A. 2020年度第1四半期決算概要

 

A-1:2020年度第1四半期業績

 売上高は、新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の影響により、前年同期比で約2割減少の1,522億円、営業損益は▲66億円の損失、経常損益は▲10億円の損失、当期純損益は▲10億円の損失となりました。為替レートは107円74銭、燃料油価格は377ドル/MTとなります。

 主要な財務指標は、自己資本額は1,002億円と前期末並み、有利子負債は前期末で431億円増加し5,866億円となりますが、現金及び現金同等物期末残高は、前期末比498億円増加の1,617億円なります。手元流動性として月収の3カ月強を確保しており、自己資本比率は前期末並みの11%、劣後ローンの資本性を勘案した場合15%相当です。第1四半期におけるCOVID-19による業績影響は、自動車船事業およびドライバルクセグメントを中心に約△80億円となりました。

 

A-2:セグメント別第1四半期業績

 ドライバルクセグメントは、ケープサイズは年初にブラジルでの天候不良による出荷不良により、市況は低迷。そこから回復しないままCOVID-19の感染拡大が始まり市況はさらに下落しました。一方、日本の粗鋼生産量は前年度比で3割以上の減産となる中、COA契約履行の先送りもあり、二重に影響を受けた状況にて、前年同期比40億円悪化の▲44億円の経常損失をとなりました。

 エネルギーセグメントは電力炭船・LNG船を中心とした中長期契約が寄与して安定収益を確保し、全体では前年同期比並みの+16億円の経常利益となります。

 製品物流セグメントは、自動車船事業がCOVID-19の影響により、輸送台数が前年同期の半分以下と、大幅に減少しました。停船・サービスの一時的な見直し等の配船合理化を進めたものの損失を計上しています。コンテナ船事業はONE社にては需要に応じた機動的な配船見直しが奏功し、東西航路の市況が安定した結果、ONE社の収益が改善。セグメント全体では前年同期比+12億円の改善となる+30億円の経常利益を計上しています。

 

 

B. 2020年度通期業績予想と取組み

 

B-1: 2020年度通期業績予想及び変動要素

 売上高は、前年比2割弱の減収となり6,000億円、営業損益は▲270億円の損失、経常損益は▲280億円の損失、当期純損益は収支均衡と予想しております。COVID-19感染拡大については、上期に大きな影響を受け、厳しい事業環境が続くことが見込まれます。下期に向かって緩やかに回復するものの、影響がまだ残り、予断を許さない状況が続くと見込んでおります。

 期首に当期業績へのダメージコントロールを最優先として、機動的な船隊削減、配船合理化、停船などによる運航費削減を進めると共に、十分な手元流動性の確保、自己資本対策として資産売却等の施策を行うことをご説明しましたが、一つずつ着実に進めています。

 売上高の減少に伴い経常損失▲280億円を見込みますが、本日8月5日に公表しましたとおり、北米西岸にてコンテナターミナル事業を営む連結子会社の株式譲渡などにより、当期純損益は収支均衡を見込んでいます。為替前提は通期で107円25銭、燃料油価格は通期で368ドル/MTです。配当については、財務体質の改善を喫緊の課題として、収益の改善に取り組んでまいりますが、中間・期末の配当予想は現時点では未定とさせていただきます。

 

B-2:セグメント別通期業績予想

 ドライバルクセグメントは、原材料を中心とした需要に復調の兆しが見られますが、本格的な回復には時間を要すると見込んで、下期は黒字回復を予想しますが、通期では前年比で101億円悪化となる▲60億円の経常損失を見込みます。

 エネルギー資源セグメントは、LNG船、油槽船などは安定的に稼働していますが、原油価格の下落に伴いオフショア支援船事業を営むKOAS社の収支悪化や、電力炭船での一時的な需要減退による稼働率の低下もあり、全体では前年比▲59億円悪化となる+40億円の経常利益を見込んでいます。

 製品物流セグメントは、自動車船・コンテナ船ともにCOVID-19による荷動きの減少は下期にかけて緩やかに改善していくものの、感染拡大前の規模には戻らないと見ており、自動車船の輸送台数は上期では前年同期比約4割強の減少、下期でも2割程度減少する見通しです。コンテナ船は下期に傭船損失引当金を織り込んでおります。物流事業は、利益幅は減少するものの黒字を確保、内航・近海事業は、フェリー部門を中心に、COVID-19影響を大きく受け赤字に転落する見通しで、セグメント全体では前年比181億円悪化となる▲215億円の経常損失を見込んでおります。

 

B-3:セグメント別通期業績予想

 COVID-19による収支悪化額は約350億円と見込んでおりますが、自動車船事業およびドライバルクセグメントで、そのうちの3分の2強を占める状況です。

 

