【2023年度第3四半期決算説明会資料】

A. 2023年度第3四半期決算概要

A-1. 2023年度第3四半期業績

 2023年度第3四半期の業績実績9カ月累計は、売上高が7,153億円、営業利益+701億円、経常利益+985億円、当期純利益+740億円という結果でした。主な財務指標について、自己資本が1兆5,085億円、自己資本比率は73%です。当社は会計に日本基準を使っていますが、国際的な海運のスタンダードである国際会計基準に従い、当社傭船料債務の資本費部分をオンバランスの債務と認識すると、自己資本比率は約57%~59%になります。これはヨーロッパのコンテナ船社とほぼ同じぐらいの数字になると評価しています。

 

A-2. セグメント別第3四半期業績

 セグメント別の第3四半期業績9カ月累計について、各セグメントの経常利益は、ドライバルクが+16億円、エネルギー資源が+47億円、製品物流全体で+966億円、内コンテナ船事業は+338億円です。コンテナ船事業以外の製品物流事業の経常利益は+628億円で、こちらは前年同期比で126億円の改善となりました。

 

 

B. 2023年度通期業績予想と取組み

B-1. 2023年度通期業績予想及び変動要素

 2023年度通期の業績予想について、売上高は9,400億円、営業利益は+870億円、経常利益は+1,350億円、当期純利益は+1,050億円という予想数値です。売上高と営業損益は、OCEAN NETWORK EXPRESS (ONE社)の収支が経常段階から入ってくる前の段階の、当社自営事業の業績を示す数値です。売上高は前回公表比100億円の増加、営業損益は50億円の減少ですが、経常利益と当期利益については、前回公表値と変更はありません。

 なお、売上高について当社のこれまでのレコードは、売上高の高いコンテナ船が当社事業にあった2015年3月期の1兆3,524億円が一番高い数字です。営業利益は、2008年3月期の1,296億円がこれまでのレコードです。

 ドル円為替変動の経常損益への影響額は、第4四半期の3カ月間について、1円の変動で4億円上下します。燃料油価格は、トン当たり10ドルの燃料油の変動で1,000万円程度の影響があります。燃料油価格については、BAF(Bunker Adjustment Factor)によって、油価の値上がりのほとんどが補填される形になっています。

 株主還元について、今期末の株主配当を前回予想1株当たり100円から、1株当たり50円増額し、150円とします。既に中間配当100円は実施済みなので、通期の配当予想は250円とする予定です。これに加えて2024年度も増配し、1株当たり250円の通期配当を予想しています。また、株式分割も行う予定です。株主還元に関しては、後ほど13ページで詳しく説明します。

 

B-2. セグメント別通期業績予想

 セグメント別の通期業績予想について、各セグメントの経常利益予想は、ドライバルク+55億円、エネルギー資源+75億円です。製品物流は全体で+1,285億円、うちコンテナ船事業が+450億円、コンテナ船事業以外の製品物流で+835億円です。前回公表値との差は、ドライバルクで30億円の下方修正、エネルギー資源で5億円の下方修正、製品物流で35億円の上方修正で、全体としては前回公表値と経常利益は変わりません。

 前年同期比は、ドライバルク、エネルギー資源、コンテナ船事業で減益となっています。一方、自動車事業を中心とする、コンテナ船事業以外の製品物流は、前年同期比上振れていて、経常利益は+835億円になります。コンテナ船事業以外の製品物流の経常利益は、2022年度通期 611億円から835億円に37%と大幅な増益を見込んでいて、全体としての経常利益は前回公表値と変わらず1,350億円をキープすることができています。

 前回公表数値との比較では、ドライバルクが30億円下方修正しています。これは主に一過性の原因によるもので、例えばパナマ運河の通峡制限による滞船の発生、あるいは荒天影響などによる本船の遅延、それから一部の一般管理費の一過性の増加などのような複合的な要因によるものです。エネルギー資源の5億円の下方修正も、主には一般管理費の一過性の発生によって修正しているものです。一方、コンテナ船事業は前回公表比で20億円の上方修正を行っています。第3四半期においては想定以上にコンテナ船の積高、運賃が下落しました。これに対して第4四半期に至って、中東情勢の緊迫によりサプライチェーンの逼迫が起こるだろうということがマーケットに蔓延して、運賃水準が急騰、第3四半期での損失分を上回る利益を第4四半期に上げる見通しによるものです。

 第3四半期実績の経常利益の合計+132億円に対して、第4四半期予想の+366億円と、第4半期が大きく増える形になっています。これは、先ほどご説明したような一過性の損失が主に第3四半期に集中して、第4四半期に至ってそれが正常に復するので、もとに戻る形になるとご理解いただきたいと思います。

 次に、事業別の定性的な概況をご説明します。ドライバルクは、大型船、ケープ船の市況は、昨年度の第4四半期くらいから滞船緩和が進んだため軟調に推移しました。昨年秋以降豪州、ブラジル出しの鉄鉱石、アフリカ出しのボーキサイト、コロンビア出しの中国向け石炭などの需要が高まり、一時的に市況が高騰することがあり、ボラタイルな動きをたどっています。中小型船は、期初に欧州等の遠隔地向けの石炭、鋼材輸送の減少によって下落しましたが、穀物の輸送需要の回復、それからパナマの渇水等の滞船によって船舶稼働率が押し下げられ、8月中旬くらいから上昇傾向となりました。しかし、足元では年末年始の休暇を境に下落基調で推移している状況です。

