度の75隻を達成する見込みで推移している。
  • その他4つのKPIについても目標値を上回る水準を維持しており、順調に進捗している。
  • 事業計画達成に向けて、これらのKPIを継続的に管理し、高水準を維持することで、中長期的な成長を実現していく。

 

3. 収支見通し/投資計画

今後の収支見通し(P.45)

  • LNG輸送船事業の収支見通しは昨年から変わっておらず、2030年度に向けて市場拡大を上回るスピードでの成長を目指し、案件の積み上げと更なるアップサイド実現に努めていく。
  • 左のグラフは、灰色の折れ線グラフが市場の船隊規模、灰色の棒グラフが当社の関与隻数、赤色の棒グラフが当社LNG輸送船事業の正味経常利益の推移を示しており、それぞれの数値は2023年実績を100として指数化したものになっている。
  • 市場は2023年度から2030年度にかけて40%の拡大となる見込みに対し、当社船隊は70%以上、収支は150%以上の拡大を目指す。
  • また、こちらのベースシナリオに対し、アップサイドとしては先ほど説明の通り、計画以上の案件積み上げと当社の強みを活かせる領域での収支拡大を目指していく。

 

今後の投資見通し(P.46)

  • 左のグラフはLNG輸送船事業の中計期間における累計投資額を表しており、2024年5月公表時の2,500億円から500億円減少し、 2,000億円が最新の想定となっている。
  • 投資額減少の主な要因としては、投資額の一部が中計期間以降に後ろ倒しになった“期ズレ”が大半を占めている。
  • 具体的には、1枚目の「世界のLNG需要見通し」のスライドで説明した一部プロジェクトの後ろ倒しに加え、造船所への支払条件の変更など。
  • なお、前段部分で説明の通り、中計期間中に竣工予定の本船、及び、2030年の関与隻数見通しへの影響はない。
  • 引き続き、目標達成に向けて投資案件の獲得を目指していく。
     

地政学的状況変化(P.47)

  • LNG輸送船事業においては中長期契約が主となっており、地政学的状況変化による短期的な減益リスクは限定的であると見ている。
  • 米国関税政策やUSTR規制、スエズ運河通峡再開など様々な事象が想定されるが、依然として不透明な状況が続くため、状況を注視し、事業への影響を最小限に抑えるべく適切な対応策を講じていく。

 

本日の説明の要点(P.48)

  • 「事業環境」については、LNG輸送需要は中長期的に堅調な成長が見込まれている。
  • 「事業戦略」については、当社の強みである機能を活かし、技術と専門性を高め、組織的な営業を通じて既存顧客向け案件の積み上げと新規ビジネスの獲得を目指していく。
  • 「収支見通し」については、市場拡大を上回るスピードでの成長を目指し、契約獲得と収支拡大を実現している最中だが、更なるアップサイドの実現に向けて、契約満了後のLNG輸送船の有効活用や当社の強みである機能を活かせる液化ガス輸送の強化・拡大に取り組んでいく。
  • また、LNG輸送船事業においても、成長の加速に向けて、提携やM&Aも視野に検討していく。
  • 最後に、「地政学的状況変化」については、米国関税政策やUSTRの規制、スエズ運河通峡再開など様々な事象が想定されるが、LNG輸送船事業においては中長期契約が主となるため、短期的な減益リスクは限定的であると見ている。

 

閉会挨拶

閉会挨拶(代表執⾏役専務 芥川 裕)

 

本日の説明の要点(P.50)

  • 自営事業において「2030年度の経常利益1,100億円+α」の実現を目指すために、現中計で定めた、成長を牽引する役割を担う3つの事業を中心に投資を進めることを推し進める。自営事業の利益成長を通じたフリーキャッシュフローの安定的な拡大が当社全体の持続的な成長に必要不可欠で最優先の課題との認識である。
  • 事業成長の方向性については、当社が強みと認識している3つの機能、「安全・船舶品質管理」、「環境・技術の高度化」、「DX強化」を、各事業で当社が持つ強みと掛け合わせることにより、事業領域の拡大を目指す。そうした領域が当社の強みを最大限発揮できる分野であり、当社が経営資源を重点的に投下することにより、成長の果実を獲得できる分野と考える。具体的には、以下の領域での事業拡大を目指す。

   ▸LNGや液化CO₂などの液化ガス輸送、還元鉄などの特殊貨物輸送など、当社の技術力を活かせる輸送領域

   ▸強みが活用できる低脱炭素化に向けた新たなサプライチェーン構築への貢献

   ▸低炭素・ゼロエミ船投入による輸送面での新たな付加価値の提供

  • 成長を牽引する3事業や「強みが活きる領域」で顧客やパートナーとの提携やM&Aなども活用して+αのアップサイドを狙いたいと考えている。船舶/船隊の競争力向上、輸送能力・機能の強化につながり、成長を加速させる施策として、顧客やパートナーとの提携やM&Aには積極的に取り組みたい。ただし好況の際は抑制的に、市況悪化時には戦略的にという基本的なスタンスを変えるわけではなく、投資規律をしっかり効かせたうえで、攻めるべき分野・タイミングでは果敢に打って出たいと考えている。