B-4:新型コロナウイルス感染症対応とその進捗

 COVID-19対応は、海陸ともに安全と健康を第一に安全運行を維持し、社会インフラとして安定した物流サービスを提供していくことが当社の努めとして取り組んでいます。本船乗組員は感染予防策を徹底しております。一方で、国境封鎖に伴い乗組員の交代に支障が出ており、当社運航の194隻に乗船する4,300名のうち、乗船期間が10カ月を超える乗組員がピーク時は1,100名を超えました。足元でも1,000名前後と高止まりしている状況です。感染第2波の兆しも見える中、船員交代の制約に対し、あらゆる手段で対応している状況です。陸上では、オフィスでは飛沫感染防止パネルを設置、在宅勤務や時差通勤を機動的に活用している状況です。

 

 

C. 経営計画について

 

C-1:経営計画の位置づけ

 今回の経営計画では、今年から来年度にかけて取り組むべき課題、基本的な考え方をまとめました。単に短期的な視点ということではなく、年初より拡大が広がるCOVID-19の影響を大きく受ける中、当社としてポストコロナ後の世界を見据え、中長期的な視野の下、目指すべき方向を示し、足元で取り組む課題を整理したものです。

 COVID-19は、潜在的な課題や懸念を顕在化させ、近い将来起こり得ると想定してきた様々な課題が眼前にあぶり出される結果となり、COVID-19が時を早回ししたように感じています。例えば日本における粗鋼生産の減産や完成車輸送台数の減少などもその例となります。

 経済活動における不確実性が増す中、お客さまの置かれる事業環境も大きく変わり、投資行動もより抑制的になることが想定されるという前提の下、今回全ての事業部門につき、ポストコロナの事業環境を一から見直して想定し、投資計画もそれに合わせて全面的に見直しました。財務体質の改善が大きな課題であることに変わりないものの、個々の事業、契約を見直し、従前より更に保守的なシナリオ、市況を前提に事業計画を練り直したものです。

 鉄鋼原料やLNGをはじめとするドライバルク、エネルギー資源輸送セグメントでは、長期或いは中期の契約をさらに積み重ねていきますが、これらの部門や中長期契約を下支えし、一時的な需要の変動に備えるため、今まで一定のエクスポージャーを持っていましたが、船種によっては多少余剰となっている部分も出てきたため、今回、適正な船隊規模まで絞り込みを進めることを決めました。

 船隊規模の適正化により核となる契約をベースとして、より安定収益を挙げる体制を目指すということで、貨物契約に応じた船隊規模の適正化であり、事業の縮小均衡ではございません。船隊規模イコール事業規模という考えではなく、収益規模をベースとして拡大し、長期の安定契約については維持、拡大していく方針に何ら変わりはありません。タフな環境下ではありますが、当社の強みを生かしてしっかり拡充していきたいと思います。

 お客さまの事業環境が変わってきているのは自動車船も同様で、核となるお客さまのニーズをきっちり汲み取り、船隊規模の適正化と共にお客さまと強固な信頼関係を維持・拡大してまいります。また、物流事業については手間暇がかかる事業ですので、丁寧に課題に対処し、外部の知見やパートナーも取り入れながら、アジアを中心に業容拡大を狙っていきたいと思います。コンテナ船については、ようやくONE社の収支も安定してきましたので、引き続き良質な船舶の提供や、人材面でもしっかり支え続けるとともに、ONE社としての将来事業計画を共に策定していきたいと思います。

 船隊規模の適正化により長期固定船隊規模は縮小しますが、基本的には老齢船を中心に処分していき、同時にLNG燃料船など、新たな環境技術を導入した環境に優しい高品質、かつ競争力のある船隊へと入れ替えを進めます。

 ウィズコロナの世界では、持続可能な社会の基本となる環境への意識がより高まり、その重要性がさらに増すものと思います。当社としては、海上輸送の基本となる環境と安全にこれまで以上に注力し、そのためにはハードおよびソフト両面の技術をさらに磨く必要があるということで、この4月から営業と技術部門、海上と陸上部門の横串を刺したプロジェクトチームを立ち上げております。安全・環境に直結する新たな技術を研究、導入することで船舶管理を強化してまいります。試行錯誤もあるとは思いますが、実用化に向けては海陸一体となり取り組み、環境においても同様に、GHG(温室効果ガス)排出削減の実現を後押しすることで、輸送品質を向上させていきたいと考えています。

