自動車船事業Q&A

Q-1:先ほど話にあった航路デザインについて、何をもって適切と認識するのでしょうか。航路の比率や、いろいろなネットワークなどあると思いますが、何をもってこれを判断するのか教えてください。

 

A-1:航路デザインですが、幾つかのポイントがあります。規模の大きい航路から小さい航路とありますが、先ほど申し上げた強固な顧客基盤について、単年ではなく、中長期的にしっかりとお付き合いをしていただけるような貨物をベースにした航路設定を行えているか。また、将来的に成長する可能性のある航路かどうかなど、これらのポイントを判断して、どの航路を設定していくことが良いのか、という話になります。

例えば、日本からそれぞれの地域には長期間、一定に大きな数量の貨物が動いていますし、逆に他の地域でも、新しい貨物の流れが起きてくることもあります。

1つの例として、例えばインドなどの地域で、今後どのように成長を見て、どのような準備とどのような航路設定をしていくのか。これらのデザインの仕方によって、収益性に影響が出てきます。それに加えて、先ほどお話した契約ミックスもあり、その中でどのようなお客さまと、どのような契約を結んで、その航路を運営していくのかという観点で、収益性を判断します。つまり、航路毎の持続性、安定性と収益性という物差しで測ることになります。

 

 

Q-2-1:航路デザインを進める中で、過去から足元、将来にかけて、航路状況はどのように変化していくのでしょうか。競合他社と比べて川崎汽船の自動車船事業についてどのように変わっていくのでしょか。コロナ前後での変化もあると思いますが、航路の状況が変わると他社との競合でも何か変化があるのか、教えてください。

 

A-2-1:幾つかポイントがあります。

1つ目は脱炭素化の取り組みですが、今後CO2を削減したサプライチェーンを設定することは、お客さまにとっても必須です。これをどのような形でどのようなスピードで契約として結び付けて航路設定するのかによって競合との差が出てくる可能性があります。

また、もう一つは先ほどお話したHigh & Heavy貨物ですが、その収益性は、乗用車に比べれば高いです。このHigh & Heavyの数量を他社に先駆けて増量することができれば、当然競合との差異になります。そのためには必要な船隊整備を行っておくことも必要ですし、High & Heavyのお客さまも含めてしっかりした信頼関係を築いておくことも必要です。こうした取り組みを進めることで、他社との差異が出てきます。

 

 

Q-2-2:今のお話に関して、外に見えるKPIの設定などで確認することは出来ませんか。例えばHigh & Heavyの輸送比率は、競合他社では開示しているところもありますので、目標値があるのであれば開示したほうが良いと思います。また、足元では中国やインドなどの輸出が増えているということですが、各種施策に取り組むことによって現状からどれくらいの比率に上がっていくのかなど、そのようなKPIがないと評価が難しいと思います。本日の事業説明を聞いた後に、われわれは何を見ればいいのか、何か示すことができそうなことはあるでしょうか。

 

A-2-2:貨物に占めるHigh & Heavyの割合を開示されている船社がいるのは承知しています。この点については、当社も今後いろいろ検討していきたいと思います。またインド・中国等に関しては、今の時点ではその数量をご説明するのは差し控えさせていただいているので、この点についてどういった形で皆さまにご理解いただけるのかは、検討したいと思います。

 

 

Q-3-1:トレードパターンのお話がありましたが、昔は日本出しが結構多かったものが、最近は中国出しも増えていると思います。足元で例えば日本出しが何割、中国出しが何割というものがあれば教えてください。

 

A-3-1:トレードパターンですが、全体としては中国出しの伸びが、足元では非常に大きいです。色々なところで数字が出ていますが、今年は300から350万台の輸出規模と理解しています。このレベルは既に韓国から出ている貨物数量を超えて、ドイツも超えて、日本に次いで2番目、ないしは、場合によっては日本に肉薄するレベルです。

世界全体で約1,600万台の海上輸出があると理解していますが、そのうちの約半分近くは、いわゆる東アジアからの輸出がカバーしています。残り半分は米国および欧州、これにインドが加わってきます。まだインドの数量レベルは他の各地域に比べたら小さいものの、今後は増えてくる見込みですが、現状はこのようなバランスになっています。

 

 

Q-3-2:中国出しのウエイトが増えている中で、川崎汽船の中国での強みなどあれば教えてください。

 

A-3-2:当社も中国出しについては取り組んでいますが、スペースが足りない中、既存のお客さまにしっかりスペースを出していくことを優先しているのは事実です。従って、その上で取り組めるものについては取り組んでおり、中国の各OEMともしっかりコミュニケーションを取って対応しています。

 

 

