本日は、全体を大きな3つのパ-トに分けて、ご説明申し上げます。まずは当社を取りまく事業環境についてご説明します。2番目に通期業績・事業概況について説明申し上げます。最後に2022年5月に発表いたしました中期経営計画の概略ならびに進捗状況、さらに株主還元についてご説明申し上げます。

 

 
【当社を取りまく事業環境】
 最初に海運業の事業環境についてご説明いたします。
 このグラフは、1993年から2023年までの世界の海上貨物輸送量の推移を表しています。1993年の時点では約50億トンに過ぎなかった輸送量は、2023年には約120億トンとなる見込みです。30年間で約2.5倍にまで増えたことになります。世界の人口増加とともに経済のグロ一バルな相互依存が進展し、膨大な量の海上交易無しには、世界経済は成り立たなくなっています。右肩上がりのこのグラフからは、海運業が成長産業であるということが、お分かりいただけると思います。

 

 次にわが国日本にとって、海運が果たしている役割について見てみましょう。
日本の産業や日本人の生活は、海外から輸入される物資に大きく依存しています。エネルギーはほぼ100%、大豆は94%、木材も64%が輸入によってもたらされています。このような物資は合計で99.5%、つまりほとんどすべての物資が海上輸送によって、運ばれています。海運業が日本にとって、欠くべからざる社会的・経済的なインフラであることが、ご理解戴けると思います。

 

 続いて、当社を取りまく外部環境についてご説明いたします。画面上部に3つの主要なリスク要因を示しています。
米中デカップリングに代表される世界経済の分断。
エネルギ一価格の高騰あるいは乱高下。
そしてゼロコロナ政策解除後に中国経済が本当に成長軌道に回帰できるのかどうか。
この3点が、現在の当社にとって最も影響の大きい事業環境上のリスクだと考えています。ではこういった事象にどう備えればよいでしょうか。実は当社は2021年度までに実行した構造改革によって、これらのリスクが現実化したときに大きなロスの要因になる不経済船や不経済事業からの撤退を済ませており、相当程度の市況耐性を既に備えていると考えています。このようにリスクに対する耐久力を確保した上で、不況の時には戦略的に、好況の時は抑制的に、当社として競争力のある事業分野に経営資源を集中して投入していく方針です。

 

 

【通期業績・事業概況】
 まず当期2022年度の通期業績予想についてご説明いたします。スライド上段のマトリクスの通期予想という表題の数字をご覧ください。これは2023年2月3日に公表した最新の予想数値です。
・売上高9,400億円
・営業利益850億円
・経常利益6,600億円
・当期純利益6,500億円
営業利益は850億円を見込みます。主に自動車船事業の業績が大幅に改善し、対前年度比674億円改善する見通しです。経常利益は、上半期のコンテナ船市況が堅調に推移したことで、6,600億円を見込んでいます。この経常利益6,600億円と当期純利益6,500億円は達成ができれば、これまでのレコ一ドだった前年の2021年度の実績を上回る過去最高益となります。

 

 次の資料は、今年度のコンテナ船事業を除いた、当社自営事業の店費前の予想経常利益が前年度の2021年度と比べて、どれだけ改善するかを、その要因とともに示したものです。2021年度の自営事業の経常利益455億円が、今期末では1,000億円になる見通しです。総額で545億円改善していますが、そこから為替影響を除いた実力の収支改善額は406億円になります。

 

 画面の右側に部門ごとの収支改善の背景をまとめました。
・ドライバルクセグメントは不経済船処分を2021年度までに完了しまして、船隊の適正化、低コスト化を実現することができました。
・エネルギー資源セグメントは、オフショア支援船事業や、ケミカル船事業などの、採算性の低い事業からの撤退を完了し、中長期の契約の積み上げによる本来の安定収益が顕在化いたしました。
・製品物流セグメントのうち自動車船事業では、当社は老齢化した中小型船を処分し、大型船を確保することによってスペースの供給力と船隊競争力を増強しました。自動車船の需給の逼迫によって業界全体で運賃水準の適正化が進んでいることも業績改善に寄与しました。 

 

 続いて、当社事業のうち、コンテナ船事業、ドライバルク船事業、ならびに自動車船事業について、事業の概況や市況の動向を中心に少し詳しくご説明いたします。

 

