2019年4月1日
川崎汽船株式会社
代表取締役社長 明珍 幸一
皆さん、入社おめでとうございます。
本日より皆さんを川崎汽船の社員として迎えるにあたり、役職員を代表して一言ご挨拶申し上げます。
実はわたくし自身も今日が社長に就任して初めての日であり、皆さんと同じくらい緊張し、且つ期待に胸を膨らませているところです。
皆さんが入社される川崎汽船は、今年創立100周年を迎えます。この1世紀に亘る航海は常に順風満帆な航海だけではありません。幾多の荒波に直面しながらも、その困難をKラインスピリットに表される「進取の気性」、「自由闊達」、「自主独立」の精神により乗り越えて来た歴史があります。まず、その歴史に触れたいと思います。
川崎汽船は、1919年に今の川崎重工業の前身となる川崎造船所が建造した11隻のストックボートを元手に事業をスタートしました。第一次大戦勃発に伴う船腹需要を見込んで発注したものの、大戦が早期に終結することとなり、11隻の船隊を抱える事態となりました。この新造船を外国船社に売却するオプションもあったのですが、将来の世界貿易の需要を見据えて、自ら海運会社を興すこととなったのです。「進取の気性」を発揮し、船腹の余剰という逆境を逆手に捉えて誕生した会社です。
その後の第二次世界大戦は、日本、そして当社事業にも壊滅的な打撃をもたらしました。なかば沈没していた『聖川丸』を引き揚げて主力船隊として復活させ、事業を復興することで戦後の苦境も乗り越えることができました。世界経済の発展とともにお客様の要望、社会のニーズも大きく変わるなか、当社は常に柔軟な対応を進めてきました。その一例は専用船化によるサービスの高品質化です。
なかでも、川崎汽船は自動車専用船の分野では他の船会社に先駆けて完成車輸送に特化した専用船を建造し、スケジュールの安定と貨物の安全輸送を実現しました。従来、日本からは自動車を輸出、帰りには穀物などバルク貨物を積むカーバルカーによる配船が標準でした。しかし完成車輸送に特化した専用船で運ぶことにより飛躍的にサービス品質を高め、日本の輸出産業の発展に寄与してきました。コンテナ輸送の分野では、冷凍・冷蔵貨物も含めて海上コンテナのままアメリカ大陸を横断する鉄道を使ったダブルスタックトレインサービスや、それを支える北米での自営ターミナルの設立など日本船社として初の取り組みを推進してきました。バルク輸送の分野においては、水深の浅い港に位置する多くの日本の火力発電所に対応できる、幅広で喫水が浅い石炭専用船を当社が初めて建造し、現在ではこれが電力炭輸送では基本船型となっています。
このように、川崎汽船は変化を好機と捉えて「われ先汽船」とも言われるように他社に先駆けた取り組みを進めて来ました。これら先達の挑戦を改めて考えてみると、その根底には高いアンテナを張り巡らして情報を収集し、お客様の要望を聞きながら共に考え、常に過去にとらわれずに新しい発想で課題に取り組む。そしてそれを実現することで、お客様に提供するサービスの品質、そして効率性を高め、自らの差別化に努めてきました。
現在においては、急激な速度で進むデジタル技術の発展で我々を取り巻く状況も大きく変わり、ハードだけでなくソフトでの対応も企業勝ち残りの重要な焦点になりつつあります。そのために当社では、今年から専門組織も立ち上げて最新の情報通信技術や先端技術を取り入れることで、安全で高品質な輸送サービスに更に磨きをかけるべく取り組みを始めているところです。
会社の事業構造も、コンテナ船事業は昨年4月にスピンオフし、邦船2社と統合会社を設立することで規模の利益を享受し、競争力の強化を図る体制を整えました。また、港湾運送事業においては外部の知見と資本を取り入れることで更なる事業の拡大を促進するなど、当社の強みを活かした事業ポートフォリオの入れ替えに取り組んでいます。次の100年も変貌を続けていくこととなりますが、過去の歴史を学びつつ、従来の発想にとらわれずに大胆に変えるべき点は改めていきたいと思います。
新入社員の皆さんには、『われ先汽船』の一員として、物事に先んじて取り組んで頂くようお願いします。従来のやり方をそのまま踏襲するのではなく、何故そのような対応が求められるのか、より良いやり方はないのか。お客様の要望に応えているのか。常に問いかけ、疑問があれば、どんどん上司や先輩に相談してください。失敗を恐れず新たなチャレンジに取り組む「進取の気性」を胸に、アンテナを高く張り巡らし、緻密な準備に基づく解決策をお客様に提示できる海運のプロとして業務に取組んで頂きたいと思います。
新たに入社される海上従業員の皆さんは、諸先輩方が長年培ってきた「安全運航」への取り組み、船舶に関わる技術をしっかり引き継いで『安全』を最優先で取り組んでください。我々の使命はお客様から託された大事な荷物を大切に、そして安全に目的地まで送り届けることです。安全が全ての出発点となることを強く心に留めるとともに、常に高い品質のサービスを提供するよう努めて頂きたいと思います。
最後に社会人の先輩として一言付け加えさせて頂きます。心身の健康には十分留意してください。学生時代とは大きく環境が変わり、戸惑うことも多いと思いますが、自らが責任を持って体調管理に努めたうえで、業務に臨むようお願いします。
本日は入社おめでとうございます。