Q-4:説明資料の17ページについて、輸送量が伸びていくという想定で見ていると思いますが、今後の運賃水準はどうなるのでしょうか。1年ものの傭船料チャートを見ていてもかなり上がっていると思います。傭船料は運賃水準と直接は関係しないと思いますが、まず今期について、どのように見ているのでしょうか。また、今後3年間にわたって運賃水準はどのようなイメージで想定しているのでしょうか。もしお考えがあれば、教えてください。

 

A-4:先ほどお話したとおり、2025年までは供給不足が続く見込みですし、需給がバランスするのは2027年頃と見ており、一定程度、運賃水準が想定されるレベルで動くのではないかなと思っています。

足元、今年の運賃レベルというのもスポット運賃と契約運賃とでまた異なりますが、昨年より大きく下がっているという状況ではないと理解しています。

 

 

Q-5:環境対応の新燃料船の枠組みが出来上がってくる時間軸について、何かお考えがあれば教えてください。先ほど脱炭素の輸送について、他社に先駆けて一早くそのような枠組みをつくることができれば、そこが競争力になるというお話がありましたが、具体的に何か時間軸として見えている部分はありますか。具体的なお話は難しいとは思いますが、時間軸について、顧客と話していることも含めて何かあれば、教えてください。

 

A-5:一番大事なことは、今足元で積み上がってきている新造船は、ほとんど全てがLNG燃料焚きの船です。竣工は既に始まっていますが、ピークは2024年、25年の2年間です。これらの船が業界に投入されてくるのは2024年以降なので、実はまさしくこの2023年という足元のタイミングがお客さまと話をするタイミングになっています。詳細は説明できないのですが、いわゆる骨格が見えてくるのは今年度になります。

当社は既にLNG燃料焚き船を運航していますし、そのノウハウもあります。また、日系のお客さまのみならず、欧米系のお客さまも含めて顧客基盤を持っているので、その方たちと直接お話をしていくことになります。

 

 

Q-6:自動車船の利益は、邦船3社で見方が分かれていますが、川崎汽船が最も強気に見えます。これは市況見通しの差異というよりも、貨物当たりの収益性の差異にあるのではないかと推察しますが、いかがでしょうか。

 

A-6:他社の状況について、公表されているものがあるわけでもありませんし、なかなか詳細については分かりかねますが、当社は現時点での収益力については、ニュートラルな状態だと思っております。また他社と差異があるとすれば、これは契約の中身までは分からないので難しいですが、航路構成やお客さまの構成が異なることは事実です。どちらが強い、どちらが強くないという話ではありませんが、そういった差異が、年度、年度で他社との差異として出てくることは、十分あり得ることかと理解します。

 

 

Q-7:環境対応について、恐らくLNG焚き船は既存船に比べるとコストが高いと思います。燃料費や、資本コストも2割くらい高いと聞いたことがありますが、このコストの増加分の顧客への理解度はどうでしょうか。2024年以降、LNG焚きの船が竣工してくる時に、川崎汽船の収益性が環境対応ということで低下しないかということを心配しています。

 

A-7: LNG焚き船に関していえば、特殊な燃料を使うこともあって、従来の重油焚き船より、いくばくか船価が高いことは事実です。一方、今後環境規制がさらに厳格化された場合に、例えば今EU ETSのチャージの話が始まってくると思いますが、いわゆる重油焚き船、CO2を多く出す従来船は、CO2がコストになってくるので、CO2を減らした分だけコスト競争力を持つという構造になります。この変化が年度を重ねるごとに起こってくるので、この点についてお客さまと協議を進めていくことで、まずは一つ大きな理解を得られるものと考えています。また、先ほどお話しましたとおり、船の足りない中、新造船で出てくる船はLNG燃料焚き船がほぼ全てです。LNG燃料焚き船に船が置き換わっていく中、どのようにサプライチェーンを組んでいくのかという現実問題の中で、お客さまと解決していく問題ですので、先ほどご説明したとおり、投資規律を効かせてしっかり環境対応することは実現できると理解しております。

 

 

Q-8:足元の自動車船需給がタイトな状況を受けて、既存契約の見直しの可能性はあるのでしょうか。長期安定契約なので、足元のスポット運賃よりも割安となるかもしれませんが、少なくともいろいろ外部データを見る限り、長期契約運賃とスポット運賃でかなり乖離しているのではないかと思いますが、今期から来期に向けて既存契約についてどのような方向性が考えられるのかを教えてください。

 

A-8:既存契約を含めた運賃レベルの状況について、詳細を説明することはできません。当社に関しては、ほとんどの契約について今年更改していますが、それは足元の状況を一定程度は反映したものになっていますので、そういう意味では、いずれかの運賃がマーケット状況から大きく乖離しているということはないです。

 

 

