2019年1月4日 

 

川崎汽船株式会社
代表取締役社長 村上 英三

 

川崎汽船グループの皆様、新年あけましておめでとうございます。
2019年のスタートにあたって、ひと言ご挨拶申し上げます。

 

 2018年の世界経済は、緩やかな回復基調が持続しました。中南米経済の減速やトルコやアルゼンチンでの通貨安など、新興国の一部に不安定な状況が見られましたが、堅調な米国経済などの下支えによって、世界経済は総じて底堅く推移してきました。
 一方で近年台頭してきた保護主義的な動きがより顕在化し、特に米国の自国第一主義の政策展開は大きく世界を揺るがしています。通商面において、米国は貿易の不均衡を理由に北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉を行い、また中国からの輸入に追加関税を課し貿易摩擦に発展するなど、グローバル経済を大きく混乱させており、私たちのビジネスの基盤である貿易に及ぼす影響が懸念されます。
 今年の世界経済は前年並みの緩やかな成長が続くのではないかと見られていますが、米中間の貿易摩擦や、イランならびにサウジアラビアの国際的緊張の高まりによる中東情勢の不安定化、英国のEU離脱問題などによって不確実性が高まっており、こういった情勢の変化に注意を絶やさず、当社事業への影響を考え機敏に対処していくことが求められています。

 

 世界経済が堅調に推移するなかで海上輸送の需要が緩やかに拡大する一方、ドライバルクやコンテナ船では歴史的な市況低迷を経て船腹供給圧力は弱まっており、国際海運における需給環境は徐々に改善を見せています。
 本年度上期の当社業績においても、ドライバルクセグメントでは堅調に推移した市況を背景に、従来から取り組んで来た構造改革も相俟って黒字基調を確立することができました。またエネルギー資源セグメントでは、中期経営計画で目指す方針に沿って、中長期契約による安定収益を積み上げることができました。一方で製品物流セグメントでは、物流事業および内航・近海事業が安定的な収益を上げましたが、コンテナ船事業統合会社「OCEAN NETWORK EXPRESS」(ONE)が、事業統合によるシナジー効果は着実に現出しているものの、営業開始当初のサービス混乱の影響で積高が想定を下回って損失を生じました。加えて自動車船事業において、欧州発航路の運航効率低下、資源国・新興国向け荷量の減少などのため損失を計上しました。この結果、会社全体では通期においても赤字に転ずる予想となっています。

 

 3ヶ年の中期経営計画で重要課題として掲げている「ポートフォリオ戦略転換」、「経営管理の高度化と機能別戦略の強化」、「ESGの取組み」をひとつひとつ着実に取り進める方針に変更はありません。
 一方で今年度上期の厳しい経営状況を踏まえ、緊急的重要課題として「ONE社収益体制の立て直し」、「自動車船事業の収益性改善」、「選択と集中に向けた取組み」を下期に集中的に取り進めています。ONEはお客様からの信頼回復に真摯に取り組み、積高減など一時的悪化要因の克服と貨物ポートフォリオ見直しなどの構造改革を行うことで、確実に収益を上げられる体制に建て直しを図ります。また、「選択と集中に向けた取組み」では、経営資源をドライバルク、自動車船、エネルギー資源、物流・関連事業の4本柱に徹底的に集中するべく、コンテナ船事業スピンオフ後の当社グループの将来の姿を見据え、事業の選択と資産入替えの取組みを進めています。
 これらの緊急的重要課題にスピード感をもって取り組み、確実に成果を出すことで、来期以降の当社の収益力は着実に回復に向かうと考えています。

 

 そしてその先、当社の競争力を高めて成長につなげるためには、当社の強みであるお客様との関係をさらに強固にしていかねばなりません。このために、当社事業であるドライバルク、自動車船、エネルギー資源、物流・関連事業は、規模の拡大を追うのはなく、社会の変化に対応したビジネスモデルの構築やAI/IoTなどデジタル技術への対応など、お客様の変化を先取りし、当社独自の新たな価値を創造する事業へと変革を進める方針です。この課題に有機的に取り組むために今月から新しい組織を立ち上げ、デジタル技術の活用についてはAI・デジタライゼーション推進室が、またグループ横断的な戦略やお客様対応はマーケティング戦略室が、それぞれ連携を取りながらグループ・社内外の部署と協働し、お客様に新たな付加価値を提供していく体制とします。独自の付加価値の提供によってお客様との関係をより強固なものとすることで、中期経営計画で目指す安定収益の長期的な基盤を強化し、安定的な経営につなげていきます。言うまでもなく、安全運航の遂行による高品質なサービスの提供は当社の礎であり、その徹底に努めて行きたいと思います。

 

 今年当社は創立100周年を迎えます。この歴史を振り返ると、日本からの自動車輸出の本格化に応えるために建造された日本初の自動車専用船「第10とよた丸」や、日本の電力会社向けに最適な船型を開発した幅広浅喫水の石炭船「コロナシリーズ」など、お客様の声に耳を傾けた上で、当社独自の価値を加えて変革を生み出した船やサービスが少なくありません。
 100周年を迎える機会に当社グループのこのようなDNAを改めて見直し、AIやIoTも含めた新技術やグループを挙げたマーケティングという新たな視点を加えて、独自の価値を提供し続ける企業グループを目指していきたいと思います。

 

 足元の業績は厳しい状況ですが、やるべきことは明確です。グループ役職員が一丸となって果たすべき課題に対処し、次の100年に向けて力強く踏み出しましょう。

 

 最後になりますが、川崎汽船グループの皆さんと、そのご家族のこの1年間のご健勝とご多幸、またすべての船舶の安全運航を祈念して、私からの新年のあいさつといたします。