(コンテナ船事業)
 まずコロナ禍以降今日までにおけるコンテナ船事業の需要サイドと供給サイドがどのように変化したか概要を説明いたします。
需要サイドでは、外出制限を伴う消費行動の制約やテレワークなど働き方の変容による消費動向の変化、いわゆる巣ごもり需要が生まれ、2022年8月頃までコンテナ船全航路で旺盛な輸送需要が継続しました。一方供給サイドでは、感染拡大に伴う労働力の不足などにより、海上輸送のサプライチェーンに目詰まりが発生し、港湾施設のみならず、コンテナの陸上輸送や保管に関わる、トラック、鉄道、倉庫などにおいても連鎖的に同様の問題が発生していました。この結果コンテナ貨物の滞留が常態化して、コンテナの供給量を大きく減少させていました。
2022年の秋口以降は資源価格の高騰などによる世界的なインフレ傾向や景気後退懸念から、欧米を中心に需要減退が顕著となり、これに伴い供給サイドでも港湾や内陸輸送の混雑が緩和傾向となり、正常化に向かっています。
 次のスライドは、中国の海運集会所であるShanghai Shipping Exchangeが毎週発表しています、SCFIというコンテナ船の短期運賃指標の推移を示しています。このグラフを見ますと、2021年春の、スエズ運河での座礁事故によって、コンテナ船の需給のひっ迫感が一気に高まり、運賃指標は史上かつてない水準まで上昇しています。その後サプライチェ一ンの混乱の鎮静化に伴って、ゆるやかに下降し始め、貨物需要が減少した2022年8-9月頃を境に、運賃指標が急角度で下落していることが分かります。足許ではコロナ禍前の2019年の運賃水準を保っている状況です。

 

 次に、コンテナ船の航路別の需要動向を見てみましょう。このグラフはアジア出し北米向け航路の荷動きの推移を2019年、20年、21年、22年それぞれの4つの折れ線で示したものです。2022年9月以降は荷動きが急減してはいますが、コロナ禍前の2019年と2022年を年間の累計ベースで比較すると1年間の荷動き量は2022年において約20%増加しています。
次はアジア出し欧州向けコンテナ航路の荷動きの推移です。2022年は北米航路と同様に9月以降に荷動きが下落しています。

 

 次のスライドでは、フランスの海事調査会社アルファライナー社による、コンテナ船の需要と供給の、それぞれの伸び率の実績と見通しを示しています。
・2021年の実績を見てみますと荷動きは旺盛で、全世界の需要は6.7%の伸び、その一方で供給は4.5%の伸びに留まっておりました。
・2022年は後半の需要減退の影響もあり、需要は0.9%の伸びに留まったのに対して供給は4.2%の伸びとなりました。
・2023年の予想数値を見て見ましょう。需要の伸び率2.7%に対して供給の伸び率は大きく8.2%と予想されています。需要と供給の伸び率の差である需給ギャップは5.5%にもなります。
 2023年の供給側の伸び率は、単純に竣工予定の新造船の増加分だけを考えると、8%内外という高い比率になるのですが、供給を実質的に縮小させるかもしれない要素が3つあります。
・1つ目はCII(CARBON INTENSITY INDICATOR)という個別の船毎の燃費実績に基づく船の格付け制度が2023年1月1日から導入されたことです。格付けを上げるために船を低速で運航させたり、場合によって引退する老朽船が増えたりすることも予想され、船舶の供給が引き締まる可能性があります。
・2つ目はコンテナ新造船の竣工を延期する動きです。現在足許の運賃水準が新造コンテナ船を発注したときよりも下がっているため、場合によると新造船の竣工を遅らせて、運賃マ一ケットの回復を待つという動きが出る可能性があります。
・3つ目は老朽コンテナ船のスクラップ数の増加です。過去2年間コンテナ船が不足していたため、老朽船も運航されて来ましたが、供給が需要を上回る局面になると例年以上に老朽コンテナ船のスクラップが進む可能性があります。
様々な調査会社の予測数値を見ても2023年の需給ギャップ予想は2%から7%と幅が広く、現段階では、2023年のコンテナ船マ一ケットに対する強弱の見方が分かれている状況です。

 