Q-9: LNG燃料焚き船について、LNGに関しては燃料も特殊ですので、それぞれの港にある程度燃料のインフラ整備が必要と思いますが、LNG燃料は誰の負担でどのように整備されているのか、教えてください。港湾でのLNGタンクがどうなっているのか、港ごとに

タンクがあるのか、またマイナス160度でなければ液体の状態にないものを、どのように各港で取り扱っていて、それを供給する会社がいるのかなど、教えてください。

 

A-9:今後の環境対応について、新しい燃料はLNGのみならず、世の中で言われているとおり、アンモニアやメタノールといったものも出てくると思います。その中では今LNGの舶用の燃料供給の拠点というのが最も整備が進んでいて、世界中どこでも取れるわけではありませんが、主要港、主要航路をカバーするような形で燃料供給事業は展開されていると理解しています。この負担というのは、結果的に言うと燃料供給事業を展開される方であって、船会社というよりは、例えばエネルギーを取り扱われる会社や、それぞれ地場の会社などによって、燃料供給事業が独立した事業として展開されていくというのが現状です。

例えば日本では、LNG燃料の供給は電力会社やガス会社がタンクからLNGをそのまま燃料に転用しているとご理解いただければと思います。

 

 

Q-10:電気自動車のトレンドは、事業上どのように考えていますか。増えていくことで川崎汽船の事業への影響は何かあるのでしょうか。生産拠点も変わりますし、販売もいろいろ変わっていくと思うので、自動車船事業への影響をどのように見ているか教えてください。

 

A-10:説明資料の12ページの海上輸送需要の動向は、できる限り電気自動車の進展や、電気自動車の販売が増えていくことを織り込んで作っています。さらに当社としての仮説を入れて、もう少し電気自動車の販売が増えるような前提で作っているものです。販売台数の中に占める電気自動車のシェアは増加していきます。これから先、生産拠点が変わることもあり得ると思いますが、現時点で見える電気自動車の生産拠点や、供給の生産地と消費地の組み合わせ等を考えると、ご説明したレベルの需要になるというのが現状の見立てです。こちらを前提に事業を進めていくということになりますが、資料に注記の通り、電気自動車の生産地が変わることで、数量の減少もあり得るかもしれませんし、組み合わせが変わる可能性もあるので、トレードパターンを変化させなければいけないと考えます。

先ほどの航路デザインの話になりますが、このようなケースでも対応する必要が出てくると思います。まだシナリオの幅が広いこともあり、一定程度、柔軟性を持って対応していくのが現実的な解と考えます。

 

 

Q-11:船隊柔軟性、説明の途中で数字も出ていたかと思いますが、どのような計算で出されたのでしょうか。また、今後どのような形でこの柔軟性を担保しようとしているのでしょうか。過去には、老齢船の伸び縮みで供給調整をしていたかと思いますが、今はそのような状況ではないと思いますし、発注もなかなか大変な状況と思います。このような局面の中で、どのように柔軟性を担保しようとしているのでしょうか。

 

A-11:柔軟性のレベル感については10%台半ばで、それを船隊柔軟性としています。船隊柔軟性の定義は難しいですが、1つは定期用船の終了時期を組み合わせることによって、返船可能な船を各年度に散らしておくということがあります。また老齢船については特別損失を出すことなく処分が可能な状態ということで、これらを合わせたものを船隊柔軟性としています。先ほどお話しましたとおり、足元では船隊柔軟性が減少していますが、この確保に向けては定期傭船が切れるタイミングを調整して、各年度に散らしています。足元よりも少し前の時期に大型船の傭船を多少増やしていますので、その際に傭船契約の切れ目をうまく組み合わせることをしました。それから、自社所有の老齢船の数は一定程度まだ抱えていますので、これらを積み上げていくことで、年度を重ねるごとに戻していきたいと考えています。

 

 

鉄鋼原料事業Q&A

Q-1:資料22ページの安定収益と市況連動収益のグラフについて、安定収益と言う割には、過去10年間ボラティリティーがあり、安定収益になってないように見えます。どうしてこれほど振れるのか、市況連動より振れているようにも見える理由を教えてください。

 

A-1:グラフは売上を記載しており、この中には契約としてバンカー価格が影響してくる部分や、為替の影響も結構あります。これらによって変化している部分や、年度によっては、たまたま契約の切れ目が到来するといった要素も入っていますので、結果として振れているように見えますが、比率としてはおよそ6割が安定収益です。

 

 

Q-2-1:船隊整備について、1,200億円規模で投資を計画されているということですが、今後2030年まで船の数は変わらないことから、更新投資になると思っています。その結果、利益がどのように変わると見ているのでしょうか。市況の変動ではなく、安定契約の獲得や、船のアセット側の変化で利益がどのように変わるのか、どのように利益が増える仕組みなのか教えてください。

 