 環境と安全をさらに磨いた輸送品質を提供することで、こつこつと契約を積み上げ利益を積み重ねていき、また事業ごとのリスクをしっかり計りながら、適正な船隊規模までエクスポージャーを調整することで、2025年までには保守的なシナリオの前提で、250億円の経常利益を目指すものです。

 今回の経営計画については、現時点で想定されるコロナ後の世界を念頭に足元で取り組むべき課題をまとめたものですが、第2、3波の影響、現在ヒートアップする米中間の緊張の状況、デジタル技術によるサービス変革など不確実性がある中、事業環境に大きな影響を与えかねない状況が継続すると思っています。従って、今後の業績予想についてはポストコロナの状況を見ながら、毎年見直しを行っていきたいと考えております。

 

C-2:前中計(飛躍への再生)振り返り

 ポートフォリオ戦略転換、経営管理の高度化と機能別戦略の強化、ESGの取り組み、基盤となる安定収益型事業のROAについてはほぼ目標を達成して、コンテナ船事業のスピンオフ、重量物船、石油製品船からの撤退や事業リスクの計測、先進技術グループによる新たな環境技術の取り組み、また契約期間2年以上の契約をベースとした安定収益事業の積み上げも目標に従い進めることができたと思います。

 一方、収益目標である2017年以降3年間黒字、自己資本比率、配当方針については、達成することがかないませんでした。前中計期間2年目の2018年度には、営業開始したばかりのONE社の躓きにより大きな赤字を計上、ドライバルク市況も想定を大きく下回り、高コスト船の処分を中心とする構造改革を余儀なくされ、自己資本も毀損する結果となり、配当につながらなかったのが大きな反省点です。今回、その反省を踏まえ、市況前提も保守的な見方に置き換え事業計画を練り直したものです。

 

C-3:目指すべき会社像 ~グローバルに信頼される ”K"LINE ~ 

 財務体質強化は重要課題として継続させていく中で、目指すべき会社像については、前中計で掲げたビジョンは継承し、社会インフラとして海運業を中核とした物流のプロフェッショナルとして、安全、環境、品質をさらに磨いて、お客さま、従業員、株主、取引先、金融機関など、様々なステークホルダーにしっかり選ばれ成長し続ける企業を目指すことで企業価値向上に努めたいと思います。

 

C-4:ポストコロナの外部環境認識

 昨日まで当たり前であったことがそうでなくなる現実を突きつけられ、COVID-19によって人々の行動や価値観が大きく変容しつつある中、持続可能な社会を求める声が高まり、環境への意識がよりいっそう高まると考えています。一方、保護主義や自国優先主義が台頭し、サプライチェーンにも大きな変化を促すということで、潜在的な課題が顕在化する中、いつか起こると予想していたことが目の前で起きている中で、不確実性が増し、お客さまの投資行動も抑制的になるのではと見ています。

 一方、中長期的に海運事業というのは伸びることに変わりないものの、今回のCOVID-19からの回復には相当時間を要すると思います。2021年度に2019年度以前の姿に戻るのではなく、事業によっては、2022年度もしくは2023年度まで回復を待つ必要があると思っています。

 

C-5:継続的企業価値向上へ向けて(2020年~2021年度の事業方針)

 

 足元では「守り」をしっかり固めるため、今年から来年度に向けてやるべき課題としては、船隊規模の適正化による筋肉質な体を取り戻し、ポストコロナを見据えて投資計画も全面的に見直し選別していきます。技術力を強化すると共に、お客さまに提案できる営業力を備え、鍛え直すことで、COVID-19影響による損失をカバーし、財務体質を強化すべく、今年度は海外ターミナル事業の売却などを進め、当期純損益は少なくとも収支均衡以上を確保するという計画です。

 

C-6:中期的な事業環境予想

 事業環境としては、中長期的には、総じてボラティリティの高い不安定な状況が続くことが予想されます。ドライバルクでは、鉄鋼原料は、日本の粗鋼生産は9,000万トンを割り8,000万トンレベルまで減少。インドを中心にアジア地域での伸びは期待できますが、中国の成長も今後は鈍化すると思います。

 エネルギー資源では、LNGの需要は当面堅調に伸びるとは予想しておりますが、電力炭については、最新の脱炭素に向けたエネルギー計画の動向に合わせた国内産業、輸送への変動影響は今回の計画で織り込んでいますが、今後の動向については注視すべきと思います。

 自動車船については、全世界の自動車販売台数は、今年度は前年比2割前後の落ち込みと見込まれていますが、本格的な回復は2022年から2023年以降まで時間がかかる可能性が高いとみております。その中で、物流事業については、アジアでは成長が期待できるとみております。

 

