2012年01月04日
川崎汽船株式会社
2012年 年頭所感
― 改革元年 試練を乗り越える ―
朝倉 次郎
新年明けましておめでとうございます。
2012年のスタートにあたり、一言ご挨拶申し上げます。
昨年、わが国では3月11日に東日本を襲った未曾有の大震災によって、多くの尊い命が失われました。また同時に発生した福島原発事故によって、数多くの方々が避難を余儀なくされました。災害が人間の幸せな営みを、ある日突然破壊するという現実をまの当たりにした私たちは、茫然自失しながらも、少しずつ日常性を取り戻す努力を積み重ねて参りました。被災地復興の取り組みもようやく本格的に始まり、私たちも、個人として、あるいは会社としてこれを支援するため、改めて何ができるか考え、実行して行きたいと思います。
一方、世界では、チュニジアから始まったアラブ諸国の民主化運動が一部の国で独裁政権を崩壊させましたが、政治的な安定からは依然として程遠い状況にあり、むしろ今も混乱が続いております。欧州では、膨張する政府債務に歯止めをかけるための有効な対策が、関係諸国の間でまとまらず、市場はこれに悲観的に反応し、国債の格下げと売却という悪循環に陥っており、金融システムにも悪影響が出る虞があります。
3年前に起きたアメリカ発の金融危機が、今度は欧州で繰り返されるか否かの瀬戸際に、世界経済は追い込まれているというのが実情だと思います。前回の金融危機では救世主となった中国などの新興国についても、停滞する欧米経済からの悪影響は免れず、資源高や食糧高によるインフレともあいまって難しい経済運営を迫られており、世界の何処を見渡しても今のところ晴れ間は見えておりません。
このような大変厳しい状況において、海運業を取り巻く事業環境においても百年に一度の地殻変動が世界でおきています。自然災害としては、一昨年末に、石炭の主要産出国のオーストラリアで発生した洪水が、ケープサイズバルカー市況の極端な低迷の一因となり、そして昨年の東日本大震災とタイにおける洪水は、一時的に自動車輸出の激減を招きました。この影響は自動車生産のみならず、日本の粗鋼生産にも影響がでるなど被害は広範囲にわたっています。
また先ほど述べたような世界経済の状況下では、一部のエネルギー品目を除いて荷況(にきょう)の改善に期待できないことは言うまでもありません。このような環境下において、コンテナ船市況は、各船社が大型船を投入し、供給過多が欧州・北米航路を中心とした市況低迷に拍車をかけて、年初に下落した運賃水準が、繁忙期の夏場以降も回復せずに低迷してきました。当社の業績は、2011年度第2四半期決算において、連結売上高が前年同期比4.5%減となり、経常利益は残念ながら203億円の赤字へと転落しました。前回の不況時においては、全世界のコンテナ船腹の、12%に当たる150万TEUの船が停船・係船され、その後減速航行の効果も加わり運賃が急回復しましたが、2011年末の停船および係船は未だ数パーセントにとどまっており、需給関係の改善にはしばらく時間がかかる見込みです。
昨年4月に策定した中期経営計画においては、新たな挑戦と題して市場構造の変化や新興国の成長をいち早くとりいれて、新たな成長分野への戦略投資を進めていくことを明言いたしました。総花的な拡大路線から質的な転換を図り、安定収益基盤を確立するとともに財務基盤の強化を図ることが、私が社長に就任した際に与えられたミッションであります。
そしてこれを現在の事業環境に照らせば、今年は間違いなく守りの年です。まずは鉄壁のディフェンスラインを引いて、決して失点をしないことが大事です。二〇〇四年からの五年間は攻撃重視型の戦略を取りましたが、これからの数年間は生き残るために、徹底した守りを貫き、次の上昇サイクルを待つ時期だと認識しています。(強気)相場は悲観の中で産まれ、懐疑の中で育って行くという有名な言葉がありますが、長い歴史の物差しで現在を測れば、2012年は、荒野に新しい芽が吹き出す年になるのかもしれません。過度に悲観することなく、前を向いてやるべきことをきちんとやれば、自ずと道は開けるものです。今年は辰年ですが、中国において竜は英雄や神のような存在です。竜は飛躍的なイメージもあるので、イヤー・オブ・ザ・ドラゴンは世界を覆う(おおう)重苦しい気分を、年後半には取り去ってくれるのではないでしょうか。
我々の努力では解決できない、超円高と燃料油高騰問題も抱えながらの厳しい事業環境から、新たな経営のスタートをきるためには、各部門は経営とともに「判断力」と「実行力」を試されることになります。将来を見据えて、事業運営を根本的に見直し、考え抜くことが今年のテーマです。コンテナ船部門においては、更なる聖域なき構造改革に取り組み、早期に赤字からの脱却をはかることが求められています。ドライバルク部門においては、当社グループの高品質かつ競争力ある船隊を、世界の市場に売り込むことに一段と磨きをかけて欲しいと思います。自動車船部門においては、主力の日本からの輸出環境に、超円高による構造的な変化が起きつつありますが、世界的な自動車販売は、新興国中心に今後も堅調な伸張が予想されます。この様な需給環境の下で、自動車専用船のパイオニアとして、専門性を十二分に活かし、航路の改編や建機・機械等の輸送も強化し、収益性の向上に取り組んでほしいと思います。エネルギー資源輸送部門についてですが、油槽船は、新造船供給圧力が強く、市況回復には相当の時間を要する見込みであり、縮小均衡の方針をとらざるをえませんが、一方でLNG船においては中期契約獲得により、安定的な収益が確実に期待されます。オフショア支援船も昨年までの努力が結実し、一流傭船者より当社グループの地位が認められ、相次いで契約を締結することができましたので、今年は更なる安定化を求めていきます。重量物輸送部門においては、昨年6月に、ドイツのSAL社を完全子会社化しました。この事業に取り組む組織も完成しましたので、市況の回復を確実に取り込んでいけるものと考えます。物流事業部門においては、当社グループの陣容拡大によって、成長するアジアの物流事業を取り込むことが重要な課題であると認識しています。そして、これら諸事業が、環境に与える負荷に対して、国際社会の一員として、環境保全対策を推進することは、企業存続の絶対条件です。一昨年、川崎重工とノルウェー船級協会とともに立ち上げたLNG燃料船開発プロジェクトチームは、世界最先端の技術開発という具体的な挑戦計画を昨年発表しました。その実現に向けてはいくつもの超えなければならないバリアがありますが、これに果敢に挑戦することによって、Kラインスピリットを取り戻すことができると確信しています。
最後になりましたが、お客様の大切な荷物をあずかり、私たちの営業活動の基盤である船舶の安全運航に日々邁進している海上従業員の皆さんに、心より感謝申し上げます。アデン湾からインド洋広域において、いまだ頻発している海賊行為の対策については官民協力し、会社としても海上従業員の安全を確保することに全力を尽くすことをお約束します。
全世界で活躍している海陸従業員が、経験と英知を結集して激動の二〇一二年を乗り切り、来るべき創立百周年に向けて、当社グループ基盤を磐石(ばんじゃく)なものにしてまいりましょう。
皆様と、そのご家族のご健勝とご多幸、全船舶のご安航を、重ねてお祈りして、私の年頭の挨拶とさせていただきます。