2011年01月04日
川崎汽船株式会社
黒谷 研一

 

2011年年頭所感
―新たなグローバルな視点を―

 

 

新年明けましておめでとうございます。2011年のスタートにあたり、一言ご挨拶申し上げます。

 

2009年の秋口以降、リーマンショックの影響を脱したBRICS諸国や新興国の順調な経済成長に引っ張られる形で、日米欧の先進国の経済も緩やかながら回復軌道に戻り、当社の業績は2010年度第2四半期決算において、連結売上高が前年同期比29.9%増となり、経常利益は史上最低であった2009年度第2四半期の499億円の赤字から428億円の黒字へと、改善を達成することができました。2009年度赤字のほとんどを占めていたのがコンテナ船部門でしたが、昨年はじめに全世界のコンテナ船腹の12%に当たる150万TEUの船が停・係船状態にありましたが、その後は当初の予想を上回る荷量の回復により徐々に解除されました。当社も昨年はじめには実に12隻がコールド・レイアップを含む停・係船状態にありましたが、5月までに全船をサービスに復帰させることができました。さらに燃料費高の影響の後押しもあり、減速航行を多くの船社が追求した効果も加わることで、新造船も世界的規模のマーケットに吸収されることになり、その引き締まりを見ることができました。また、もっとも喜ばしいこととして、特にコンテナ船の運賃が回復するという年となりました。

 

一方、第2四半期決算発表の段階での通期業績見通しは、売上高9850億円、経常利益550億円、当期純利益320億円としていますが、下期の経常利益の見込みは122億円と、第1四半期決算発表時の見通しであった120億円とほぼ横並びであり、当社を取り巻く事業環境が決して楽観できない状況にあることを示しています。

 

私が社長に就任するにあたり、第一のミッションは、黒字化と早期復配でしたが、高価格のコンテナ船の傭船を解約する等の手段も講じながら、その主要かつ緊急のテーマであったコンテナ船事業が幸いにも2010年度上期に256億円の経常利益を上げることができたこともあり、早期達成をすることができました。引き続き「財務体質の改善・強化」および「安定収益基盤の拡大と持続的成長」については、新たな経営計画の策定を射程として設置した事業構造改革部会と組織改革部会の二部会の重点項目として、完遂すべき目標の深度化に取り組んでいるところです。

 

あらためて事業を取り巻く環境に目を転じますと、米国経済は一連の金融緩和政策を受けて、経済指標に一進一退感はあるものの、緩やかながらも回復の動きを続けており、ユーロ圏においては、財政赤字削減で景気に下押し圧力がかかり緩やかな減速が予想されながらも、ドイツを中心とする欧州北部の経済は堅調です。また、中国においては、政府が年間目標に掲げる「8%程度」の経済成長はほぼ確実な状況です。かたや、中国同様に膨大な人口をかかえるインドの一人あたりの鋼材消費量は中国の約十分の一、電力消費量は五分の一強にとどまっており、早急なインフラ整備を課題としていることから、まだまだ潜在的な成長力を秘めています。所得・雇用環境の改善で自動車販売の好調が続くタイやインドネシア をはじめとするASEAN諸国も世界経済の一定の牽引役を引き続き果たすものと思われます。このように、世界経済はリーマンショック後の景気後退から立ち直りつつあり、世界の海上荷動き量は今後も緩やかながらも着実に増加するものと考えています。

 

このような事業環境の変化を受け、一旦V字回復した当社があらためて経営のスタートをきるためには、各部門ともにコペルニクス的転回ともいうべき新たなグローバルな視点で事業計画を策定することが必要です。コンテナ船部門においては、さらなる体質の改善、競争力の強化に継続して取り組んでこそ、熾烈なコスト競争を勝ち抜き、南北航路、成長いちじるしいアジア域内を含むいかなる航路においても、確固たる地位を築き上げることが可能となります。

 