A-2-1:当社の計画では、代替契約だけではなく、先ほどご説明しました資源メジャーとの新燃料対応を見据えた新しい増加部分を織り込んでいます。こちらについては、今後の脱炭素化対応の中で利益を積み上げていけると思っています。また少し細かく言うと、日本の鉄鋼ミルでも粗鋼生産の減少により特定の航路を止めていくという動きもあり、これを計画に織り込んでいる部分もあり、トータルのボリュームが増えていないように見えますが、実際には増やしていく、チャレンジしていくものです。

 

 

Q-2-2:契約が増えていくのは分かりましたが、船の隻数が変わらないと収入の規模は恐らくほとんど変わらないと思うので、利益がどうなるのか、教えてください。

 

A-2-2:お客さまの基盤を増やしていくことで船の運航効率における回転率や稼働率を上げていくことや、21年度に実施した構造改革も含めて、また今後貨物と船の長短バランスを一致させていくところで収益性の改善を図ります。

 

Q-2-3:以前は、傭船解約などの構造改革で、収益性の改善が数年でこれくらいになる、という目標値があったと思いますが、今回は2026年や2030年の構成の変化で、どのような利益インパクトがあるのでしょうか。

A-2-3:過去、構造改革を実施した時に幾らぐらいの改善効果が出たかは示していますので、同じ市況前提であれば同様の効果はありますが、その後市況も変化しているので現時点で具体的な影響額を示すのは難しいです。

 

 

Q-3:説明会資料の27ページについて、顧客について日韓ミル、資源メジャー、インド・中東ミルとありますが、大体ドライバルクの鉄鋼原料事業の利益の中で、構成比はどのような割合になっているのでしょうか。おそらく日韓ミルが一番多いのではないかと思いますが、教えてください。また、これを2030年にはその割合をどれくらいにしたいなど、教えてください。

 

A-3:利益の中身というのはなかなか示しづらい部分ですが、ご推察のとおり、売上ベースで半分近くが日韓ミルです。インド・中東で15%ぐらい、とうのが足元のイメージです。

 

 

Q-4-1:説明会資料29ページについて、短期傭船が増えることになっていますが、そうすると短期契約も増えるので、マネジメントが難しいのではないでしょうか。市況エクスポージャーが結構高まるのではないかと思いましたが、如何でしょうか。

 

A-4-1:短期の契約と短期の船を合わせていく計画ですので、その部分においてはエクスポージャーは生じません。

 

 

Q-4-2:オペレーション上、それはそれほど難しくはないのでしょうか。短期傭船と短期契約をうまく結び付けることは簡単に出来ることなのでしょうか。

 

A-4-2:実際に当社の船隊に入ってくると、見え方は短期も長期もありませんが、経済的な整理として、短期契約の分量と短期の船の分量をマッチさせていくという意味合いです。

 

 

Q-5:インドと中東の顧客のポテンシャルについて教えてください。特にインドは、確かに粗鋼生産量は増えていくと思いますが、品位が低いという問題がありながら、国内に鉄鋼石、石炭もあると思います。また、鉄鋼原料の供給地であるオーストラリアから見ると、日韓よりも若干距離が近く、トンマイルという意味で少し不利かと思います。このような点を考えた場合に、インドの顧客は川崎汽船から見てどのような存在なのか、教えてください。

 

A-5:ご指摘のとおり、インドはこれから伸びていきます。現在年間1億トンの粗鋼生産が2030年に向けて3億トン~4億トンに増加すると言われています。確かに鉄鋼石が自国で産出できますが、当面は原料炭輸入は海外に頼らざるを得ない状況で、粗鋼生産が増える割合に応じて輸入量も増えていくと考えています。

加えて、こちらもご指摘の通りインドで産出される鉄鋼石の品位にも関連しますが、少しずつ輸入を増やしていくという流れは出てくると思います。また、当社のインドの事業においては、海外から原料を輸入するだけではなく、例えばインド国内で東側から西側に向けての内航輸送があります。ここにおいてJSW Steel社とケープサイズを利用した内航輸送もスタートしており、こちらもポテンシャルのあるところです。

 

 

 

LNG輸送船事業Q&A

Q-1:LNG輸送船は長期安定と理解していますがマージンは結構変動するのでしょうか。足元、需給が逼迫しているのであれば、以前よりもマージンが高くなるのでしょうか。

 

A-1:長期間の契約を結ぶと、その期間内の利益は一定です。ご案内のとおりLNG輸送船は船主業であり、船を運航することによって利益を得るのではなく、船を貸すことによって利益を得る業態です。従いまして、その期間が決まると、1日当たりの傭船料が幾らという形で決まり、そこでの変動はありません。

一方で、当社がターゲットとしていない中短期の契約では、マーケットが存在しており傭船料は変動します。そのため当社としては、できる限り長期の案件に的を絞っています。

 

