当社は2021年12月にDX戦略を策定し、DXを推進する基盤整備と業務変革に取り組んできました。今回策定したAI・デジタル戦略では、データ・AIをはじめとするデジタル技術の視点を踏まえて海運業の将来像を見据え、本中期経営計画期間における重点課題を明確化しました。データとAIで「統合運用力」に厚みと拡がりを持たせ、安全・確実な輸送という当社の中核的な価値をさらに高めてステークホルダーに還元します。




 “K” LINE AI・デジタル戦略 CEOメッセージ
“K” LINE AI Digital Strategy
Shipping Redefined with Data, AI & Digital
当社は、データとAIで「統合運用力」に厚みと拡がりを持たせ、「運ぶ」価値を高めステークホルダーに還元することを目指します。以下は当社の取締役 代表執行役社長CEO 五十嵐 武宣のメッセージとなります。
海運を取り巻く環境は、大きな転換期にあります。
地政学リスクの高まりや通商政策の変化によってサプライチェーンの再構築が進み、脱炭素への対応も求められています。
同時に、AIやデジタル技術の進化は、私たちの事業や仕事のあり方を大きく変えようとしています。
こうした変化の中でも、私たちの使命は変わりません。お客様からお預かりした大切な貨物を、安全かつ確実に運ぶこと。
その使命を支えてきたのが、海務・海技、環境・技術、デジタルを束ねる「統合運用力」です。
データとAIの進化は、この統合運用力に厚みと拡がりを与える大きな可能性をもたらしています。
その第一歩として、私たちは全社横断のデータ基盤の構築を進めています。海と陸、社内外にある情報や知見をつなぎ、必要なデータを蓄積・活用できる環境を整えることで、人とAIが協働し、予測や判断、連携をより高度化していきます。
そして、この基盤の上で、まずは安全・品質・環境性能をさらに高め、「安全・確実に運ぶ」という私たちの中核価値を進化させます。さらにその先には、進化した統合運用力で、お客様のサプライチェーンや社会の課題解決へと価値を広げていく。それが私たちの目指す「新しい海運」です。
現場で培った統合運用力をデータとAIでさらに磨き、安全・確実な輸送を、その先の新しい価値へ。
私は、“K” LINEならではの強みを次の時代につなぎ、お客様と社会から選ばれ続ける存在を目指して、この変革を進めていきます。

未来を描く「7つのテーマ」データドリブンの先にある価値
“K” LINEグループは、海上輸送を中核に培ってきた「統合運用力」にデータとAIによって厚みと拡がりを持たせ、安全・確実な輸送を起点として、お客様や社会への価値創出につなげることを目指しています。
その将来像を「意思決定」「現場変革」「事業収益力」「顧客価値」「脱炭素」「安全・品質・環境」「接続・連携」の7つのテーマで整理しています。
「意思決定」では、市況・規制・地政学・地経学上のリスクをデータで捉え、船隊構成や投資などの判断をAIが支援します。「現場変革」では、海上・陸上の現場で人とAIが協働し、現場自らが課題を発見して継続的に業務を改善します。「事業収益力」では、データとAIで厚みと拡がりを増した「統合運用力」と当社ならではの営業力を組み合わせ、新たなソリューションを生み出します。
「顧客価値」では、海上輸送にとどまらず、物流最適化や脱炭素などの課題をお客様とともに解決します。「脱炭素」では、運航・環境データの可視化、予測、最適化を進め、低炭素輸送の選択や排出量の把握を支援します。「安全・品質・環境」では、船舶を戦略資産として捉え、データとAIによって性能を継続的に高めます。「接続・連携」では、船舶、海上・陸上の各部門、お客様、船主、船舶管理会社、港湾・ターミナルなどが、必要な情報を必要なタイミングで共有することを目指します。
これらを通じて、お客様、海事パートナー、海上・陸上の役職員、投資家・株主、社会などのステークホルダーへの価値創出につなげます。

