2021年1月4日
川崎汽船株式会社

 

本日行われた年賀式での当社社長 明珍幸一による「年頭所感」をお知らせします。
 


 

 川崎汽船グループの皆様、ステークホルダーの皆様、新年あけましておめでとうございます。

 

 昨年の仕事始めの日、新年のご挨拶を申し上げていた時には、世界の景色が一変する1年間が待ち受けているとは想像もしませんでした。新型コロナウイルス感染症の流行は、未だに多くの人々の健康を脅かすとともに生活や経済に影響を与えており、医療に従事する方々の尽力や解決に向けた取り組みが日夜重ねられています。同時に、コロナとの共生を通じて働き方やデジタル化の変革が進み、社会や企業の持続可能性がより求められるようになっていると感じています。

 

コロナ禍と経営計画
 昨年初は、新型コロナの感染が世界に拡大するなか、暗闇の中を手探りで進むような状況でした。当社では4月から新たな中期経営計画を始動させるべく議論を重ねていましたが、事業環境の大きな変化に直面し、これを全面的に見直し、8月に「経営計画」として発表しました。
 「経営計画」は、足元で取り組むべき課題と中長期的に目指す方向性を整理したものです。新型コロナの拡大によって、国内の粗鋼減産や完成車輸送台数減少のように、まだ先だと考えられていた事象が前倒しで眼前に現れ、潜在的な課題や懸念があぶりだされました。このような状況のなか、コロナ後の事業環境を見据えてすべての事業計画を一から見直し、それに合わせて投資計画も全面的に立て直しました。保守的なシナリオのもと、船隊規模の適正化によってコストとリスクを減じ、投資は身の丈に応じたものとしました。当社事業であるドライバルク、エネルギー資源輸送、自動車船、物流・近海/内航事業のどれかひとつに偏るのではなく、4部門をバランスよく運営していくことで、低成長でも収益を上げられる体制を目指すものです。財務体質の改善が大きな経営課題であるなか、確実に収益を上げることで自己資本を着実に積み上げ、将来の展開に繋げていきたいと考えています。

 

2020年の振り返り
 今年度上期の当社事業において、コロナ禍はドライバルクと自動車船事業にもっとも大きな影響をもたらしました。特に第1四半期の影響は深く、国内の粗鋼生産は前年度比3割減少、自動車輸送台数も半減するという状況でしたが、経営計画で打ち出した今年度中の20隻強の船隊圧縮のうち約半数を上期中に実行するなどして、迅速なダメージコントロールに努めました。コンテナ船事業においては、設立後3年目を迎えたONEが巡航速度に入り、シナジー効果がしっかり現出し、ベストプラクティスを着実に具現化しています。加えて近年の業界再編の効果もあり、コロナ禍に伴う需要の急速な減退に対してもサービス品質を落とすことなく機動的に減便を行いました。需要に応じて配船を最適化することで、運航コストを抑制するだけでなく、環境負荷の低減にも繋げることができたと考えます。
 暗闇の中を手探りで進み始めたコロナ対応ですが、経営計画によって目指す方向は明確になり、ここまでは想定した通りに進むことができました。

 

2021年の方針と課題
 感染再拡大による影響は引き続き懸念されますが、モノの動きが止まることはなく、また各国では感染拡大防止と経済の両立が模索されています。このような状況のなか、コロナ影響の大きかったドライバルク、自動車船事業は、最も厳しい時期を脱して回復の途上にあります。エネルギー資源輸送、物流・近海/内航事業では引き続き安定経営に努め、コンテナ船事業ではONEは需要に応じた機動的な配船を継続する方針です。これによって下期は全部門で黒字化を目指すべく取り組んでいます。
 経営計画で掲げた船隊適正化は計画通りに進み、中長期契約も予定通り進捗しています。自己資本の拡充は、業績の改善によって当初計画を上回り、従前から取り組んでいるノンコア事業資産の整理も手を緩めず推進することで、2020年代半ばとしていた自己資本1,500億円への回復は、前倒しでの達成を目指します。
 安全、環境、品質への取り組みはさらに強化し、全社横断的に進めている安全環境支援技術、代替燃料の両プロジェクトは加速化を図ります。また、事業環境が大きく変わるなか、BPRによる業務改革を本格的に始動しました。職務や業務フローを足元から見直し、データの一元化なども含めて全社で業務プロセスの最適化を行うことで、より創造的な業務に時間を振り向けることを意図しています。

 

サステナビリティの重要性
 新型コロナの感染拡大は人々に大きな変容を迫り、社会や環境、経済を持続させること(サステナビリティ)の重要性を強く意識させました。その中で国際海運の需要は一時的に減りこそすれ底堅く、私たちは人々の生活や経済を支えるライフライン、インフラとしての海運業の持続可能性(サステナビリティ)の重要さを重ねて認識しました。
 当社はESG経営を進め、経営計画で安全、環境、品質への取り組みを重点課題と位置付け、未来に亘ってサステナビリティを確保することを目指しています。
 環境面では昨年、「環境ビジョン2050」を改訂してIMOを上回るGHG削減目標を設定しました。この達成に向けて、全社横断プロジェクトで事業部門ごとに実現計画を検討しています。具体的な動きとしては、LNG燃料の利用が本格化します。昨年、中部地区でのLNG燃料供給事業を開始、シンガポールでのLNG燃料供給船の船舶管理に続き、今年は当社初となるLNG燃料船の竣工も予定されています。また風力を利用する「Seawing」も実装に向けた検証が進捗中です。さらに2050年目標であるGHG総量半減に向けては、全社横断プロジェクトによって次世代燃料の研究も進めています。
 ESGの「S」と位置付ける安全面では、自社船、傭船を問わずすべての運航船において安全運航とそれを支える体制を強化します。コロナ禍は社会のデジタル化を加速させましたが、海運も例外ではありません。統合船舶運航・性能管理システム「K-IMS」の利用を傭船に拡大するほか、船務のデジタル化による乗組員の負担軽減・働き方改革や、本船での通信技術活用の研究も促進していきます。
 コロナ禍による船員交代の停滞は、船員やご家族の心身への負担、それに伴う安全運航への懸念をもたらしました。事態は徐々に改善に向かいつつありますが、当社では関係機関と協働し、健全な労働環境と安全な運航を守っていきます。

 

 コロナ禍は当社の事業に大きな影響を及ぼしました。一方で、その危機的な状況を、事業計画の抜本的な見直しやサステナビリティの強化への取り組みと繋げることができました。逆境は変革のチャンスです。不確実性が高い環境はまだ続きますが、変化を敏感に感じ取り、アクションを起こし、未来に貢献する企業グループを目指しましょう。

 最後になりますが、川崎汽船グループの皆様とご家族のこの1年間のご健勝とご多幸、またすべての船舶の安全運航を祈念して、私からの新年のあいさつといたします。