 

Q-2:LNG輸送船のプレーヤーは邦船3社がトップ3だと思いますが、適正利潤はどの程度なのか、まだ値上げできる余地はあるのかなど教えてください。海外船社も含めた競合関係はよく分かりませんが、これまでの利益水準はいつも同じようなレベルであるイメージを持っていますが、これが拡大していくイメージが持てるようなコメントを頂けないでしょうか。

 

A-2:既にLNG輸送がメジャーになってから40年近い時が経っており、LNG輸送船は限定された船社、プレーヤーだけのものではありません。常に競争があります。カタール案件もそうでしたが、大きな案件であればあるほど、必ず入札が存在し、その中で競争になります。従いまして、傭船料と船舶管理能力の2つの掛け合わせで基本的に選定されます。

当然のことながら、足元の状況では傭船料がどんどん下落していくということは考えづらいですが、船が逼迫しているからすぐに傭船料が上がっていくかというと、短期案件ではあるかもしれませんが、長期案件ではかなり難しいと理解します。

 

 

Q-3: LNG輸送船の投資に対するリターンはいかがでしょうか。コロナ禍前は一時期LNG船の投資リターンがかなり下がっていた時期があったと思いますが、その後コロナ禍、あるいは地政学的な変化を経て、現在のLNG輸送船のリターンはどうなっているのか、今後の見通し等もあれば教えてください。

 

A-3:LNG輸送船を取り巻く環境が、この2~3年で劇的に変わったという感覚です。第一にLNG自体の価格が高騰したのは、実はロシアのウクライナ侵攻以前の2019年秋です。気候変動の要因もあったのかもしれませんが、ヨーロッパでの再生エネルギーの不稼働が続き、風力発電や太陽光発電等の稼働がちょうど秋口から冬にかけて止まり、代替燃料としてLNGの需要が急増し価格も急速に上がりました。2022年2月になって、ロシアのウクライナ侵攻によりヨーロッパがロシアからのLNGを買い控える動きが出て、実質的には昨年前半までは輸送されていましたが、昨年後半からはロシアからヨーロッパに全くLNGが輸送されない状況になっています。

もちろん、このような状況が長く続けば、投資に対するリターンも時間をかけて上がっていく可能性はあると思いますが、これをどこまで見通せるかということだと思います。LNG輸送船のプレーヤーたちはまだまだ手探りの状況にあると思っています。

なお、ロシアからヨーロッパへはLNGに換算すると年間約1億トンが輸送されていますが、これを北米東岸からヨーロッパに持ってこようとすると、大体100隻の船が追加で必要になるということで、世界全体でLNG船の建造能力は年間で80隻から90隻くらいなので、1年でも足りないというのが足元の状況です。

 

 

Q-4-1:LNG輸送船事業は基本的には長期安定的な契約を基にということですが、フリー稼働船を中心とするビジネスの可能性というのは、全くゼロなのでしょうか。ここまでLNGの市場自体が伸びていく見込みであれば、逆に今のうちにフリー稼働の船をつくっておいて、市況が吹くタイミングを狙っても良いのではないでしょうか。LNG船事業全体でリスク量が管理できていれば、多少の市況エクスポージャーは許容できないものなのか、教えてください。

 

A-4-1:フリー船の考え方について、あくまでも事業として捉える以上、どこまでリスクを踏めるかということになります。足元は市況がすごく良いですが、これが10年、15年続くのか、地政学的な部分は分からないところもありますので、新造船でのフリー船の事業は考えづらいです。

ただし、例えば15~20年間の傭船契約が終了して償還や償却が終わっている船に関しては、その船自体を売船するか、あるいは契約によっては、”K” LINEの船舶管理水準は非常に高いので、そういった船を高く使ってくれる方がいるのであれば、そこでビジネスを決めるということはあり得ると思います。このようなフリー船についての考え方は、ある程度時が経った後にチャンスがあるのではないかと思います。

当社の現中計期間では当然まだそのようなフリー船の候補はありませんし、恐らくあと2つか3つくらい後の中計期間にはそのようなフリー船のビジネスチャンスがあるかもしれません。

 

 

Q-4-2: LNG輸送船について、長期契約による輸送が、マーケットの多くを占めているのでしょうか。大きなプロジェクトには、LNG輸送船もある程度ひも付いて存在していて、スポットの短期案件は世界全体で見てそれほど多くないということなのでしょうか。

A-4-2:大型の長期案件が非常に多いのは確かです。ただ、メジャーのいわゆる石油会社、ガス会社がやっているような案件には、5年間や7年間という比較的中期の案件も多いので、必ずしも全てが長期に偏っているということではありません。

 

 

