2025年1月6日 
川崎汽船株式会社

 

当社社長 明珍幸一による2025年年頭挨拶を下記の通りお知らせいたします。

 

 

 川崎汽船グループの皆様、並びに家族の皆様に謹んで新年のお慶びを申し上げます。年末年始は充分に英気を養い、新たな気持ちで新年を迎えられたことと思います。

 

 昨年の世界情勢を振り返ると、国際海運、そしてサプライチェーン全体への重大な影響が紅海情勢によってもたらされました。中東地域の地政学的リスクの顕在化は紅海地域を通航する商船の安全運航への脅威となり、乗組員そして本船の安全確保のため喜望峰周りを余儀なくされています。また、米国では大統領選によって政権交代が起こりますが、通商政策やエネルギー政策などに大きな変化が予想され、景気に与える影響、そして今後サプライチェーンや海運輸送需要にどのような変化をもたらすのか注視が必要です。地政学的リスクを巡る不確実性は高まる一方ですが、顧客とのパートナーシップを通じて需要をしっかりと見極め、今一度エクスポ―ジャー管理を徹底し、市況耐性を強化する事で短期的な需要や市況の変動に備えていきたいと思います。

 

 また、海運をとりまく環境規制に目を向ければ、2024年1月より、欧州連合域内の排出量取引制度(EU ETS)が正式に導入され、今年は新たにFuelEU Maritimeが続きます。IMO(国際海事機関)でも国際海運の GHG 排出削減を進めるために、化石燃料を使用する従来型の船舶からゼロエミッション船への代替を促進するための更なる対策の導入に向けた施策の議論がいよいよ本格化していきます。一方、米国では政権交代に伴って低・脱炭素化の動きが大きく修正されるという観測もあります。全世界的に見ればGHG排出量削減という大きな流れは変わらないと考えますが、地域別による濃淡、時間軸の変化も起こることが想定されるなか、短期的な動きに惑わされることなく、中長期的な視点で環境負荷低減に向けた取組みを着実に進めていきたいと思います。

 

 さて、当社では2022年度から始まった5年間の中期経営計画が昨年折り返し地点を迎えました。中計最終年である2026年度の経常利益目標値である1,600億円に対して、今年度の通期経常利益は2,400億円を見込んでおり、中計期間中の累計での営業キャッシュフローの想定については、当初計画の1.0兆円前後から、2024年11月には1.5兆円に引き上げました。また、企業価値向上に必要な投資は、投資規律を緩めずに促進し、中計期間中の投資計画を当初計画の5,200億円から7,400億円に引き上げています。海運を巡る事業環境が大きく揺れ動くなか、『好況の時は抑制的に、市況が悪い時は戦略的に』を忘れず、当社の成長につながる投資を進めていきましょう。また、株主還元総額も同様に、7,300億円以上に修正し、今年度の配当は1株あたり15円増配して100円を予定するとともに、5月から7月に実施した908億円の自己株取得に加え、11月からは900億円、または3,600万株を上限とする自己株取得を進めています。財務健全性を確保のうえ、最適資本構成を常に意識しながら、適正資本を超える部分についてはキャッシュフローを踏まえて積極的に株主還元を検討していきます。

 

 市況や為替などの追い風の要因もありましたが、役職員一人一人の日々の努力により、成長を牽引する3事業を中心に自営事業はしっかりと業績を伸ばした一方、コンテナ船事業もレジリエンスを高めることができ、それぞれに目標を上回る進捗を示すことができました。また、自動車船や鉄鋼原料事業における環境対応船などの船隊整備や中長期契約をベースとしたLNG輸送船の増強に加えて、物流事業におけるケイラインロジスティックスの株式会社上組との資本提携の実施。当社の強みを活かす新規事業としては、昨年11月に一隻目が竣工し当社の運航・船舶管理の下、本格稼働が始まるNorthern Lights社との世界初のフルスケールCCSプロジェクトをはじめとした液化CO2輸送船や、EKGS社による日本籍船の地質調査船「EK HAYATE」の就航など、将来の成長に向けた種蒔きは着実に進んでいます。

 

 さて、当社グループの強みである「安全・船舶品質管理」「環境・技術」「デジタルトランスフォーメーション」という3つの機能と、それらを支える「人材・組織」を更に強化していくことは、中計を進めていくために大変重要な鍵となります。
海運会社にとって安全運航は一丁目一番地であり継続的かつ徹底した取り組みが求められます。当社の重大事故発生件数は昨年も0件でしたが、これも海上乗組員をはじめ、すべての役職員が意識を高くもって取り組んだ成果です。船舶管理システムを統合したうえでグローバル・モニタリング体制を整備し、全世界で運航されている当社船を24時間365日サポートできる体制の構築を進めています。新燃料対応など新たな技術の習得も求められるなか、優秀な船員を確保、育成するためマニラやインドでの研修所の一層の拡充も進めていきます。

 

 「環境・技術」の分野では、2050年GHG排出ネットゼロに向けて、当社グループでは、重油に代わる次世代ゼロエミッション燃料であるアンモニアやメタノールや、既存船で焚けるバイオ燃料などの実装に向けた取り組みも加速化しています。加えて、様々な省エネ技術の研究、導入を図るとともに、風力の活用による燃費削減を目指す自動カイトシステム「Seawing」の技術確立および製品化にも取り組んでいます。ハード面に加え、「デジタルトランスフォーメーション」にも関連しますが、本船からの運航情報や気象海象などの様々なビッグデータを統合船舶運航・性能管理システム「K-IMS」にて運用するなどのソフト面の両面からの取り組みにより、多様な選択肢に備えて、当社サービスに最適なものを採用すべく、全社の環境戦略を推進していきます。

 

 最後に「人材・組織」については、事業の成長に必要な質と量の確保を進めるとともに、当社が重点事項として取り組む3つの機能の強化を可能とする人材の育成に取り組んでいます。今後成長が見込まれるアジアを中心にグローバルな事業展開を更に推進するため、ナショナルスタッフも含めた中核となる人材の育成により一層力をいれていきます。

 

 2025年は「乙巳」(きのと・み)の年です。「乙」は困難があっても紆余曲折しながら進むことを表し、「巳」は脱皮し強く成長する蛇のイメージから「再生と変化」を意味し、組み合わせた「乙巳」には「努力を重ね物事を安定していく」といった意味があるそうです。社会情勢が刻々と変化するなか、お客さまが求めていることは何か、当社として提供できる価値は何かをとことん考え抜いて解決策を提示する、その解決策を当社グループの仲間とチームワークを組んで展開し実現する、そして中長期的にお客様とのパートナーシップを通じて成長機会を追求しながら、持続的な成長と企業価値の最大化に取り組んでまいりましょう。

 

 結びに役職員、海外、船上でご活躍されているみなさま、そのご家族のご健勝と本船のご安航を祈念して、私のあいさつとさせていただきます。

川崎汽船 明珍社長