2016年01月04日
川崎汽船株式会社
代表取締役社長 村上 英三

 

2016年 年頭所感
「個の力を磨き、グローバルに信頼される企業グループに」

 

 

2015年はギリシャ発の欧州経済危機の再燃不安で幕を開けましたが、原油価格の下落やユーロ安、量的緩和政策を背景に欧州域内経済は復調し、米国でも雇用回復に伴う個人消費や住宅市場が底堅く推移するなど、先進国の経済は比較的堅調だったといえます。
一方で過剰投資、余剰設備の調整が進む中国では経済成長の減速が明らかになり、資源価格の下落がブラジル・ロシアといった国の経済に影を落とすなど、新興市場の経済の不調が重石になって、世界経済全体としては不透明な様相となりました。

世界の枠組みに目を向けると、5年あまりの交渉期間を経てTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)が大筋合意に達し、米国とキューバが54年ぶりの国交回復で関係正常化に向けて動き出すなど、国々が手を携える動きが見られました。その一方で、国際社会と対峙する過激派組織の活動が広範な地域で活発化するなど、地政学的な懸念は増大しています。
 
グローバルな物流の一翼を担う当社グループは、こういった世界経済の動向や国際情勢に無縁でいることはできません。昨年4月にスタートした中期経営計画「“K” LINE Value for our Next Century」は、このような環境の変化に対しても揺るがない財務の「安定性」を確保した上で、世界の物流需要の拡大や多様化に対応して「成長性」を強化することで企業価値を高める道筋を示したものです。
 
本年度上期は、燃料油価格の下落や円安傾向の継続などのプラス要因があった一方、船腹の供給圧力の強まりに対して荷動きは想定を下回り、コンテナ船及びドライバルクを中心に厳しい市況に晒されました。しかしながら安定した完成車の荷動きに加えて、最新省エネ大型船を活用した重建機類、鉄道車両への取り組みを進めている自動車船、中長期契約による安定収益を基盤としたLNG船、大型LPG船、油槽船などのエネルギー資源輸送事業、各地で事業を展開する物流事業などが堅調に推移し、全体では経常利益は為替評価差損益変動の影響を受けたものの、営業利益は当初想定を上回る事が出来ました。一方、下期に向けては中国を中心とした資源需要の低迷、地政学上のリスクの高まりなど不透明な事業環境は続き、市況の本格的な回復までには今しばらく時間を要する見通しです。
 
このような事業環境の変化に対応して、合理化策の策定・実施を機敏に進める一方で、最新省エネ大型船の代替投入といった安定収益体制の拡充に向けた投資に加えて、エネルギー資源輸送など成長のための戦略的投資は予定通り進めており、中期経営計画は、定めたシナリオに沿い着実に進めています。この先も環境の変化には柔軟に対応しつつ、基本方針をしっかり軸に置きながら着実に計画を推進していくことに変わりはありません。
 
共通の目標に向かって事業を推進していくためには、強い組織という土台が必要です。その組織を構成するのは個人であり、個人の能力を磨き仕事の質を高めることが、組織として最大限の力を発揮することにつながります。とりわけ、多くの情報を収集、整理し、将来起こりうることを予測する力というのは、日々の業務においても事業を進める上でも必須のものです。当社グループでは従来から人材育成を重要な課題として捉えていますが、知見や専門性をもった人材育成につながる取り組みに更に力を入れていきたいと考えています。私たち一人ひとりが、新年のこの機会を、自分を見つめ磨いていく契機にできればと思います。
 
2015年は、川崎汽船グループとしての企業理念・ビジョンを見直し、私たちがあるべき姿を改めて確認した上で、新たなスタートを切った年でした。この理念・ビジョンの実行に向けた行動計画として中期経営計画を策定し、「“K”の風」で企業風土と社風の改善活動を推進しています。 また、地球環境への影響の最小化という責務を果たすため、「環境ビジョン2050」という環境保全の長期指針を打ち出しました。次世代環境対応フラッグシップとして「DRIVE GREEN PROJECT」の名のもと建造を進めてきた自動車船が来月初旬に竣工予定ですが、最先端の技術群を搭載して究極の省エネと環境保全を目指すこの本船は、「グローバルに信頼される企業グループとして人々の豊かな暮らしに貢献する」という理念を象徴するもののひとつになるものと考えています。
 
 「グローバルに信頼される企業グループ」の実現にあたって、本船の安全運航と法令遵守は最重要の事項です。安全運航はお客様からの信頼を継続して得るための基盤であるとともに、当社グループの社会への責務であり、環境保全という側面も持っています。またすべての企業活動は、法令や社会規範の遵守を前提に成り立っています。コンプライアンスの欠如は、当社グループの事業基盤にまで影響を及ぼしかねないということを、常に念頭においていただくようお願いします。
これらに加え、長時間労働の防止・削減策も引き続き講じていきます。会社としての取り組みと併せ、一人ひとりが業務の質や生産性を向上させることで労働時間を短縮し、仕事と生活の双方の充実につなげていただきたいと思います。
 
2016年は、中期経営計画を始めとした事業計画や活動を引き続き実行していく年になります。目指す目標をしっかり見据えたうえで、ぶれることなく、たゆまず進んでいきましょう。
 
最後になりましたが、川崎汽船グループの皆様とそのご家族のこの1年間のご健勝とご多幸、またすべての船舶の安全運航を祈念して、私からの新年のあいさつといたします。