 次に、既存のコンテナ船船腹量に対して新造コンテナ船発注残高がどれくらいあるかを見てみましょう。この青色の折れ線グラフは全世界の既存コンテナ船の船腹量合計に対して、これから建造される新造コンテナ船の船腹量合計の比率が何パ一セントで推移して来たかを表したものです。2023年1月時点では今世界で運航されているコンテナ船船腹量の約29%に相当する新造船が、建造あるいは契約されていることを示しています。2020年から2021年にかけて、コンテナ新造船の新規発注は短期間で増加しました。しかしながら足元では発注の勢いは一服しており、新造コンテナ発注残高比率が60%を超えていた2000年代後半の発注ブームと比べると、まだ相対的に低い水準に留まっています。

 

 次のグラフは2022年6月時点でのコンテナ船運航船社の船腹量を2015年時点と比較したものです。2015年時点では18社が競合していましたが、合併、買収や統合が進んだ結果、2022年6月時点では12社にまで減少しました。コンテナ船社同士が共同運航するアライアンスも世界で3つに集約されました。このことでスケ一ルメリットを享受しながら、効率的で機動的な配船サ一ビスが提供できる体制になっています。

 


(ドライバルク事業)
 次にドライバルク事業についてご説明いたします。まずコロナ禍以降のマーケット動向について概説します。
 ドライバルクの荷動きについては、コロナ禍による世界経済の活動停滞により、2020年の前半は需要が大きく落ち込みました。2020年下半期より、中国の経済刺激策の発動に伴い、輸送需要が回復しました。また中国が豪州産石炭の輸入を禁止したため、豪州以外のカーゴソースから大量の石炭を輸入する必要が生じました。このことでトンマイル、すなわち輸送距離が従来より長くなったことも、ドライバルク船の需給を引き締める材料になりました。また、コロナウイルス感染拡大に伴い、各国で厳しい国境封鎖や検疫体制が敷かれ船員の交代が困難になり、積地での入港制限や滞船時間が延びるなど、実質的に供給を引きしめる要因も生じました。その後、ドライバルク船の需給は堅調に推移しましたが、2022年後半に至って中国によるゼロコロナ政策の継続や不動産不況による内需の停滞により、市況は弱含みに転じました。

 

 このスライドは、英国のバルチック海運集会所が公表しているドライバルク船運賃指標であるBaltic Drybulk Index(BDI)の推移をグラフで示したものです。先ほどご説明したドライバルクの市況の推移をご覧いただけます。

 

 次にドライバルク船の今後の需給動向についてご説明します。グラフは共に英国の海運情報提供サービス会社CLARKSONSの資料を引用しています。左側のグラフをご覧ください。こちらは船型サイズ別のドライバルク船腹量の、対前年成長率の推移を示したものです。足元2022年以降のドライバルクの船腹量の成長率は総じて5%未満であり、過去20年間の実績と比較しても、最低レベルで推移しています。環境規制に伴う原油燃料船に対する将来の不確実性もあり、新造船の発注が、手控えられたものと見られます。次に右側のグラフは需要と供給の伸び率の予想を示したものです。2023年以降は、青い線で示した需要側の伸び率が、赤い線で示した供給側の伸び率を、上回って推移する見立てとなっています。需給の観点からは今後ドライバルク船は需給が逼迫し、運賃市況にはプラス材料となることを示唆しています。

 

 

(自動車船事業)
 次に、自動車船事業についてご説明します。2020年前半のコロナ感染拡大初期においては、世界各国で自動車の生産台数並びに海上輸送台数が一時的に大きく減少しました。その後2020年後半には北米や豪州を中心に自動車の販売が急回復しましたが、コロナ感染拡大による半導体や自動車部品の供給不足の問題があり、日系OEMや欧米メーカーは自動車生産を急回復させることは出来ませんでした。しかし2021年頃からバッテリーEV(電気自動車)を中心に中国から輸出される自動車の台数が急速に伸び始めました。一方船腹の供給サイドでは、コロナ禍が発生した2020年には多くの自動車船運航会社が老齢船を中心に一斉に運航船腹数を減らし、新造船の発注にも慎重になります。このため2021年後半以降に船腹需給がひっ迫し始め、自動車船のスペースが世界的に不足する状況となりました。足元でも、完成車の中国出し海上荷動きは急速に増加しており、自動車船のスペース不足は一層深刻化しています。

 

 次のスライドは、概観で説明した通り、当社が輸送した自動車の輸送台数の推移を示しています。グラフには記載はありませんが本年度2022年度にあっても未だコロナ禍前の水準には戻っておりません。しかしながら、現在自動車船は世界的に需給が逼迫しているため、結果的に運賃価格は以前より高い水準を維持しています。このため今年度の当社の自動車船部門は、19年度より少ない輸送台数であっても、事業部門としての過去最高益を更新する見通しです。