C-7:2021年度までの経常損益、自己資本計画見込み及び中長期的な目標

 2020年代半ばを経て、2030年代まで経常損益と自己資本の目標を示していますが、2021年度は足元からきっちりと施策を実行することによって、経常・当期ともに100億円の利益水準を見込みます。中期目標としては、2020年代半ばには経常利益250億円、自己資本1,500億円、自己資本比率20%を目指し、2030年までには経常利益300億円、自己資本2,500億円、自己資本比率30%相当を目指すというものです。これらの数字の裏付けは、個々の事業について全面的に見直し、市況も保守的な前提に入れ替えて作り上げたものです。

 

C-8:2021年度に向けた改善ポイント(対2020年度比)

 2021年度の見込みである経常、当期純利益100億円に向けた改善額を要因別にまとめたものですが、船隊規模の適正化、収支改善の取り組みで100億円の経常、当期純利益を見込んでおります。

 

C-9:収支計画:経常損益イメージ

 今回、核となるお客さまとの契約が中長期契約を前提とする安定収益型事業と、コアなお客さまも含みますが、輸送量も含めて契約期間が短期中心となる市況影響型事業とに仕分けし直しています。

 経営管理高度化により、部門ごとのリスク量管理が可能となる中、事業部門ごとに最適な投下資本を管理していく。各事業で、一定のエクスポージャーは必要なものの、その適正化を図り、船隊規模を絞って、中長期契約の積み増しと収益規模の拡大を図ることで収支を改善させていきます。ONE社への傭船料収支については、順次返船により縮減を見込んでおります。

 

C-10:船隊規模の適正化

 船隊規模イコール事業規模ではなく、収益規模を拡大して事業を大きくしていきたいと思います。一方で、エクスポージャーは必要最小限に抑えていきます。具体的には、今期中にケープサイズ、中小型バルク、チップ船、電力炭船、自動車船など老齢船を中心に合計20隻以上の船隊圧縮を計画し、かなり進捗しています。また、2025年までに、核となる中長期契約は拡充しながら、長期固定基幹船隊の規模は300隻まで抑える計画としています。

 

C-11:投資戦略(今後5年間)

 今後5年間の投資については厳選し、将来への布石として、総投資額は営業キャッシュフローの範囲内に抑制、5年間で2,500億円を目途とします。収益拡大規模につながるLNG船などのエネルギー輸送関連、鉄鋼原料は重点的に強化していきます。また、自動車船についても、老齢船の処分による自動車船船隊規模の適正化を図る一方、LNG燃料船など新たな環境技術を搭載した環境性能に優れた船への入れ替えを進めていくことを考えております。また、安全、環境、輸送品質を磨くために必要な技術開発、再生エネルギーなどの分野にも別途投資枠を設定していきます。

 

C-12:戦略的成長分野への取組み ~安全・環境・品質への取組み~

C-13:具体的な取組み

安全、環境、輸送品質への取り組みですが、スピード感を持って取り組むため、営業と技術部門に横串を刺したプロジェクトチームを立ち上げました。その先の対応も、様々な技術開発をパートナーと共に進めていきたいと考えております。

 

C-14:事業戦略

 当社本体の事業ユニットについては、これまで説明したことを徹底して具体的に落とし込んだ上実行に移していきます。ONE社に対しても、良質な船舶、人材の提供、長期的な事業運営、計画の作成をしっかりサポートしていきたいと考えております。

 

 

ONE(Ocean Network Express)2020年度第1四半期決算説明

 

 ONE社の第1四半期業績は、+1億6,700万米ドルの黒字と前年同期比で大きく改善しました。落ち込む需要に対して、平均20%の減便を行い、一方で積み高が13%落ち込んだ中、運賃率が下落しなかったため、売上高は5%の減少にとどまったことで、機動的な減便が奏功した形になります。

 第2四半期についても、足元状況を見る限りは、大崩れすることはないのではと見ております。一方、下期の見通しは、ONE社としても合理的な数字の見積もりは難しいという報告を受けており、当社独自に見積もったものです。リスクサイドとしては感染第2波の影響、各国の給付金対策の継続有無、また上期にはCOVID-19影響で底が見えない中、各船社が相当な減便策を打ち出したのに対して緊張感が少し緩まないかといった悪化懸念が挙げられますが、プレーヤーの減少、アライアンスの集約により、ようやく需要に合わせた機動的な減便ができる状況となっております。もちろん下期には一定の揺り戻しがあり、上期並みの収支維持は難しいと予想を立てていますが、底抜けすることはないのではないかと考えております。

 大きく収支悪化したときには、これまでどおり減便対応をしっかり進めるしかないと思いますが、ONE社についてはこのように見ております。