Q-5:先ほどお話があった、2~3年前から起きているLNGトレードパターンの変化と川崎汽船の利益や戦略について教えてください。ご説明のとおり風力発電の設備利用率の低下などで、ウクライナ危機前からLNG需要というのは少しずつ高まっていて、昨年のウクライナ危機もあってヨーロッパのLNG需要が大きく増えました。足元では変わらないと思いますが、このトレードパターンの変化と川崎汽船の中長期的な利益や戦略に何か変化はあるのでしょうか。

 

A-5:LNGの案件について、先ほどLNG船のリターンがここ数年下がっていたという話もありましたが、これはLNGのプロジェクト自体が止まっていたということです。この数年間見込まれていたプロジェクトは、カタールの大型案件、それからまだファイナライズしていませんが、モザンビークの案件の2つのみで、これ以外はみんな止まっていました。

ここに来てカタールはさらに増強しようとしていますし、それから北米のシェールガスが一気にこれから掘削に入っていることもあり、そういう意味では長期案件が増える可能性は出てきています。従いまして、当社中計期間2026年度まで、またそれ以降も含めると、さらに案件が積み上がってくる可能性はあり、当社の安定収益基盤に更に貢献できると考えています。

 

 

Q-6:LNG船は船主ビジネスだという話がありましたが、説明の中で安全運航も強調されていました。船主ビジネスであるということと安全運航の評価というのがどうつながるのか、教えてください。

 

A-6:船主ビジネスで船を貸し出しますが、そこには乗組員が乗った状態でお貸ししています。従って、世界でも高く評価されている当社の安全で確実な本船の操船技術をもってして、お客さまに船をお貸しするということで、そこを磨かないと当然お客さまからは選ばれないことになります。

 

 

Q-7:Diamond Gas International(DGI)から契約を獲得した話について、DGIであれば企業系列として他の船会社なのではないかとも思いますが、そこを乗り越えて川崎汽船が契約を獲得するに至ったことについて、何かお話し頂けることがあれば教えてください。

 

A-7:三菱商事殿とは、契約自体が15年近く前に始まったインドネシアのタングービジネスにおいて、両社でいろいろ取り組んだ経験もありまして、その後もいろいろとお話をさせて頂いています。今回同社の子会社であるDGIの案件に当社も声をかけていただき、その結果、当社の船舶管理の高さ、安全運航の技術の高さ等を評価いただき選定いただいた経緯となります。

 

 

Q-8:北米のシェールガスに関して、買い手が船を手配する必要があるという話がありましたが、この背景、歴史的な経緯やメリットがあってのことなのかなど、教えてください。

 

A-8:通常売り手が契約するLNGの商売は、仕向け地条項というものがあり、転売をさせない形になっています。アメリカのガスに関しては、もともと国内で使われるもので、海外に輸出する発想がなかったことから仕向け地条項という発想もありません。トレーダーはLNGを購入していろいろな所に振り分けるという考えがありますので、アメリカのシェールガスの売り手側は、自分たちが船を用意して仕向け地を決める必要が全くないということです。

 

 

Q-9:投資に対するリターンについて、全体で見ているROICの6~7%の基準の中のものなのか、少し低いものなども許容されるのでしょうか。中計期間中の投資で1,000億円、その先を見て600億円の投資ということなので、ざっくり計算すると100億円くらいリターンが乗るような形になると思いますが、そのような投資の決め方なのかどうか教えてください。

 

A-9:具体的な数字については控えさせていただきますが、当然のことながら社内で決めたハードルをきちんと越えた案件だけ当社では進めていくということになっています。

 

 

Q-10:LNGビジネスの場合、会計上は大体、持分損益での認識だと思いますが、この場合のROICの考え方を教えてください。

 

A-10:社内でそれぞれの事業部門ごとに資本コストを意識した上でのハードルレートを設定して、それをクリアすることを求めています。LNGのビジネスについて、持分法適用の場合は、当社が拠出するエクイティーに対するリターンという形で認識します。きっちりとリターンがあるということを判断基準として進めています。プロジェクトといえども、当社のエクイティーに対するものとご理解ください。

 

 

Q-11:ウクライナの問題等々もあると思いますが、川崎汽船の財務の状況がこの2年で大きく変わったことは、今の戦略に何か影響を与えているでしょうか。過去の財務状況が、これまでのアクションに対して制約条件になっていたかどうかも含めて戦略変化があったのか教えてください。

 

A-11:基本的にはありません。財務状況が悪いから何か決められない、あるいは相手が決めてくれないということはなかったです。

 

 

Q-12:今後、事業拡大を考えた時のリスクファクターとして、船員の問題があると思います。説明いただいたLNG輸送船隻数の拡大ペースを上回ったり、もしくは下回ったりする時に、船員問題がどの程度影響するのでしょうか。

 