 

 次に、当社自動車船のサイズ別船隊推移を見てみましょう。この棒グラフは、下に行くほど大型の船型になり、上に行くほど小型の船型になります。2012年と2021年の棒グラフで色分けされた船隊構成を比較してみると、1隻で完成車を7000台や6000台積載できる、グラフの青や緑で示された、大型船の比率が増えているのが分かります。
今後も環境対応を取り入れたLNG燃料やゼロエミッション燃料で運航が出来、輸送する自動車1台当たりのコスト競争力で勝る大型船を中心に船隊整備を進めていく方針です。

 

 

【中期経営計画の概略並びに進捗状況、株主還元について】
 ここからは主に、当社が2022年5月に発表した中期経営計画の概略並びにその進捗、また株主還元方針についてご説明したいと思います。

 

 まず、経営管理指標についてご説明いたします。企業価値向上に向けた取り組みを定量的に管理していくため、自己資本利益率ROEは10%以上を全事業を通じて持続的に達成するようにします。収支目標としては本中期経営計画の最終年度である2026年度に、経常利益1,400億円を達成し、以後市況の変動があっても安定的にこの水準以上の利益を維持することを目指します。経常利益1,400億円の内訳としては、当社が主体的に関与する自営事業で700億円、当社が株主として関与するコンテナ船事業で700億円の利益確保を目指すものです。また、最適資本構成の観点から、資本効率の最適化と、不況時においても戦略的な資金調達が可能となる財務の健全性を両立させます。最後に株主還元方針として、中期経営計画の対象期間となる2022年度から2026年度までにトータルで4,000億~5,000億円規模の株主還元を進めます。最適資本を常に意識し、企業価値向上に必要な投資及び財務の健全性を確保の上、適正資本を超える部分については、キャッシュフローを踏まえて、積極的に、自己株式取得を含めた、株主還元を進めます。

 

 次に、ROE10%・経常利益1,400億円を達成するための全社的な事業戦略について説明します。中計策定に当たっては、当社の強みと弱みを分析し、各事業の役割を明確化した上で、当社が得意とする顧客密着型のビジネスモデルが成立し、環境対応力を活かして成長を実現できる事業分野に、集中的に経営資源を投入することにしました。ご覧戴いているこの資料では、当社の事業を5つのジャンルに分けて各々についての事業戦略を示しています。まず一番左側の成長を牽引する役割を担う鉄鋼原料事業・自動車船事業・LNG輸送船事業の3事業については、顧客の低炭素・脱炭素化のニーズを捕らえることで長期の安定的な取引関係を築き、会社収益の柱にしていきます。既存顧客のみならず、新規顧客のシェアも獲得することで、市場成長を上回る成長を遂げていきます。次の「スムーズなエネルギー転換をサポートし新たな事業機会を担う役割」には電力炭、石油、LPGなどエネルギー原料の輸送事業が該当します。事業リスクの最小化を図りつつ、新エネルギーの輸送需要へ対応していくことを考えています。次の「稼ぐ力の磨き上げで貢献する役割」にはバルクキャリア・近海内航・港湾物流事業が該当します。この事業分野ではリスク資産への投資は限定し、市況耐性を高め、収益力を磨き上げることで、市況が悪化しても収益を確保できる事業体制を目指します。次の「株主として事業を支え収益基盤を安定させる役割」にはコンテナ船事業が該当します。オーシャンネットワ一クエクスプレス社への人的支援を継続するとともに、株主としての経営ガバナンスを通じてONEの企業価値の最大化を図ります。最後の「当社の強みを生かせる分野での新規事業領域拡大」に該当するのは風力発電支援船事業などの当社のスタ一トアップ型の新規事業の選別・育成を指します。

 

 次に、事業戦略の前提となる投資計画について説明します。2022年度から2026年度までに、累積投資額として5,200億円を予定しています。環境と成長を牽引する役割を担う事業に重点を置き、鉄鋼原料事業・自動車船事業・LNG輸送船事業の3事業に事業投資枠5,200億円の約8割弱を投入します。一方、環境投資という切り口でこの投資計画を仕訳して見ますと、5,200億円のうちおよそ6割に相当する3,100億円を充てる計画となります。成長を牽引する役割を担う3事業に投資を集中させることにより、低炭素・脱炭素化を機会とする競争優位性の確立を目指します。

