2010年01月04日
川崎汽船株式会社
前川 弘幸
2010年年頭所感
―雌伏の時を越えて新たなステージへ―
新年明けましておめでとうございます。2010年のスタートにあたり、一言ご挨拶申し上げます。
2008年秋のリーマンショックを契機とした世界経済の急激な減速が、当社の経営に与えた影響にはまことに大きなものがありました。2009年度第2四半期決算において、連結売上高が前年同期比45.6%減とほぼ半減し、経常利益は史上最高であった2008年第2四半期の751億円の黒字から、わずか一年を経て史上最低となる499億円の赤字へ、実に1,250億円もの大幅悪化となったことからも、今回の経済危機の衝撃の大きさが伺われます。第2四半期決算発表の段階での通期業績見通しは、売上高8100億円、経常損失710億円、当期純損失790億円へ下方修正しましたが、当社の事業環境が引き続き極めて厳しい状況にあると想定していることを示しています。
昨年秋口以降、欧米をはじめとする世界の経済指標に改善の兆しが現れ始めているものの、本格的な回復軌道に乗ったとするにはいまだ時期尚早と言わざるを得ない状況にあります。米国、欧州ユーロ圏ともに、第3四半期のGDPは前期比でいずれもプラスに転じ、景気後退からの脱却を示しているものの、不安定な雇用状況を反映した家計セクターの弱さが、今後の景気回復に向け当面の懸念材料となっています。ドライバルク市況が、旺盛な中国向け資源輸送需要の増加に支えられ、想定以上の安定した回復を見せているものの、自動車船部門においては日本からの輸出を中心とする輸送需要の回復が予測よりも遅れており、また、エネルギー資源輸送部門においても、世界経済の減速による需要低迷により、油槽船やLNG船の市況回復が捗捗しくありません。コンテナ船部門においては、世界のコンテナ船業界で年間最大2兆円の赤字が見込まれるという最悪の環境下、コスト削減に加えて大幅な需給ギャップの調整を進めた結果、着実な運賃修復の動きが見られるものの、残念ながら収支均衡レベルを大きく下回っている状況にあります。このように当社にとっていまだに厳しい事業環境が続いておりますが、世界経済が今回の未曾有の危機を克服する道筋が明確になっていない以上、当社としては向こう2~3年、あるいはそれ以上の期間に渡って事業環境が大きく改善しないことを覚悟し、自ら将来を切り開くべく努力することが必要であることは言うまでもありません。
2008年12月に、私自らを委員長として発足した経済危機緊急対策委員会は、2009年8月に収益構造改革委員会へと発展的に改組され、その傘下に収益改善、事業構造改革、組織改革の三部会を設置し、「聖域なき」抜本的な改革に取り組んできました。右肩上がりの状況が続いた過去数年間に、将来に渡ってすべてが順調に推移するとの思い込みを、あるいは持ってしまったのではないかとの真摯な反省の上に立ち、三部会では真に高い競争力を持つ会社とするべく様々な施策について議論を行い、できるところから順次着手してきました。
短期的には、まずは足元の投資計画を全社的に抑制する一方、大幅な赤字に陥ったコンテナ船部門を緊急に立て直すために、需要の減少に応じた事業規模とすべく北米・欧州航路ともにサービスの縮小再編と、運航船の売船・解撤・返船による30隻弱の減船・船隊縮小を行い、運航規模の急速かつ大幅な削減を進めてきました。加えて来期以降の収支改善を確実にすべく、既発注新造船の竣工時期後ろ倒し、他船種への変更、傭船の期限前解約など約500億円にのぼる構造改革費用を計上する決断を致しました。他方、完成車荷動きが世界的に激減した自動車船部門でも急速な合理化を進め、20数隻の解撤・返船による船隊縮小を実施した結果、すでに今後予想される輸送需要にほぼ見合った船隊となっています。ドライバルク部門やエネルギー資源輸送部門においても、高コスト傭船の期限前返船や不経済船の処分を断行しており、徐々に競争力を強めつつあるところです。これら一連の施策により、当社の収益力は急速に回復しており、2011年3月期の黒字への転換が確実に視野に入ってきています。
中長期的には、収益構造改革委員会三部会における議論を通じて得られた結論、すなわち会社としての事業ポートフォリオの見直しを行うとともに、投資計画については2009~2011年3年間の投資総額を当初の5千億円規模から半減させることで、財務指標の改善を目指す一方、事業ポートフォリオの見直しを反映したメリハリの効いた投資計画としています。まず当社の基幹部門であるコンテナ船部門については、短期的な収益力回復にとどまることなく、将来に渡って安定した事業とすることが必要ですが、そのためには、事業規模と収益の変動率のバランスが最重要であると判断しています。コンテナ船関係者には引き続きコスト競争力の向上と運賃の修復に加えて、将来を睨んだ既存サービスの大幅な見直しなどゼロベースでの事業の再検討をお願いしているところです。自動車船部門においては、将来に渡って完成車の輸送需要が基調としては増勢にあると判断される一方、輸送ルートやロットの多様化がますます進むであろうとの予測のもと、最適な船型の整備やサービスネットワークの再構築を進める必要があります。ドライバルク部門においては、世界経済の多極化がますます進む中、それを受けたトレードパターンの変化を先取りした船隊整備を、的確に行うことが求められており、またエネルギー資源輸送部門においては、オフショア支援船、大水深対応ドリルシップ、洋上LNG生産船といった数々の新事業を軌道に乗せ、新たな収益の柱とすることが重要な課題です。加えて物流部門においては、事業ポートフォリオの見直しを通じて、新たな展開戦略を打ち出すべく鋭意検討をしているところです。 これらの諸策については、12月に行われた部門ヒアリングにおいても、またその後も引き続き議論を行っており、それらを踏まえて当社の中期経営計画を見直し、近々公表する予定です。
当社は過去、多くの困難な事業環境をその度ごとに、先輩諸氏の英知と痛みをともなう改革で乗り越えてきました。今回の経済危機はその衝撃度、深刻さにおいて史上最大級のものでありますが、昨年の年頭所感でも述べましたとおり、逆境の中で知恵と底力を発揮できる「人財」の宝庫である当社グループにとって、あらたな飛躍のチャンスが与えられたものと思っております。引き続き全グループ会社とその役職員には収支改善に向け最大限のご努力をいただいておりますが、今回もまた、皆さんの強い意志と行動力によって難局を打破し、2010年は必ずや業績のV字回復が達成され、2011年以降の更なる回復・発展への一里塚になるものと確信しています。
昨年は幸いにも大きな事故はありませんでした。すべての海上従業員および運航関係者の絶え間ないご尽力の賜物であると深く感謝しております。近年は世界の政治情勢の流動化もあって、アデン湾における海賊の出現等、過去の経験を超えた予見不能なリスクも増加しています。安全運航は言うまでもなく、海運会社にとって基本であり、サービス業としての生命線でもあります。長い歴史の中で培ってきた当社に対するお客様からのご信頼を失わないよう、引き続き安全運航に万全を期するよう、あらためてお願いします。
最後になりましたが、全世界で活躍されている当社グループの皆様とそのご家族のご健勝とご多幸、全船舶のご安航をお祈りして私の年頭の挨拶とさせていただきます。