A-12:船員問題はご指摘のとおりです。そのために当社も船舶管理機能をシンガポールに一元管理させて、そこでの拡充を図っていきます。このことによって、当社のLNGビジネスの維持というより拡大を図っていきます。

 

 

 

サステナビリティ経営Q&A

Q-1-1:ガバナンスについて、社外取締役比率が50%を超えるということで、取締役会の形態がマネジメント型からモニタリング型になってくるかと思います。このような中で、取締役会の役割の変化、あるいはトップとして期待されること、あるいは執行側の意思決定のスピードや権限移譲などについて、どのような組織やスキームを考えているのか、教えてください。

 

A-1-1:ガバナンスについて、社外取締役も含め議論をしていますが、現時点では機関設計そのものについて変える予定はありません。当社として実効性を高めるために、まずは重要な業務執行、または迅速な業務執行を担保するための決裁基準の見直し作業は進めています。

また、取締役会の開催要領について、海運事業会社である当社にとって、投資案件は非常に重要な案件ですが、投資規律を高めていく中、多額の借財、多額の投資に関してはしっかり議論して、取締役会で方向性を決めていきます。また、会社の重要な方向性、中期経営計画のような事業戦略については、多くの時間を割いてより深い議論をできるように運営をさらに強化することで考えています。

 

 

Q-1-2:多額の投資や借財については取締役会でしっかり議論する、そして決裁基準として多額の決済についても議論するということですが、基準としては大体どのぐらいなのでしょうか。船価によると思いますが、船1隻につき数十億円から場合によっては100億円、200億円の船価もあると思います。例えば船1隻であれば、取締役会で諮ることになるのか、もしくはM&Aも含めた、そのような投融資であれば取締役会にかけるのか、どのようなところで閾値を設けているのか、教えてください。

 

A-1-2:具体的な数字は控えさせていただきますが、当社では多額の投資では基準をしっかり設けています。非常に高価な船の投資については、多額な投資という観点では対象になります。

 

 

Q-2:ゼロエミッション戦略でメタノール船についてどのように考えているか教えてください。川崎汽船をはじめとする邦船社は、大体低炭素、脱炭素のためにLNG燃料船を進めていると思います。一方、ヨーロッパの船社を見ると、どちらかといえば今からでもメタノール船をやっていこうという雰囲気があり、邦船社とヨーロッパ船社の燃料に対する考え方が少し違うように思えます。この点についての考え、あるいはLNG燃料のメタノールに対する優位性などがあれば教えてください。

 

A-2:メタノールについては、欧州系の船社が一部取り組んでいます。私の理解が正しければ、グレーでできたメタノールは、重油に対して10%程度しかGHG削減効果はありません。一方、バイオから作るブルー、もしくは再生可能エネルギーを使って取り出した水素を使ってメタノールを構成したグリーンメタノールもありますが、今の段階では実質的に多くのボリュームを確保し、なおかつコスト競争力が高く供給を確保するというのは、難しいのではないかと思います。

メタノールの利点は、基本的にはCAPEXへの投資が比較的少額で済む、常温での燃焼が可能なので機関の改造に多くの費用を要さないことです。一方、燃料確保の問題やコストの点で考えると、現時点では25%~30%のCO2排出効率の削減に貢献するLNGのほうが、費用対効果も含めて分があるのではないかと思います。

 ただし、先ほどお話したとおり、今後さまざまな選択肢のゼロエミッション燃料が出てくるので、いろいろな法制度、日々変わる技術については、当社はしっかりアンテナを張った上でベストの選択肢を取っていきます。

 

 

Q-3:ガバナンスについて、この2年間で御社の財務状況はかなり大きく変化したということで、会社としてのリスクテイクの考え方で、何か変わった部分はありますか。

攻めのガバナンスという言葉もありましたので、会社としてのリスクリターンをもう少しリスクに振ってもよいのではないか、ハードルレートをあるいはもう少し上げてもよいのではないかなど、取締役会の中でそのような検討があったり、議題に出ていたりすることがあれば、教えてください。

 

A-3:基本的には変わった部分はありません。逆に当社として過大なリスクを取らないことや投資規律を維持していくことが、今の事業戦略において非常に重要と考え取り組んでいます。過去、海運事業は市況の変動にどうしてもさらされてきました。この中でかつての当社の投資行動が、ボラティリティーを増幅させるようなことになっていなかったのか振り返り、顧客の需要に沿った形での投資を徹底することでリターンも確保します。過大なリスクテイクを進めていかないことが当社として非常に重要な方針です。この2~3年の財務体質の変化によって、当社の方針は変わることなく、逆に緩むこともなく、しっかり引き締めて取り組んでいます。

 

 