今を動かす「5つの視点」
“K” LINEのAI・デジタル戦略は、「陸上のDX」「海上のDX」「データのDX」「人材のDX」「DXを支えるセキュリティ」の5つの視点で構成しています。
「陸上のDX」と「海上のDX」により、海上・陸上の双方で具体的な変革を進めます。
陸上では、業務へのAIの組み込みや定型業務の最小化を進めるとともに、海・陸・港湾・お客様のデータを連携し、環境変化への迅速な対応、低・脱炭素運航、最適配船・経済運航、課題解決提案につなげます。海上では、最適航路の選定、船上IT環境の改善、脱炭素運航、船上業務の再設計を進め、AI、ロボティクス、遠隔支援、予兆保全、異常検知、航海中の貨物監視などの活用につなげます。
こうした変革を支える基盤として、「データのDX」「人材のDX」「DXを支えるセキュリティ」を一体的に強化します。全社横断のデータ基盤とガバナンス、人とAIが協働できる人材・組織、高度で堅牢なセキュリティを整えることで、海上と陸上の連携による新しい価値創出を支えます。
DX施策を支える基盤
DX施策を支える基盤は、人材のDX、データのDX、DXを支えるセキュリティで構成されます。人・データ・セキュリティを一体で強化し、持続的な変革を実現することで、データ駆動型海運会社を実現する土台を築きます。
人材のDX
データを正しく「あつめる」「ためる」「つかう」ことができる人材層の厚みを増します。
データのDX
全社横断のデータ基盤を整備し、あらゆる情報をデータ化して共通基盤に集約します。AIが安全かつ正確に稼働する環境を整えるとともに、データガバナンスを強化します。
また、AIの活用を前提として、人とAIの協働を拡大します。経営課題の解決、事業収益力の強化、業務の価値向上につなげるとともに、AIガバナンスを強化します。
DXを支えるセキュリティ
高度で堅牢な防御により、競争力と信頼の基盤を支えます。
基盤間の連携
「人材のDX」と「データのDX」は、ガバナンスと人材の面で相互に連携します。「データのDX」と「DXを支えるセキュリティ」は、AI、データ、セキュリティに関するガバナンスの面で相互に連携します。

未来へ進む「3つのステージ」基盤強化から価値創造へ
当社のAI・デジタル戦略は、「基盤強化(人材/データ/セキュリティ)と利益成長(陸上/海上/データ・AI活用)をつなぎながら、3つのステージで段階的に進めます。
ステージ1:DX基盤整備の完遂
人材、データ、セキュリティの基盤を強化するとともに、陸上では全社データ基盤を構築し、海上では船上IT環境を刷新するなど、データやAIを活用するための環境を整えます。
ステージ2:DXによるコアバリューの磨き上げ
全社データ基盤や運航データなどを活用し、人とAIによる意思決定の高度化、変化の迅速かつ正確な把握、予兆保全や遠隔支援などにつなげます。
ステージ3:DXによる新たな価値創造
データとAIによって「統合運用力」をさらに高め、海運の価値を広げ、社会課題への貢献や競争力の強化につなげます。
3つのステージを通じて、人材・データ・セキュリティという基盤を強化しながら、海上・陸上における変革とデータ・AI活用を進め、価値創出へ発展させます。

陸上のDX
陸上のDXは、データとAIを活用した事業運営を3つのステージで段階的に発展させます。
ステージ1:データ駆動型事業運営の基盤構築
全社横断データ基盤を整え、業務の一部へAIを組み込みます。データ活用の共通基盤整備とAI活用の業務展開により、業務効率の向上と付加価値業務への移行を進めます。
ステージ2:人とAIによる意思決定高度化
海・陸・港湾・お客様のデータを統合し、人とAIによる経営判断の迅速化を目指します。社内外、海上・陸上のデータを連携し、環境変化への即応力の強化や低・脱炭素、安定輸送につなげます。
ステージ3:海運の新たな価値創出
データとAIによって「統合運用力」に拡がりを持たせ、お客様への課題解決提案につなげます。お客様や社会の課題解決、提案力・競争力の強化を図り、最適配船・経済運航や収益力の強化を目指します。

海上のDX
海上のDXは、船上IT環境の整備から、現場知見とデータを活用した支援、さらに先端技術の実装へと3つのステージで発展させます。
ステージ1:船上ITインフラの飛躍的向上
船上IT環境を陸上と同じ水準に整え、AI・デジタルを活用した船上業務の再設計に着手します。船上でのデジタル活用環境を整備するとともに、業務プロセスと役割分担を見直し、船上業務の再設計と生産性向上につなげます。
ステージ2:海上DX技術の確立
運航データをリアルタイムに連携し、現場知見を基に予兆保全や遠隔支援を実現します。脱炭素運航、予兆保全・異常検知、航海中の貨物監視などへの活用を進めます。
ステージ3:実装システムの高度化
風力の活用や自律運航船などの先端技術の実装を進め、蓄積された運航データを活用して、安全・品質・環境性能を継続的に向上させます。人的依存の低減、AI・ロボティクス・遠隔支援、最適航路の選定などにつなげます。