 エネルギー資源は、運航船のほとんどが中長期の契約のもとにあるので、市況の影響は極めて限定的です。為替の影響や、先ほどお話しした一過性の損益の変動要因がない限りは、予想数値のまま推移すると見ています。

 製品物流のうち自動車船事業については、自動車メーカーの部品不足や半導体不足という状況による減産は既に緩和されていて、各自動車メーカーは、まだバックオーダーの解消にまでは至っていませんが荷量は堅調で、輸出需要は高い水準で推移する見通しです。とりわけ北米向けが強く、2023年末の段階で、太平洋域で70万台規模の貨物が輸送スペースを探している状況です。一方で、これまで台数を伸ばしてきた中国のOEM車は、各地で在庫が積みがっているという話が漏れ聞こえ始めています。今後これまでのような輸出攻勢が継続するのか、注視が必要な状況だと思っています。2023年度の当社の自動車輸送台数は331万4,000台と見ていますが、2019年度においては332万8,000台でした。今年になってようやくコロナ前2019年度の水準に戻ってきたというところです。

 

(ONE社資料)3. 2023年度通期見通し

 製品物流のうちコンテナ船事業について、2023年度のONE社の通期業績、税引き後の利益は8億5,600万ドル、日本円換算で約1,200億円です。当社持分がそのうち31%で、372億円程度と見ています。これは前回予想比500万ドルの増益です。前年同期比では141億4,200万ドル、約94%利益は減少しています。

 第3四半期に関しては、新造船の竣工により供給が増加、国慶節後の中国の荷動きも伸びず、複数回の運賃修復を試みましたが改善しませんでした。このため当初の予想より第3四半期の積高、運賃とも公表前提を下回る結果となりました。一方、第4四半期に至り、中東情勢に起因するサプライチェーンの逼迫予想から、足元の東西航路の往航は、短期運賃が一時的に大きく上昇している状況です。当社の予想ですが、スエズ運河を通航する欧州地中海サービスが喜望峰回りのコースをとっていますが、この状況が恐らくは今年3月ぐらいまでは続くのではないかと予想しています。その前提で、運賃も今は高止まっていますが、状況が見え始めると、旧正月の2月にピークを迎えた後、運賃も平準化に向かう想定のもとに収支計画をつくっています。したがって、スエズ運河の通航の安全性の確保が遅れるようなことがあれば、供給の逼迫状況は改善せず、運賃水準も高止まりするシナリオの可能性もあるとは見ています。

 

B-3. 自営事業のポイント(前年通期実績比)

 自営事業の経常利益の合計を総括して2022年度と比較してみると、2022年度のコンテナ船事業以外の自営事業の経常利益は店費前で+892億円でしたが、今期+965億円に改善します。ただし為替の影響が135億円あり、製品物流141億円の改善とあわせて、ドライバルクとエネルギー資源のマイナスを補った、というのが今年の姿です。

 

B-4. 中東情勢悪化によるスエズ運河通航回避・パナマ運河通航隻数制限対応

 中東情勢に関するスエズ運河の通航回避とパナマ運河の通航制限についてご説明します。まずスエズ運河から時系列的にご説明しますと、2023年の10月7日、ハマスの侵攻が起きました。同じく11月19日、紅海を航海中の自動車船がホーシー派に拿捕される事件が起きました。これを受けて12月の中旬くらいからスエズ運河経由の、特にコンテナ船と一部の自動車船が喜望峰経由に航路を変更し始めます。今年1月11日に米英軍がイエメンのホーシー派の拠点を攻撃し始め、このことで喜望峰経由が常態化しています。

 11月初めのスエズ運河の通航平均隻数は1日約74隻でしたが、現状は1日当たり約46隻で、大体4割減の状況です。また、クラークソンズの調べによると、1月26日までの7日間でアデン湾に到達した船舶数は、昨年12月前半の水準と比べると約68%減少して、4割程度になっています。船種別に見ますと、液化ガス船が約99%減少、自動車船が約96%減少、コンテナ船が約90%減少と、これらの船種に関して、非常に落ち込みが大きい傾向があります。

 特に市況性の高いコンテナ船の運賃は、SCFI(Shanghai Containerized Freight Inde)の上海発欧州向けの運賃指標で1月26日までの週に2,861ドル/FEUとなっていますが、これは12月半ばに比べると約2.8倍の水準に高騰しています。

 スエズ運河を通航できなくなっていることの影響ですが、喜望峰経由とすることで、片道1週間から10日程度運航日数が延びます。立ち上がりは迂回の費用や、あるいは足元で戦争保険料が上がっていますが、その戦争保険料の値上げのコストなどが先行して発生することになり、船会社にとっての収支はマイナスの影響が最初に生じる形になります。中期的には船舶の供給阻害要因になって、結果的にマーケットで運賃や傭船料に上昇圧力がかかる、あるいは荷主、お客様との話によって運賃等々の見直しが起きるということで、それらが海運会社の収支に反映されるのは、大体第4四半期の後半くらいからではないかと見ています。

