2015年01月05日
川崎汽船株式会社
代表取締役社長
朝倉 次郎

 

2015年 年頭所感
企業価値を高めよう ― 新経営計画のビジョン

 

 

川崎汽船グループの皆様、新年明けましておめでとうございます。
2015年のスタートにあたり一言ご挨拶申し上げます。

 

  2014年の世界経済はまだら模様の回復となりました。米国では3度目になる量的金融緩和政策(QE3)が奏功し個人消費と住宅市場が持ち直した結果、景気は上向きに転じ世界経済の牽引役となりました。一方、欧州経済の回復への歩みは力強さに欠け、停滞した状況が続いています。これまで高い成長を続けて来た中国も安定成長へと舵を切り始め、高度成長時代の不動産バブルや理財商品などの不良債権処理が今後の課題として浮かび上がっています。この他、エボラ熱、中東、ウクライナでの紛争など地政学的リスクは以前にも増して高まりました。我が国の経済は、消費税増額の影響で設備投資や民間消費に一時的な落ち込みが見られたものの、全般的には景気の回復基調が期待される状況ではありますが、今年はデフレ脱却に向けて正念場となるのではないでしょうか。

 

  当社グループの業績ですが、円安と燃料価格下落の追い風が吹く環境の中で、上半期に運賃市況が好転したコンテナ船事業では、当初見込みを上回る業績を上げ、同業他社との比較においても収支は大幅に改善しました。不定期専用船部門では、自動車の輸送台数減少やドライバルクの市況低迷が続いたことにより、業績は前年同期比で少し下回る結果となりましたが、引き続き当社の経営を支える屋台骨として重要な役割を果たしています。また、下期に入りタンカー市況の改善傾向が明らかとなり、好調なLNG、LPG船を含めたエネルギー資源輸送部門の業績向上が期待されています。加えて、この3年間続けて来たコスト削減への全社的な取り組みも業績回復の支えとなりました。とりわけ燃費管理室が中心となって全社的に徹底した省燃費運航は、燃料費の大幅な削減という果実をもたらすとともに、温室効果ガスの排出減少に繋がっています。この活動の結果、当社は昨年10月に気候変動情報開示・パフォーマンス先進企業として専門の国際団体から初めて選定されました。営業、管理部門一体となって成果を挙げたことは誇りに思います。また、管理部門主導による投資の厳選も、結果として経営基盤の強化に繋がりました。当期を含む過去三年にわたるフリーキャッシュフローの黒字によって、当社グループの有利子負債削減は順調に進んでいます。こうした努力の積み重ねによって、現行中期経営計画の最重要課題である財務体質の強化は、ほぼ計画通り達成する見込みであります。すべての関係者が強い当事者意識を持ち、目標の実現に向かって懸命な努力をされたことに、ここで改めて感謝申し上げます。

 

  財務体質の改善という目的の達成のために投資には慎重なスタンスが必要でしたが、そのような中でも当社は、将来への布石として必要と判断した投資に関してはこれを実行しました。本年3月以降2018年にかけて主要な事業セグメントに当社の有力な新鋭船が順次竣工してきます。すでに公表済のもので言えば、14000個積み大型コンテナ船10隻、大型建機や鉄道車両の輸送などのマーケットニーズを想定した仕様の7500台積み大型自動車船10隻、ドライバルク船25隻などです。これらは、燃費と輸送効率に劣る既存船を新鋭船に入れ替えることを主眼としたもので、環境保全に配慮した最新鋭省エネ船による運航コストの削減とユニット当たりの資本費低減を実現し、市場における当社の価格競争力の向上を図るものです。一方、今話題のエネルギー資源輸送ですが、すでに発注済の5隻のLNG船と並んでいくつかの追加プロジェクトへの参画を検討しております。また、当社の将来の成長戦略分野である海洋事業については、オフショア支援船の事業拡張やFPSO等、新規事業への参入にむけて現在積極的に取り組んでおり、具体的に前へ進む案件も間もなく出てくると考えております。今後も、多方面から慎重な検討を重ねた上で、一定のリターンが見込まれると判断した成長分野への投資は惜しまない方針です。

 

  さて、皆様ご存知の通り1919年創業の当社は、四年後の2019年に記念すべき100周年を迎えます。この節目に向かってこの4月から掲げるのが「新中期経営計画」になります。これから当社グループが向かう方向性とそのベースにある考え方、企業グループの取り組み等の重要な経営指針となります。詳細は3月上旬に予定している発表をもって、すべてのステークホールダーに対し当社が向かう姿を正しくご理解いただくことになりますが、強固な財務体質の確立に向けた施策と同時に、市況変動に左右されない安定収益体制を可能とする事業分野への人と財の投入というのが骨子になるものと考えます。そして、これを実行していく主体は川崎汽船グループの全役職員であります。

 

  年の初めにあたり、改めて企業の存在価値ということを考えてみたいと思います。企業が存在する目的はいくつかあると思いますが、最も大きなものは継続性のある広い意味での社会貢献だと思います。我々の生活物資や原料の輸送に物流は欠かせません。物流インフラの中での海運は、安全、安心、安定したサービスの提供によって人々の社会生活を支える事業です。これが社会貢献の根幹であることはゆるぎありません。その結果としての利益はすべてのステークホールダーに還元され、さらに次の新しい価値創生・チャレンジのための投資に活用されることになります。その活動は環境保全と両立しなければなりません。当社は様々な環境保全への取り組みを行っておりますが、徹底した本船の安全運航管理体制が基本となることは明らかです。

 

  変り行くすべての環境変化を足元から正しく認識した上で我々が将来向かうべき方向を見極め、それに対応する諸施策を素早く、そして着実に実行すること、一方で間違いに気が付いた場合には勇気をもって軌道修正をすること、そういった企業風土が如何なる環境の変化にも的確に対応できる自己革新型組織の源泉であります。昨年から順次取り組みを開始した企業統治改革や長時間労働をなくす運動、コンプライアンスの徹底の三点については、今後さらに深化させていきますが、これを成功に導くにはボトムアップとトップダウンの両面からの取り組みが必要です。どちらか一方では全社的な理解は得られず中途半端な改革にしかならないでしょう。これらをシンクロナイズさせることで、企業風土はより良いものに必ず変わるはずです。
一見順調に見えた昨年も、実際には我々は多くの課題を克服してまいりました。円安と燃料価格下落という追い風が何時までも続くことはありませんし、我々はそのような外部環境の好転に依存すべきでもありません。海運には本年も様々な問題が待ち構えていることとは思いますが、気を引き締めてこれに立ち向かい、新経営計画の着実な実行に邁進してまいりましょう。

 

  最後になりますが、当社グループの皆様およびご家族のご健勝とご多幸、すべての船舶の安全運航を祈念いたしまして私からの新年の挨拶といたします。