Q-4:説明会資料65ページのサステナビリティ専門委員会の運営体制について教えてください。ここで報告があるという仕組みになっていますが、それ以外のチームや委員会でも環境関連の報告などがありますが、どのような人たちが何を報告する仕組みになっているのか簡単に教えてください。

 

A-4:サステナビリティ専門委員会はESG全般に関することで、GHG削減戦略委員会は、環境の中でもさまざまな海事規制など、各国の法制度がなされる中で技術的な問題に特化した部分になります。環境と言っても、その他さまざまな国境炭素税や排出権取引など、いろいろ当社として対処しなければいけない課題がありますが、こちらはESGの1つとしてサステナビリティ専門委員会で検討、対処した上で経営陣にフィードバックしています。

 

 

Q-5-1:人材のダイバーシティ、多様性のところについて、KPIで女性管理職比率も出されていて、ここを増やしていくのは当然大事だと思います。多様性という意味でいうと、例えば外国人など、外部の人たちの活用の仕方や、人材、若い人をより使っていくなど、1つの定義はないと思います。むしろそのような取り組みをしないと活性化して目標も達成できないのかなと思いますが、この点について考えがあれば教えてください。

 

A-5-1:ダイバーシティにつきまして、個人的な考えも含めてお話したいと思います。

いろいろな形で日本はこれまで長年の間メンバーシップ制度が続いてきた中、ジョブ制度など、いろいろな形で働き方が変わりつつあります。多様な働き方があります。当社としてどのような形で人材の活性化を進めていくかという中で、今の当社の本社社員の構成比率は、およそ8割が新卒採用、現段階で2割がキャリア採用になっています。

当社としては、新卒採用につきましては、最初の10年程度は管理部門、営業部門で異動させ、海事関係のマネジメントとして実業をしっかり学んで育てていく。10年で幾つか部署を異動した後、それ以降については従来の年功序列型というよりも、各社員の能力や成果を見ながら評価して、場合によっては早期登用を進めていく。このような形でのモチベーション醸成に努めています。当社の足りない機能や、補完すべき能力、いろいろあると思いますが、これらの面については、今も通年でキャリア採用を進めています。このような形で当社として欲しい人材、専門性、これを補完してより強くしていきます。この両方の合わせ技で、いろいろな形で、多様性を確保しながら、人材の活性化を進めていきたいと思っています。

 

 

Q-5-2:今何か足りていない、こういうことをしていかなければならないといった、課題認識は何かありますか。

 

A-5-2:当社としては、海運は自前で専門性を高めて、もちろんパートナーもいますが、海事技術についてもできる限り自分たちでしっかり対応していく必要があると考えています。その他の機能について、どこまで自前でやっていくかという点については、今後の考え方としては、より高い専門性が求められることが非常に大きくなっています。例えばDXや、法務関連など、こういった分野に関してはやはり外部の知見や、もしくは十分な経験、能力や専門性を持った人材を活用していくことを考えて取り組んでいます。

 

 

Q-6:人材について、離職率は、もともとどれぐらいあったのか、最近の傾向として何か変化があるのか教えてください。

 

A-6:世間一般でよくいわれるのは、7%を超えるか超えないか、そこがベンチマークになっていると理解しますが、一時期、当社の業績が非常に厳しい時期があり、その時は離職率が高まってこの水準に近づきかねないような状況もありました。現時点ではかなり改善してきています。

 

 

Q-7-1:環境関連でCII(燃費実績格付け制度)について、来年船の格付けが出てくると思いますが、川崎汽船の船舶の状況について教えてください。また、CIIが始まると減速航海やスクラップが進むなどと言われていますが、現時点で何か想定されるような状況の変化があるかどうか教えてください。

 

A-7-1: CIIはIMOの環境規制で、毎年数%ずつ排出効率を下げる必要があり、これに満たない船舶については、AからEまで5段階で評価を受けて、Dの場合は3年以内の改善、Eの場合は翌年の改善を求められるという規制です。

 

CIIについて、当社は実績を先ほど説明した統合船舶管理システムK-IMSで日々チェックできますし、加えて先のシミュレーションもできる機能まで備えています。その中でどの船が何隻ぐらいDとEの対象となるのかシミュレーションが終わっています。それらに応じた対策を当社としてしっかり進めている状況です。

実際にEの評価を付けた船が、お客さまから忌避されるかどうか、どういった対応が出てくるかは、まだお客さまと話している段階でよく見えてきません。制度自身の問題もありますが、いろいろな走らせ方、計算の仕方によって影響も様々に出てくる中で、まだ業界の中ではこの評価と使い方が定まっていない状況であり、もう少しこの影響については、今年から来年の頭まで見ていく必要があります。当社はこの点をしっかり見極めていくことで取り組んでいます。

 

Q-7-2:Eの低格付けの船舶は、比率としては大きくないということでよいですか。

A-7-2:ご理解の通りです。