 パナマ運河については、エルニーニョ現象の影響で、2023年はパナマの降水量が観測史上最も少なかった年となり、通峡に必要な水を供給するガトゥン湖が渇水し、2023年7月くらいから通航隻数制限が実施されています。パナマ運河の最大通航隻数が以前は日当たり36隻程度で、予約を1日31隻とっていましたが、この予約数が11月下旬には24隻、12月には22隻と減少、この結果、通航隻数は以前の3分の2まで低下しています。この数が1月16日から24隻程度にまで回復しましたが、現在1回の通航当たり船会社1社に対して1日1隻という制限が加えられています。このようなことから、一部の船社は12月くらいから、パナマ運河経由を西回りのスエズ運河経由に変更しましたが、今度はスエズ運河の問題で、更に喜望峰経由への変更を余儀なくされている状況が続いています。

 

C. 中期経営計画の状況・進捗

C-1. 【資本政策】資本政策の進捗と企業価値向上に向けて

 当社資本政策のKPIとその進捗状況の概況をご説明します。営業キャッシュフロー1.2兆円については、順調に見通しが立っていますが、この中の2026年度に経常利益1,400億円を達成するという目標は、前倒しで実現できそうです。一方、この2026年度における経常利益1,400億円という利益水準の目標値を、上方修正するべく、現在社内にて鋭意取りまとめ中で、新しい目標数値は2024年5月に発表する予定です。

 投資キャッシュフロー6,300億円については投資規律を緩めることなく促進しています。

 株主還元5,000億円以上は積極的に実行中で、後ほど詳しく説明いたします。

 PBRの1倍以上達成について、足もとではPBR1倍以上を達成できています。こちらに関しては、PBRが1になったから良い、悪いというだけではなく、最適資本構成ともども、新たな株主還元政策と、成長を牽引する3つの事業を中核とした成長戦略のアップデートを含めて、先ほどご説明した経常利益目標のアップデート同様、2024年5月に包括的なものを発表したいと考えています。

 ROICの26年度目標6~7%についても、資本効率、キャッシュフロー、ポートフォリオの選別を主眼として、事業部門別のROICやWACC、EVAなどをKPIとして重視して、追求していきたいと考えています。

 

C-2 【資本政策】株主還元政策

 これまで2023年度の年間配当予想の公表値は、1株当たり基礎配当120円、追加配当80円で1株当たり200円でした。今期に関しては、今般これに50円を追加配当として加え、250円の年間配当とします。中間配当で1株当たり100円を既に実施しているので、期末配当は1株当たり250円のうちの150円になります。

 2024年度については、これまでの公表値は基礎配当としての1株当たり120円だけでしたが、今般これに追加配当として1株当たり130円を加え、2023年度と同じく年間1株当たり250円の配当予定とします。

 これら合計すると、2021年度以降の株主還元総額は、予定も含めて4,842億円となり、中計で掲げていた5,000億円という一つの区切りに近い数字になります。しかしながら、中計では5,000億円以上を標榜していますので、ここで終わりではなく、さらにその先の5,000億円以上の還元総額について、今後も検討を継続します。

 今回の2023年度と2024年度の増配の考え方について、基本的なことは変わっていません。適正資本を超える部分については、キャッシュフローを踏まえて積極的に株主還元を行うという方針の一環であることには変わりはありません。ただ、なぜ今年度と来年度250円かというと、考え方としては、株主の皆様に単純に当期の配当を増配するだけではなく、来期も増配とすることで、来期に減配するリスクはないということをアナウンスし、安定配当の予見可能性をお示ししようとしたことがまず一つあります。また、配当の規模に関しては、フォーミュラを新たに決めたということはありませんが、配当利回りに対する市場の期待感、あるいは株式と対抗する投資先である米国債等々の投資対象の利回りなども勘案した上で、総合的に判断して、今回のような株主還元としたとご理解いただきたいと思います。

 また、今年4月1日を効力の発行日として、普通株式1株を3株に分割することを予定しています。これは株価が上昇している中、投資単位当たりの金額(最低投資金額、当社の場合100株単位)を50万円未満にするということが東証の株価のガイドラインになっていますので、これに沿った措置をとるとご理解ください。今年から導入された新NISAの需要にも絡むことを考慮した株式分割という側面もあります。

 

C-3. 事業環境の変化

 現時点での事業リスクを俯瞰すると、2024年は、特に経済デカップリングに示しました米中、ロシア/ウクライナ、北朝鮮、台湾など東アジア、それから中東情勢による経済の分断があります。また、各国の政治状況の不確実性が他のリスクに比べて、大きな要因になるだろうと見ています。とりわけ、先ほどご説明した紅海の情勢不安によるスエズ運河の通航回避、喜望峰への迂回対応、またパナマ運河の正常化などが、当社業界の業績に直結する変動要因になるので、これらの点は注意深く注視していこうと考えています。