2009年01月05日
川崎汽船株式会社
前川 弘幸

2009年 年頭所感
巡航速度経営へ舵を切る

 

 

新年明けましておめでとうございます。2009年のスタートにあたり、一言ご挨拶申し上げます。

 

10年後の会社創立100周年に向け「共利共生と持続的成長」をメインテーマとする新中期経営計画“K”LINE Vision100に昨年4月から移行しました。上期はバルク市況の未曾有の高騰を主たる要因として、半期としては史上最高益を達成しましたが、下期は一転して米国のサブプライム問題に端を発した金融危機の影響で世界経済は急速に減速、ドライバルク市況が急激に下落した結果、中間決算発表の段階で通期業績見通しを、売上高1兆3,800億円、経常利益1,050億円、当期純利益710億円に下方修正したように、現下の当社の置かれた事業環境は極めて厳しい状況にあると言えます。

 

幸いにも燃料油価格がここにきて低位で推移しておりますが、為替は円高傾向にあり、ドライバルク市況の本格的な回復の時期は不透明であり、また欧米を中心に世界経済減速の影響を受け、好調だった自動車船輸送需要も落ち込んでいます。コンテナ船荷動きは北米航路でマイナス成長、欧州航路も一昨年の2桁成長から一転、横ばいに落ち込んでおり、本年度中の荷動きの回復を見込むのは難しい状況にあります。新造大型船の竣工にともないコンテナ船の需給関係の急速な悪化懸念から、各コンテナ船社はサービスの減便や減速航行等、需給改善に向け積極的に取り組んでいます。すなわち、現在の事業環境は順風満帆の航海が、一転して逆風を受けての航海に急変した状況に例えることができます。

 

今回の金融危機に端を発した世界経済の大混乱は、何時、どういった形で収束を迎えるのか、世界経済は何時正常な状態に回復できるのか、先を読み難い状況にある以上、この厳しい事業環境は203年は続く覚悟で思い切った対策を考えていく必要があります。

 

当社グループは、このように世界経済が急速に減速している以上、ここで一旦舵を切ることで当社の中期経営計画の進行スピードを巡航速度経営に躊躇することなく方向転換しました。この大嵐を乗り越えた時、改めて舵を切り直して航路復帰、すなわち当初の計画への復帰を目指したいと考えます。

 

世界経済に急ブレーキがかかっているわけですから、当社グループもこれまでのようにアクセルを踏み続けるわけにはいきません。すでにご案内の通り、私自らを対策本部長、鈴木副社長を副本部長として、緊急に対策本部を設置しました。具体的には、緊急対策として2011年までの投資計画の大幅な抑制策を取りまとめました。これにより向こう3年間の業績がある程度悪化したとしても財務指標が大きく毀損しないレベルまで投資を抑制する考えです。具体的な対策に基づく向こう3年間の収支計画は、来年度予算策定時にとりまとめる予定です。

 

次に、徹底したコスト削減とコスト管理を敢行します。とりわけ、収支が急速に悪化しているコンテナ船部門の出血を早急に止めるのが喫緊の課題です。売り上げ、グローバルなネットワークなど事業規模の大きさとグループ経営の観点からも当社の基幹部門であるコンテナ船部門の早期回復なくして当社の健全な運営はありえません。コンテナ船部門の関係者には、徹底した現状分析のもと回復に向けた道筋を早急に描き、前例に捕らわれることなく、あらゆる収支改善策に取り組んでいただきたいと思います。

 

過去数年の好調な事業環境の中での順調な業績の上に胡坐をかいていたとは思いたくはありませんが、この機会にお互いに気持ちを引き締めたいと思います。各部門、各グループ会社においても、コスト管理が甘くなっていないか、収益チャンスを見逃していないか、それこそ初心に戻って総点検していただきたいと思います。各自がやるべきことを、こつこつこつこつと地道に積み重ねてゆくことを決して疎かにしないこともお願いしたいと思います。世界経済の減速は国内外のグループ会社の事業にも何らかの形で影を落としていると思いますが、各社がおかれた事業環境に即した対策にあらゆる角度から取り組んでいただくようお願いします。

 

これまでも幾多の厳しい事業環境を乗り越えてきたことで、今回のような大きな環境変化があっても、それに即応できる体制、踏ん張りの利く体制にシフトすることはできる財務体力と適応力は十分に備わっていると考えておりますので、全グループ会社とその役職員の強い意志と行動力があれば、この難局を乗り越えるのは大きな困難ではありません。東京本社では役職員全員参加のBPIすなわち業務改革への取り組みを開始しました。職場を明るく活性化させ、社員一人ひとりが自身の役割と目標を常に明確にし働き甲斐のある職場にし、以って全社的生産性の飛躍的な向上を図りたいという狙いです。このBPIはやがて海外およびグループ会社にも展開していただき、業界屈指の競争力を誇る事業体の実現を目指していきたいと思いますので、皆さんの積極的な参加と生産性の高い行動力を期待しています。

 

当社グループの船隊規模は、すでに500隻を超え、2010年度末には600隻に拡大する計画です。船隊規模の拡大にともない、事故や危険に遭遇するリスクも高まります。安全運航は海運会社にとって基本中の基本、生命線ですので、安全運航の維持には海上・陸上を問わずグループをあげて最大の緊張感をもって取り組んで行かねばなりません。安全運航の原点は、地道に基本をしっかりとやっていくことを基本方針とし、現場での基本事項の遵守と無理をしない、させない、また、現場での適切な判断が下せるよう、陸上からできる限りの情報提供と支援体制を充実させることに尽きると思います。事故や危険による損害はお金で償えても、安全運航に裏打ちされたお客様の当社への信頼は一瞬で失い、信頼を再び回復できるとしても何年も要するであろうことを、改めて肝に銘じたいと考えます。

 

このところ世の中、暗い話ばかり聞こえてきますが、実はこの金融危機、世界経済の大混乱は国籍、産業の種類を問わずほぼすべての企業に影響をおよぼしています。
従って、この逆境に持ちこたえた者には、飛躍のチャンスが与えられるという、考えようによっては、これは当社グループにとって絶好の機会でもあります。当社グループは順風の中では事業を伸ばし、逆境の中では知恵と底力を発揮できる「人財」の宝庫であることを、この経済危機の真っ只中にある今年、是非それを証明すべく共に挑戦する年にしたいと思います。

 

最後になりましたが、国内外の職場や洋上で活躍されている当社グループの皆様とそのご家族のご健勝とご多幸、全船舶のご安航をお祈りして私の年頭の挨拶とさせていただきます。