ドライバルク部門においては、日本のお客様との関係をいっそう強固にするとともに、引き続いて中国、インド、ブラジルやその他新興国における需要を着実に取り込む事業を進めなければなりません。在ロンドン、シンガポールの海外現地法人ともども、幅広く事業の展開を図るべく新たな取り組みが期待されます。

 

自動車船部門においては、主力の日本からの輸出環境に構造的な変化が起きつつあるとの認識を持って、従来のビジネスモデルの見直しを迫られています。自動車の輸送台数だけを焦点とせず、建機等のRORO貨物への取り組みや成長地域の特性もきめ細かく検討しつつ、大きな変化の波に対して今まで以上にダイナミックな発想で立ち向かうことが求められています。また、エネルギー資源輸送部門においては、油槽船やLNG船の市況低迷が長期化する一方、オフショア支援船、大水深対応ドリルシップ、洋上LNG生産船といった数々のエネルギー資源開発周辺の新事業に積極的な投資を行っています。今後は既存事業の構造改革を進めることと並行して、これら新事業を収益の柱のひとつとして育てていかなくてはなりません。事業の成長性、収益性や投資効率の観点からもエネルギー資源輸送部門全体としての将来像を大胆な発想をもって描いていくことがますます重要になります。

 

重量物輸送部門においては、需要の回復を的確に捉えた事業展開を進めるべく、それに資する投資と組織の再検討が、また物流事業部門においては、昨年の米国フォーワーディング会社の買収を契機として、グループとしての物流事業のあらたな展開が、それぞれ重要な課題であると認識しています。

 

そして、これら事業の推進により環境に与えてしまう負荷に対しては、一方で国際社会の一員として環境保全対策の推進にいっそう貢献していかなければなりません。たとえば、「水と油」を混ぜることでNOx削減を改善することができる「水エマルジョン」技術が一月より実証実験の段階にはいることに示されるような、当社における先進的な取り組みもあります。日本の造船所でも燃料効率を高めるエコシップをはじめとする環境技術が次々に開発されており、これに連携して取り組み、さらに船会社の持つ運航技術・技量 を加えて世界をリードできる船社になるよう不断の努力をしてまいりましょう。

 

さらに世界をリードする船社として、事業ポートフォリオの見直しを行い、メリハリの効いた経営計画とすることが重要と考え、事業構造改革部会での議論や、12月に行われた部門ヒアリングでの討論を踏まえて、新たな経営計画を近々公表できるよう鋭意検討を行っているところです。1960年代終わりから1970年代はじめにかけて、定期船分野ではコンテナ化が、自動車の輸送分野では自動車専用船という革新的輸送モードが導入されました。しかしながら、それらに匹敵するような独創的輸送モードは未だに出てきていません。リーマンショックによる大幅な事業の見直しを今までの延長線上で思考する業務を見直す絶好の機会と考え、新たな経営計画策定に向けて、めいめいが革新的発想をし、新たな経営計画策定に参画していくことを大いに期待しています。

 

昨年は、当社の船も海賊行為による事件に遭遇するという由々しき事態が発生しております。一朝一夕に解決できる問題ではありませんが、海賊事例が多発している アデン湾、アラビア海、マラッカ海峡およびマンカイ島沖等での海上従業員および運航船舶の無事を祈るとともに、海賊対策については会社全体で力を尽くしていきます。そして、お客様の信頼を勝ち得るのは何にもまして安全運航であるということをあらためて肝に銘じ、すべての海上従業員および運航関係者が長い歴史の中で培ってきた当社の安全運航体制を引き続き徹底してください。

 

最後になりましたが、「ヒューマン・エレメント」が最も大事な財産であり、Kライン「ファミリー」としての結束なしには私たちのこれからの発展もありえません。一人ひとりのチャレンジングな気持ちを大切にすることをお約束し、そして全世界で活躍されている「ファミリー」たる当社グループの皆様とそのご家族のご健勝とご多幸、全船舶のご安航をお祈りして私の年頭の挨拶とさせていただきます。