データのDX
データのDXでは、社内外、海上・陸上に存在する情報・知見・業務を連携させ、全社統合データ基盤を通じて「データ駆動型海運会社」への変革を進めます。
データとAIの活用領域は、「経営課題解決」「業務の価値向上」「事業収益力強化」の3つです。これを推進することが、すなわち、Data Driven & AI Transformation(AX)です。そして、データガバナンスを確立しデータ品質を担保いたします。
「経営課題解決」では、経営・事業データを統合し、AIによる先読みと迅速な意思決定を支援します。「業務の価値向上」では、業務を効率化し、強みの先鋭化や営業など、付加価値の高い業務へ集中できる環境をつくります。「事業収益力強化」では、お客様、パートナー、取引先との関係を深め、環境・安全運航などの強みを収益力向上へつなげます。
これらの活用を支えるのがデータガバナンスです。必要なデータについて「何が、どこにあるか」を把握できる状態にするとともに、正確性・完全性・一貫性などの品質を担保します。さらに、適法性の担保、アクセス権限の適正化、管理責任の明確化、継続的な監視・改善を行うことで、信頼できるデータをルールに基づき安心・迅速に活用できる環境を目指します。

人材のDX 
人材のDXでは、海上・陸上、グループ全体で事業変革と価値創出を担うDX人材とDX組織の実現を目指します。
人材育成の考え方を、知識やスキルを身につける「育成中心」から、実際の業務や事業において成果を生み出す「成果創出中心」へと発展させます。また、陸上だけでなく海上においてもDX人材を創出し、データ活用を推進する担当者を育成・配置することで、各現場におけるデータ活用と変革を支えます。
海運の知見とデータ・AI活用力を併せ持つ人材を育成し、経営主導、部門横断、現場起点で施策を具体化するとともに、海陸・グループ全体での協働を通じて知見を共有し、変革を加速します。

DXを支えるセキュリティ
DXを支えるセキュリティでは、データとAIを安全かつ安心して活用し、事業変革を着実に進めるため、「人・文化」「組織」「技術」の3つの領域からサイバーセキュリティを継続的に強化します。
人・文化
情報処理安全確保支援士などのサイバーセキュリティ専門人材の確保・育成、AI時代に対応した教育・啓発・訓練、全員がセキュリティを意識して判断・行動する文化の醸成を進めます。
組織
グループ横断で活動するサイバーセキュリティ統括組織「KL-CSIRT」を中核として監視・対応体制を強化します。また、平常時とインシデント発生時の対応、国際基準・認証への対応、サプライチェーンを含むリスク管理体制を強化します。
技術
グローバル認証基盤によるID・アクセス管理の高度化、ゼロトラストに基づくグローバルでの防御・監視能力の向上、船上環境や次世代デジタル技術に対応したセキュリティ強化を進めます。
さらに、外部環境や脅威動向を継続的に把握し、AIを含む新技術や新たな脅威へ対応するとともに、KPIを活用した評価・改善、ガバナンス・技術・教育の見直しを行い、継続的な高度化につなげます。

AI・デジタル戦略の推進体制
推進体制
AI・デジタル戦略では、現場起点で課題を発掘し、デジタル部門と協働して案件を推進します。取り組みは「案件創出」「選定」「決定」「実装」「評価・横展開」の5段階で進めます。「案件創出」では、海上・陸上部門における現場との対話を通じて課題を具体化します。「選定」では、デジタル推進デスクとデジタル部門が案件を評価し、優先度や案件管理を行います。「決定」では、デジタル会議が推進方針や投資について判断します。「実装」では、現場とデジタル部門が協働し、実行と進捗管理を行います。「評価・横展開」では、デジタル会議を通じて成果を共有し、部門横断での展開につなげます。
デジタル会議はAI・デジタル戦略責任者であるCDIOを議長とし、ユニット統括役員がメンバーとなります。重要案件は経営会議で審議・意思決定し、取締役会で経営レベルの監督・承認を行う構成です。
KPI
AI・デジタル戦略では、DX基盤の強化から変革の実装、事業成果、企業価値までを管理指標でつなぎます。
DX基盤KPIとして、2031年度末時点で「DX活用人材170名」「全社牽引人材10名」「AI活用に適したデータ80%」を掲げ、セキュリティでは「重大インシデント0件」を掲げています。
変革実装KPIでは、陸上・海上のDXに関して、定型・定例業務の時間を2026年比で20%削減・再配分することを掲げています。また、新規DX実装案件数を10件とし、2031年度末までに実装を完了して、「収益」「顧客価値」「生産性」「安全・船舶品質管理」「環境」のいずれかで効果を確認する考え方を示しています。
その先の事業成果として、陸上部門では収益力向上と人的資本最大化、海上部門では海上事故0件と不稼働最小化を示しています。最終的には、中期経営計画で掲げるROE15%以上、PBR1倍超という企業価値目標への貢献につなげます。