 

 次に当社の資本政策とその一環としての株主還元策について説明申し上げます。当社は配当性向のような固定的で定量的な株主還元フォ一ミュラを提示しておりません。稼得した営業キャッシュフローの配分方法としては、まず企業価値を向上させる事業投資を最優先で行います。その次は財務の健全性指標であるシングルAの格付けを維持するために必要な内部留保相当分を確保することに充当します。最後に適性資本を確保した上で、2022年度から2026年度の5年間で、自社株取得を含めて、総額で4,000億~5,000億円規模の株主還元を実施する方針です。

 

 次は、本年度の株主還元政策の最新の進捗状況です。2023年2月3日の第3四半期決算発表の折に期末配当予想を一株当たり300円、通期では確定済の中間配当100円と合わせて400円配当とすることを発表いたしました。当期は中期経営計画の初年度に当たりますが、幸いにも利益水準並びに営業キャッシュフローが期初の予想を大きく上回っています。資本構成の適正化並びに資本効率の改善という観点からは、その超過分の相当部分を株主還元に回すべきだと判断し、配当の増額を決定するに至ったものです。また自己株式取得については、2023年1月末時点において、金額ベースでは784億円相当、株数ベースでは3,179万株相当の自社株取得を完了しています。取得した自己株式については原則として消却することを予定しています。

 

 最後に当社の低炭素・脱炭素化への取り組みについて、ご説明いたします。当社では「環境ビジョン2050」というプロジェクトの下で、2030年の目標としてCO2排出効率2008年比 50%改善を目指しており、こちらは既に目標達成が視野に入っている状況です。さらに2050年目標としてGHG排出量ネットゼロへ挑戦することを目指しています。このため当社が排出するCO2を削減する「自社の脱炭素化」と当社が展開する事業を通して脱炭素化社会実現の一端を担うことを目指す「社会の脱炭素化」の2象限に分けてアクションプランを取り進めています。
 「自社の脱炭素化」の取組のうち、CO2を排出することなく運航するゼロエミッション船の推進と風力を利用したカイトシステムSEAWINGの開発の2つについて説明いたします。
 まず将来のゼロエミッション船実現に向けて、過渡期に当たる2020年代は、実務上の対応としてはLNG燃料船の導入拡大を図るのが現実的ですので、当社は2030年までに約40隻のLNG燃料船を投入する方針です。LNG燃料船は、従来の重油燃料船に比べて約25%から30%と大きなCO2排出削減効果があります。
 その先のゼロエミッション船についても、アンモニア燃料船と水素燃料船の基礎的な開発に着手しています。海運会社の開発努力だけではなく、世界中の港へのゼロエミッション燃料の供給網が整備されない限り、新燃料での航海は現実的には出来ないことになります。そのような供給網が整備される時間なども勘案しますと、実際に新燃料船が社会実装されるのはアンモニア燃料船で2025年以降、水素燃料船では2030年以降になるものと見ています。

 

 「自社の脱炭素化」に向けたもう一つの取り組みとして、自然エネルギーである風力を利用した、自動カイトシステム「SEAWING 」の活用も進めていきます。SEAWINGはフランスのAIRBUS社から分社したAIRSEAS社との共同開発による新しい風力推進システムで、本船に取り付けることで20%以上のCO2排出削減効果が見込まれます。LNG燃料船と併用することによって、CO2排出量を45%から50%と、大幅に削減することを目指しています。

 

 最後に「社会の脱炭素化」へ向けたアクショプランの例としてCCSすなわち二酸化炭素回収貯留事業への取組について説明します。当社は回収した二酸化炭素を液化して海上輸送するという世界初のプロジェクトに参加することが決まりました。ノルウェーの二酸化炭素回収貯留業者NORTHERN LIGHTS社と液化CO2輸送船2隻の傭船契約を締結し、2024年から運航を開始する予定です。欧州産業界のCO2排出者からCO2を回収し、NORTHERN LIGHTS社の運営する貯留基地まで液化CO2を輸送することになります。当社の永年の液化ガス輸送の安全性が評価され、欧州の船社でなく日本の川崎汽船が起用されたことは、今後わが国においてCCSに取り組む上で極めて意義深いことだと思います。